第九話 だから紅
「もしもし、あたし。うん。そう。校舎の一階で、惜しくらまんじゅうでもしてるんでしょ。白スーツはどう。うん。そう、殺せそうなんだよね。あぁ、半殺しにしたまま動けなくさせるのは意外ときついって、そりゃ、そうだよね。分かる、分かる。うん、ごめん。でね、申し訳ないんだけど、もう大丈夫だから。白スーツ殺してくれる。あぁ、図書委員長はねぇ、もういいや。あぁ、なんていうか、仲直りしたからさ。うん。そんなんじゃないよ、ただちょっと、もういいかなぁって。え。元気だよ、元気元気。なんであんたがあたしのこと心配してんの。いや、大丈夫だって。今度、紅茶送るって、そういうのはいいから、本当に大丈夫。だから、もう殺していいから。」
それが全てだった。
その日の夜はそうして終わった。
学校の結界が消えた瞬間、赤スーツの図書委員長はそのまま結界の外に出ていった。
赤スーツは元々、白スーツのなれの果てであるとか、スーツを殺しすぎた仕事人のなれの果てだとか言われている。
あたしには分からない。
気が付けば、不良男子は何の興味もなさそうにしていながら、どことなくあたしに気を使っているようだった。
「いいよ、別にそういうの。」
あたしは言う。
「はぁ。」
不良男子はそれだけ言って帰って行った。
あたしは、その後の書類の業務を全て担うことになってしまった訳だけれど、正直に、気にも留めていなかった。
機関長にはすべて話した。
特に、図書委員長が赤スーツ化したように見えた件について。
そして。
その情報の対価として、VAPRONDONの件については不問となった。
少しだけ調べたところによると。
赤いスーツの正体は。
所説あるらしい。
確かに、生前の人間の形をしていたり、他のスーツのように結界を張ることができないなど多くの要素はあるが、一番それらしいと考えられているのは。
そもそもスーツではない、ということ。
つまり、また別の生き物であり、この世界にとっての不純物ということらしい。
仕事仲間の中には、これからは黒スーツや白スーツ、紺や灰色などの戦いが続くのではなく、最後は赤スーツとの戦いになるのではないか、と推測しているものもいる。
それは、赤スーツが、他のスーツ達と違い、戦わない、という選択肢も当然のように取って来る自由な部分にあるのかもしれない。
生きているものを相手にしなければならない、そんな恐怖。
もちろん、他のスーツたちが生き物ではない、とは言わない。けれど、赤スーツはより、生きている感じがするのである。標的としてこちらを見ているのではなく、興味を持ってこちらを見ているのである。
あたしは少しだけ、本当に少しだけ何かを勘違いしたのだろう。
自分のことを甘く見積もったのかもしれない。
誰にも相談せず、行動してきたことのツケが回ってきたのかもしれない。
「赤スーツと話をさせてください。」
機関長は笑っていた。
悔しいけれど。
上品だった。
姉が引っかかった意味がなんとなく分かる。
本部の地下は本当に、何があるのか分からない。実験途中のものが放置されていたり、そのまま動かなくなったままで修理されない器具があったり。
それこそ、地下であるはずなのに、天井に空が広がっていたり。
あたしは気が付けば一人だった。
エレベーターの中には一人だった。
赤スーツは一番地下にいる。
「どこにいる。どこにいる。どこにいる。」
あたしはエレベーターの扉に向かって、呟き続ける。
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