物語の最後に、「あなた」に込められた意味を知る

正方形の街クアドラートに就任した若き司祭アオイ。新聞記者のエミリアは、彼の半生を綴るために、5日間の取材を行うことになる。
穏やかで、茶目っ気があって、およそ厳格な司祭とは程遠い彼。しかしその裏側には、美しくも悲しい出会いと別れがあった――。

一文目から引き込まれ、物語の最後のシーンで涙しました。
この物語は、とても透明で美しいと思います。アオイという一人の男の人生を辿っていき、それを記述する。エミリアが書物として残す言葉は非常に簡素です。けれど、短く書かれた一文の事柄を知る最中で、彼女は多くの人間に取材をして、その感情に触れている。その事実の上に立った時、簡素に書かれた書物の一言が、冒頭のアオイの演説に込められた意味が、じわりじわりと胸を締め付けてくるのです。

この物語は、美しい宗教画そのものです。謎めいていて、深く掘り下げれば掘り下げるほどに、込められた意味に心が震える。本当に贅沢な読書体験でした。

ぜひ皆様、ご一読くださいませ…!

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