第六話 バニーマン・サービス

「知らないと思うけど。シスターまがいは、スーツたちと裏で繋がってたの。」

「へぇ、マジ知らなかったっすわぁ。こそこそしてんなぁ、あのゴミとか思ってたんすけどねぇ。」

「あたしはあんたと違って、個人的な理由で仕事仲間を殺さないから。」

「なんすか、なんすか、急に。あたしとあんたは違うよ、発言っすか。やっべぇ、説教垂れ流しババアモードに入っちゃったんすか。うっわぁクソ面倒だわぁ。マジうぜぇ。」

 あたしは静かに林檎を手の中に作り出すと、不良男子に向かって見せつけた。

 不良男子が僅かだけ後ろに下がった後に、苦笑いをして両手を振る。

 そのまま動きを止める。

 十三秒ほどだったか。

「消してくださいってばぁ、その林檎。」

「何が。」

「だから、林檎だよ。」

「はぁ。」

「林檎消せって言ってんだよ、クソババア。」

「あたし、バカだから高二ダブってるけど。それのこと言ってるわけ。」

 廊下の向こう側に黒いスーツが三十体ほど生まれ、腕や足を絡みつかせながらこちらに向けて進んできていた。先頭の黒スーツの脇から隣の黒スーツの腕が伸び、その横から他の黒スーツの顔と足が捩じれて引っかかっている。

 あれで、まともに進める方が問題がある。

 あたしは林檎をそれらに向けて一体の黒スーツの顔と交換する。

 手のひらの上には黒スーツの顔。

 先頭の黒スーツの顔は林檎に代わって、黒い液体を流しながらその黒スーツの塊の中に消えた。

 頭の上の方をつかみ、不良男子に渡す。

「白スーツって、黒とか結構呼ぶらしいからね。やっぱ早めに殺さないと。」

 不良男子が、黒スーツの頭を受け取って人差し指を向ける。

「作戦立てるの、クソだりぃわぁ。ぱっと死なねぇかな、こいつら。」

 黒スーツの頭が音もなく、直線で飛び黒スーツの塊にぶつかる。

 一気だ。

 黒い液体が廊下中を飛び散り、黒に染め上げる。

 黒スーツの腕や足が痙攣して天井や壁に張り付いていたが直ぐに動かなくなった。

「ねぇ。それの出力ってどうにかならないの。」

 あたしは頬にかかった黒の体液をぬぐう。

「俺もそう思うんすよね。」

 不良男子の顔が、全て黒く染まり目だけが白く浮いている。

 目を見つめ合って、鼻で笑った。

「打ってくれてありがと、助かった。」

「いやいや。相変わらず、その能力チートっすよね。」

 あたしたちはその黒く染まった廊下にまで足を踏み入れて、その体液を手に付けた。どちらも能力は手から出すタイプなので、おそらく、これで問題はないと思う。少しでも有利にことを運ぶためには、こういう努力は欠かせない。

 あたしは汗をぬぐい、念入りに指に黒の体液を摺りこませる。

 不良男子はあたしに輪をかけて、より念入りに行っていた。

「勝てないわけじゃないんだよね。」

「何がっすか。」

「あの白スーツ。」

「え。マジっすか。」

「勝てるのをここに連れてきちゃうっていう方法があるからさ。」

「あぁ、あぁ。はいはいはいはい。分かってきた。分かって来たかも知んねぇ。なるほどなぁ、でも、いいんすか、それって。」

「まぁ、いいんじゃない。死ぬよりはね。」

「じゃあ、俺やりますよ。」

「え、いいよいいよ、あたしやるから。」

「どうしたんすか急に、謙虚ぶっちゃって。マジキモイんすけどぉ。」

「先輩だし。それに、ババアだし。」

「いや、嘘嘘、やめてくださいってぇ。もういいじゃないっすかぁ、今だけでも上手くやりましょうよ。なしなし、さっきまでのは、なしで。」

「いやいや、あたしの案だから、そこはいいよ、さすがに。」

 あたしは黒の体液が完全にしみ込み。肌色が出てきて乾いたことを確認すると携帯電話を取り出し、連絡をする。

 呼び出し音が二回。

 そして。

 三回目。

 不良男子にその携帯電話に奪われた。

「たまには、イケメンの後輩に頼ったって悪くねぇんじゃねぇっすか、先輩。」

「いや、ちょっ。」

「もしもし、はい、お疲れまっす。はいはい、で、すいません、本当に急で、あれなんすけど、VAPRONDON使えますか。はい、あぁ、いや、結構あれなんで、切羽詰まってるんすよね、はい。はいはい、大丈夫っす。分かってるんで、はぁい、さーせん、さーせん。はぁい。失礼しまーす、はーい。」

 携帯電話が返ってくる。

 あたしはため息をついて不良男子を睨んだ後、頭を下げた。なんというか、不甲斐ない。本当にただただ自分の価値が消えてなくなりそうな気分だった。

「ほんとに。ほんとに、ごめん。」

 不良男子が肩を叩いてくる。

 こういうことができる子だって、知らなかった。

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