第4話 満腹の世界-②
しゃぶしゃぶの食べ放題に来た2人。制限時間の中頃で、すでに満腹を感じた細谷だったが、満腹を超えた世界がある事を太谷に教えられ、決死の覚悟で新たなる世界への扉を開けた。
デブ道を進むのも楽ではない、と細谷は思った。
「先生…。満腹中枢が合図を出してからも、胃にものを入れることが出来ましたが、もう入りません…。」
細谷は箸を置き、胃をさすった。胃袋のあたりに、重さを感じる。
「おめでとう。ほそしはすでに、満腹を超えている。」
開始から80分、あと10分でラストオーダーに来る頃だが、太谷のペースは落ちない。
「ふとしはまだ満腹にならないのかい?」
すでに戦いを終えてしまっている細谷は、ゆっくり尋ねた。
「満腹中枢はすでに働いているけど、無視するだけさ。こんだけ食べといて、満腹中枢が動かないのは普通じゃないだろう。」
そう言う太谷を見て、細谷は思う。食べるペースが満腹の人間には思えないと。
「ラストオーダーですが、ご注文はいかがですか?」
店員がやってきた。開始から90分、ついにとめどない注文に終止符が打たれる。
「さっきと同じで。あと、デザートのアイスを2つ。ほそしも食べるでしょ?」
太谷は素早く注文した。まず驚くべきは、『さっきと同じ』で注文が通るところだ。このテーブルに何度か注文を取りに来ている店員だが、度重なる太谷の注文を覚えてしまっているようだ。
そして太谷に注文されてしまったが、細谷は、もうデザートもいらない気持ちでいた。
「食べられるかな…。」
細谷は不安を口にしたが、太谷は頷いた。
「大丈夫だ。今日は、たっぷり成長してもらうための会だ。ほそしは今、満腹を超えた満腹に到達している。これを、さらにもう一つ超えた世界に踏み込んでもらう。」
太谷の言葉を聞き、細谷は一瞬理解できなかった。
「満腹を超えた満腹を…さらに超える?」
細谷は言葉を聞き取れたが、何を言っているかやはり理解できなかった。
これまでの話によれば、満腹中枢が合図を出した段階が『第1の満腹』、そして、それを超えて胃袋を満タンにした状態が『第2の満腹』である。すでに胃は満タンなのだから、入る隙間など無いはずだ。
「これは、体感するのが早い。ちょうど、アイスが来たようだ。」
店員によって届けられた最後の肉とアイス。肉はすぐ、太谷の手によって適切に流れに乗っていく。
そして、細谷の目の前に置かれたアイスは、意外にも美味しそうに見えた。
太谷は、細谷の表情の変化を読み取ったのか、すかさず言った。
「今、胃袋が少しだけ動かなかった?」
細谷は、自分のお腹を見た。
「どうかな…」
そもそも、胃袋の動きなど意識したことはなかったが、少しだけ苦しさが緩和されたような、そんな気がした。
「その動きこそが、満腹を超えた満腹を超えた世界、『別腹』だ。」
「別腹…あの、『おやつは別腹!』とかいうアレかい?」
太谷は頷いた。別腹とはただの空想上の存在だと思っていた細谷に衝撃が走った。別腹は存在していたのだ。
「アイスを食べながら、聞いてくれ。」
太谷はアイスを食べるように促し、説明を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます