ステーキ編
第6話 おいしそうに食べる
しゃぶしゃぶの食べ放題で、デブ道の真髄を学んでから数日、細谷はひたすらに食べていた。
体の変化としては、常に体中にエネルギーが有り余っており、以前感じていた『空腹』が全く訪れなくなったことだ。
確かに、この感じは太れそう、という実感もあった。デブ道をかなり身に付けてきたのではないかと思っていた。
この日、太谷と細谷は、同じ学科で仲の良い『中山』を交えてステーキを食べに出かけた。
「細谷、最近ちょっとデカくなったよな?」
中山は、細谷の体の変化に気付いていたようだった。
「そうなんだ。ここの所、ふとしに教えてもらいながら、たくさん食べるようにしてて。」
細谷は、見た目に変化が出ている事を嬉しく思った。
前菜を食べつつ、他愛もない話をしていると、それぞれが注文した肉が到着した。
中山は大食いではないので、普通のメニュー、ハーフポンドステーキ(約225g)。太谷と細谷は、1ポンドステーキ+ハンバーグの大満足セットである。
「「いただきまーす!」」
ジュウジュウと音を立てながら鉄板の上に鎮座しているステーキは、これでもかというほどに、3人の食欲を刺激した。
「ここのステーキうまいんだよなぁ〜!」
そう言いながら、中山はゆっくりと一切れを口に入れ、ジューシーな肉をじっくりと味わうように噛み締めた。
太谷は、1ポンドという大きなステーキに目を輝かせながら、ナイフを立てる。スルスルと入っていくナイフに、すでに味を思い出しているのか笑みがこぼれている。
一方細谷は、美味しそうだと口では言いながら、空腹ではない状態でこんなに大きなステーキを食べきれるのか?と不安にかられていた。
お互いが独り言のように感想を漏らしつつ、肉に集中して食べ進める中で、中山がふと、太谷を見た。
「やっぱり太谷は美味しそうに食べるよな〜。見てるこっちまで幸せになるようだ。」
満面の笑みを浮かべながら食べ進める太谷は、そのままの表情で話した。
「美味しいからな〜。それに、せっかく一緒に食べに来てるんだから、この美味しさを共有したいし、そっちの方が見てる側も嬉しくなれるだろ?」
たしかに、と中山は頷いた。
その言葉を聞いて、細谷はハッとした。自分は、たくさん食べることに精一杯で、一緒に食べている人のことをあまり考えていなかった。
自分の食べ方はどうだろうか?苦しそうな顔をして食べているのではなかろうか。楽しく食事が出来ているのだろうか?
「なぁふとし、ふとしは人と食べるときにそういう事を気を付けているのか?」
細谷は、嬉しそうに食べている太谷に尋ねた。
太谷はモグモグと口を動かしながら考えているようだが、飲み込み終わると言った。
「そうだなぁ。演技してるわけでもなんでもないけど、周りの人にも、『食事の嬉しさ』みたいなのを伝染させられる人こそ、『デブ道』を極めし者だとは思っているかな。」
その答えを聞いて、細谷は反省した。たくさんの食べ物を食べられるようになって、すでに『デブ道』を極めたつもりになっていたが、まだまだ甘かったのだ。
「ふとし、もっと俺にデブ道を教えてくれ!」
細谷は頭を下げた。
「ほほう。デブ道の深さに気付いてしまったか。良いだろう、教えてあげよう。」
太谷は腕を組んで、大物感を出しつつ頷いた。
中山は、そんな2人のやり取りを楽しそうに聞いていた。
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