第八話 指霧現満

 あたしは図書委員長を見つめながら、また鳴りだした携帯電話に気づく。

 そのまま視点をずらさないよう、携帯電話を耳に当てる。

「どうしたの、白スーツ殺しちゃったの。」

「何の話だ。」

「機関長ですか、失礼いたしました。」

「VAPRONDONにあの不良が、応援要請をしたそうだ。」

「はい。ですが、それはあたしがしたものです。」

「二人で責任を取れ。」

「はい。」

「どうする。」

「金は積みます。」

「二本だ。」

「払います。」

「これから毎月だ。」

「分かりました。」

「どう払う。」

「何をしても払います。」

「払えるなら、お前が何故そこにいる。」

「これがあたしの生き方です。」

「聞いていない。」

「すみません。」

 不良男子が携帯電話を奪おうとして、上半分をつまんだのがわかる。もう片方の手で、その腕を払った。頬骨で音量の部分を押してしまい、少しばかり雑音が混じる。

「赤スーツに会うか。」

「無理です。」

「生け捕りの赤がいる。殺して来い。」

「無理です。」

「大丈夫だ。赤は、女が好きだ。殺す前にしてくれるんじゃないか。」

「無理です。」

「じゃあ、どうする。」

「赤と話をつけます。」

「話しかけて、七人死んだ。」

「あたしの姉もその内の一人です。」

「俺が、話せとけしかけたからな。」

「あたしの姉は優秀でしたか。」

「俺に惚れて盲目的に信用するくらいには優秀だった。」

 あたしは姉の顔を思い出す。

 双子のうちの一人で、あたしよりも強く、あたしよりも純粋だった。嫌いなところはたくさんある。しかし、あたしの気づかないあたしの良いところをたくさん知っていた。

 あの姉を失くしたのは人類の損失だと思う。

 その損失を。

 この機関長が作り出したことは人類の汚点だと思う。

「目を瞑ってもいい。」

「は。」

「今回のことについて目を瞑ってもいい。」

「機関長だけで決められることですか。」

「VAPRONDONの機関長と話をつけた。目を瞑ってもいい。」

「そうですか。」

「VAPRONDONの所属員は、五百十二人いる。」

「去年、MANIPICIEとの合併で、人員が増えたことに何か、問題でも。」

「お前の元彼が、もう七十八人殺した。」

 あたしは図書委員長を見つめた。

 こちらを瞬きせずに見つめ、指をさしている。

 雨が降ってきている。

 グラウンドが濡れだし、校舎の中にも風の影響で吹き込んでくる。あたしは僅かに自分の顔にかかる水滴を意識しながらも、瞬きは極力しなかった。

 後ろで不良男子が何かを言ったが、無視をする。

「その、あたしの元カレの図書委員長が、殺害をしていると分かったのはいつですか。」

「知らん。」

「どういう意味ですか。」

「連絡が取れない人員が少しずつ増えたらしい。」

「いつからですか。」

「知らん。」

「何故、聞かないんですか。」

「応える訳もない。」

「何故、殺したんですか。」

「それを聞くために連絡した。」

「知りません。」

「図書委員長は昨日の夕方ごろ、上層部で作る組合で指名手配犯となった。海外にも連絡は入っている。RIBは、もう動いている。」

 国内での問題を国外に持ち出す場合に、RIBを通さないのは論外だ。今の説明に何の意味があったのかすら分からない。

 RIBに対して思い出もない。

 あたしの姉が目指していて、その過程で機関長に近づかれた隙そのものになった、としか分からない。

「今日の朝には、RIBは情報収集を始めて、昼頃には死体をあげた。」

 雨の中の図書委員長は、気が付くと赤いスーツだった。

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