こりゃ敵わないわ……

この物語を読んでいて、最初に思い付いた感情は、純粋な嫉妬でした。

男女の恋愛には秘め事が多い。
一人は、大手で大量な仕事をこなすサラリーマン。片やお世辞にも大きなとは言えない町工場の次期社長。
そんな2人にも秘密はありました。
夜の静けさが似合う。または、過ちを犯しやすい陰鬱な昼下がりも似合う。

そんな雰囲気の物語の中で、キャラクタたちはちゃんと生きていて、喜び、苦しみ、哀しんでいました。
日常の中の非日常ではなく、非日常の中の日常。短編にまとめられた非日常の中で、作者様が切り取った、日常でした。
その切り取りかた、描きかたが、すべてが素晴らしい。冒頭でも述べた通り、素直に嫉妬しちゃいました。
どうしたらこのような作品が描けるのだろうか、と。

「公差」という用語は聞いたことはあります。
昔から工場と縁の合った2人だからこそ、描く将来や関係をそれになぞらえる。

突飛な設定やプロットがなくとも、どうしてこうも惹き付けられるのか。
この作品を読めた幸せの100倍くらい、私の心の中で悔しさもありました。

物書きの隅っこでのんびりチマチマしている私にとって、K.O.必然の強烈な作品。

私も頑張らなくては……



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