「朝ドラのような小説です」と、あとがきで、そう作者さんは書かれています。そのとおりだなあ、とわたしは思うのでした。とてもいい意味で、ご自分の作品を客観的にとらえていらっしゃると思う。
舞台が維新前後の日本ときくと、多くの人は波乱万丈、世直し思想と英雄達の漢気うずまく歴史ロマンを思い浮かべるんじゃないでしょうか。そのころを舞台とする歴史ドラマのほとんどが、そうだから。
でもこの作品は違います。焦点があてられているのは、ミドルティーンのお嬢様とその従者の少年の、出会いと日常、そしてひとときの成長の過程。
野望うずまくサスペンスで「つづきはどうなる」とハラハラさせてくる作品ではない。でもそれだけが小説ではない、とわたしは思います。かわりに読者が毎日あるいは毎週、安心して会いにくることのできる主人公たちがここにいます。主人公たちのやりとりは、ういういしく、ちょっと滑稽で、読んでいて頰がゆるみます。
このけっして派手ではない「日常」のデッサンを可能にしているのは、しかし、綿密な時代考証です。派手なドタバタがないからこそ、風景、当時の風習、衣装その他の小道具、そして人と人との上下関係やコミュニケーションのあり方を、「背景」としてしっかり固めなくてはいけません。それができているすごさ。
とはいえすいません、わたし日本史ぜんぜん知らなくて、この考証のすごさがちゃんとわかっていない。でもすくなくともわたしのような素人を圧倒してしまうような、「あの時代」の空気感を醸し出すことに成功していると思います。
しだいに変化していく時代。しだいに変化していく二人の関係。
ぜひぜひお楽しみください。
(第一章『第一章 天高し』まで読了しての感想です。ここまでで十分素晴らしかったのと、物語の区切りがついていること、そしてカクヨムコン終了前に一人でも多くの方に読んで欲しいと思ったからです)
あまりに素晴らしくて、「作者様いったい何者?」とググってしまいました。
私は恥ずかしいくらい日本史が駄目で興味もないのですが、それでもとても面白く読めるのです。
歴史的な知識が沢山盛り込んであります。
でもそれらがすべて自然に物語に溶け込んでいる。
そしてキャラクター達の魅力的なこと!
ストーリーと構成も素晴らしいです。
きちんとした「小説」としてみた場合、第5回カクヨムコンでこれを超える作品はないのではないかな。それくらい素晴らしい。
今レビューを書きながら、「断トツ」という言葉の類義語を探したほどですよ。
もっと良い言い回しはないかなって。
「圧倒的」が一番しっくりくるかしら。
散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする
たぶん一度は聞いたことがあるはずのこの都都逸(はやり歌)に代表される、断髪令が出たまさに明治4年(1871年)、この物語はスタートします。
主人公は、廃藩置県で東京府になった江戸に、小姓として奉公に上がる予定できた12歳の少年、周(あまね)くん。
意気揚々と上京したはずが、ところがどっこいついた早々、屋敷を明け渡せと政府から追い出された主人を追って、周少年は中屋敷から下屋敷のある青山へ移動します……。
約150年前の明治になったばかりの東京。
皆さんどんなイメージ持ってますか?
わたしはどうも文明開化の音がした華やかな一部のイメージが植え付けられていたようで、荒廃した江戸=東京を知りませんでした。
でも大丈夫。
周くん視点で、人がすっかりいなくなってしまった荒野のごとき東京の姿を見ることができます。
穴だらけの塀から抜け出した先でひょっこり出会う主人。
御一新のどさくさやお家騒動に巻き込まれた子供たちが、それでもしたたかに、伸びやかに、文明開化の中で自らの道を手探りで、西洋文明に触れていく様は痛快でもあります。
途中、不思議の国のアリスが出てきたり、個人的には湯島聖堂の博覧会シーンなどは注目の描写です。
そしてそれらがパズルのピースのようにはまっていき、サムライガールとサムライボーイがどうなっていくのか。
どうぞ明治一桁年代の空気を満喫しながら、その世界を堪能してください。
朝ドラがお好きという作者さんに合わせれば、「あさが来た」好きにはおすすめです。「西郷どん」も見ていればばっちりかもしれません。
激動の明治時代――大名だった家を舞台に出会った、二人の物語です。
第1章は二人の出会い、第2章は共に過ごす二人、第3章は少し、だけど大きく成長した二人が描かれます。
時代も国も取り巻く環境も、二人の周囲は大きく変わっていきます。
明治時代を知っている方なら「これか!」と思う出来事も多いでしょう。
ハイクオリティな文章は、読者に読ませる強い力を持っています。とにかく文章の音が綺麗!
時代物に疎い私でも、すらすらと楽しく読ませていただきました。
終盤は読み終わってしまうのが勿体ないと思うくらい、話にのめり込みました。
読後感も爽やかで胸がすく思いです。この二人らしいエンディングでした。
もう一度読み返したいと思う作品です。