第四話 三つ目心中
白いスーツにも追われ。
不良男子にも追われ。
あたしは学校の中を走り回る。
途中壁に手を付き荒く息を吸うと、その隣を椅子が音もなく飛んで行った。そのまま、窓にぶつかると窓の破片をまき散らしながら、それこそ巻き付けながら外へと飛んでいく。
そのガラスの割れる音がない。
「逃げてんじゃねぇよ先輩よぉっ。探すのだりぃからさっさと出てこいよバーカ。」
あたしは物陰に隠れながら階段を静かにそして素早く駆け上がり、防火用扉を下した。大きな音が出てしまうが、これが白いスーツの男がやったのか、あたしがやったのかは分からないはずだ。近づこうにも警戒するだろう。
それに、防火用扉の所に来たところで、その隣の通路のノブも壊してある。来たところで、ここは通れない。
音がするから来てはみるが、結局通れやしないのだ。
分かりやすく遠回りを誘うトラップである。
あたしはある程度息を整えると窓から外を見つめる。
グラウンドの隅の木々の影に白いスーツの男がいた。
今はあそこにいるようだ。
そして。
こちらを指さして。
笑った。
その時、耳元で。
「何してるんですか。何してるんですか。何してるんですか。」
あたしは体を痙攣させるように動かしてから、直ぐに後ろへ振り返り、身構える。
「こんばんは、横取りに来ました。」
それは、別の高校の仕事仲間だった。
確か、図書委員長をしていると聞いた。
「あんた。なんでいんのよ。」
「助けに来ました。」
「横取りするとか言ってたじゃない。」
「すみません。口が滑りました。」
「スーツを殺しに来たわけ。」
図書委員長の右手には千切れた腕があり、左手には両耳があった。まだ痙攣していて引きちぎれた断面から何か漏れ出している。
誇らしげに見せつけてきた。
外をもう一度見る。
白スーツは左腕を失い、顔の両側面から白い液を垂れ流している。
「あんた、白スーツ、殺せんの。」
「行けますね。」
「いつからいたわけ。」
「スーツが出てきたら、外から入れなくなるのはご存知ないのですか。」
「じゃあ、あのシスターまがいが白スーツに引きちぎられるのも見てたわけ。」
「はい。」
「助けられたよね。」
「はい。」
「なんで。」
「靴ひもが緩ん。」
あたしは図書委員長の襟首を掴んでそのまま押し込み、壁に叩きつけて無理矢理持ち上げた。
自分の爪が割れる音と、剥がれる音がする。
「だから信用できないんだよ、お前らみたいなやつらは。」
「申し訳ございません。」
「思ってねぇだろ。」
「はい。」
「正直であればいいと思ってるだろ。」
「はい。」
「白スーツさっさと殺して来いよ。」
「はい。」
あたしは手の力を緩めると颯爽と歩いていく図書委員長の背中を見つめることもできなかった。
図書委員長は。
制服の崩れを直し、校章の角度を直し、オールバックの髪を無意味に撫でつける。
視界に入っていなくとも分かるその仕草が、頭にこびりついていることが何より許せない。
不良男子から逃げることも。
白いスーツを殺せないことも。
図書委員長の力を借りざるをえないことも。
憎くて、憎くて、憎くて。酷く頭の中の痛みが増幅し、少し固そうな壁の角あたりに米神から思いっきり叩きつけてやりたくなった。
図書委員長の何が嫌なのか。
決まっている。
そう。
あれと恋人と呼べる関係を築いていた過去がまず、憎くて。
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