第七話 水辺の議論にようこそ

 スーツは至る所に現れるため、多くの独立した機関が必要になる。

 あたしと不良男子、図書委員長、そして、死んでしまったけれど、シスターまがいが所属している機関が。

 DAGHARRY。

 ここは多くある機関の中ではかなりまともだと思う。金が集まり、そこに人が集まることで寄生虫のような人間ばかりになるのはその通りだし。組織の腐り方としてはおよそよくある方向で進んでいる。

 他の機関の名前を挙げるなら。

 GAFCASINO。

 MICAUDREY。

 VAPRONDON。

 そして。

 先ほど、不良男子が電話越しで言ったのが。

 VAPRONDON。

 機関同士は、当然スーツを殲滅するために協力し合う。

 というのはもちろん建前のため、他の機関に応援を要請した場合には当然、無視される。

 その上、仮に助けが来たとしても、他の機関に借りを作ったことになるため、機関長からかなり重めの罰を喰らうようになる。

 他の機関との連絡には百害あって一利なしである。

 ただし、場合による。

 特に金とかで、場合による。

「スーツの結界をすり抜けてこれるのは、たぶん、VAPRONDONのあれしかいないから。」

「まぁ、来るんじゃねぇっすかぁ。あの女も機関の中でかなり冷遇されてるし。独立してぇとか、毎晩言ってきてクソうるせぇし。」

 その瞬間、先ほど切った電話から、また連絡が入る。

 画面にはその子の名前。

 あたしは電話に出た。

「もしもし。」

 その瞬間、携帯電話を取られる。

「お久しぶりですわね。」

 電話の主はあたしの後ろに立つと、あたしの携帯電を取って通話を切った。

 不良男子が驚き、あたしも少し同じように驚いてしまう。

 本当に何度来られても慣れない。

「貴方たち如きが、私のことをここに呼び出すなんて、随分とまぁ、生意気なんじゃありませんこと。第一、VAPとDAGは犬猿の仲なのをご存知ないのかしら。」

 やって来た高飛車女は、羽の付いた扇子で仰ぎながら嘲笑を浴びせる。

 もちろん、あたし達くらいしか友達がいない。

 不良男子が舌打ちをしながら距離を取る。あたしに向かって視線を飛ばし、さっさと対応しろ、と言わんばかりだ。

「あのね。確かに、急な呼び出しをしたのは謝るわ。」

「私は先ほどまで機関の休憩室で優雅にティータイムを過ごしていたというのに。それを邪魔されて正直苛立っておりますの。余計は前置きは結構ですから、さっさと。」

「はぁ、マジうぜぇわ。先輩って一々話し方クソうぜぇんすよね。」

「そこの不良モドキは黙っていただけるかしら、耳が腐ってしまいますわ。」

「実家がトタン屋根のくせに。」

 だから、嫌なのだ。

 不良男子は下品に笑い、高飛車女もまた下品に笑い、あたしは苦笑する。

 あたしは状況をそのまま早口で説明していく。高飛車女は不良男子から一切目を離さなかったが、瞳の動きでこちらの話を聞いていることは分かった。

 そうでなかったら。

 この高飛車女が一晩で二万体の白スーツを殺したというレジェンド級の訳もない。

「まだ白スーツは、一階あたりにいるだろうと。問題ありませんわ。」

「行けるの。」

「白スーツは無論。ただ、その根暗図書委員長は一応他機関としての建前上。」

「それはこっちで。逃げられないようにしたいから、スーツ半殺しの結界残しで。」

 高飛車女は頷くと携帯電話を取り出し、電話を掛ける。そして、姿を消した。

 この場には二分もいなかった。

「あいつの能力って。」

「音が聞こえた場所に瞬間移動する能力。」

「へぇ。」

「で、瞬間移動するたびに無限増殖する能力。」

 その瞬間。

 校舎全体が大きく音を立てて僅かに沈下し、壁中にひびが入った。

 階段を通じて、下の方から何か硝子の割れる音や、岩の砕ける音、鉄の甲高い音が響いてくる。

「おしくらまんじゅうでもしてるんじゃないの。」

 目に見えて結界が薄くなる。

 僅かに外の世界がクリアになっていくのが分かった。

 無事に終わったとして機関長には怒鳴られるだろうし、向こう二年は無報酬になる。簡単に殺せるスーツを相手にするような仕事には回してもらえなくなる。

 不良男子はあくびをしながら背筋を伸ばして壁に寄りかかる。

 あたしは。

 グラウンドにいる図書委員長を見つめている。

 さて、ここからか。

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