しゃぶしゃぶ編
第2話 食べる権利
太谷の『デブ道』に入門した細谷。今日は2人でしゃぶしゃぶの食べ放題に来たようだ。
「しゃぶしゃぶの食べ放題なんて、太る以外の選択肢がないな。今日は食べるぞー!」
今日の細谷は、かなり気合が入っているようだった。
授業の空きコマを利用し、長めのランチを食べ放題に費やすようだ。そんなことをして、午後の授業は眠くならないのだろうか。
「先生!お昼の食べ放題のために、朝ごはんは抜いてきました。」
細谷の気合を入れた一言に、太谷は一瞬固まり、言った。
「なんだと…?」
細谷は、太谷の威圧感に怖気づいたが、恐る恐る訪ねた。
「何か…間違えたかな。」
太谷はゆっくりうなずいた。
「それでは、食べ放題において、最高のパフォーマンスを発揮できない。」
朝起きてから、何も食べていないということは、胃袋はまだ眠ったままである。食べ放題において、最大のパフォーマンスを発揮するためには、胃袋を活動的にしておく必要があるため、食べ放題までに何かを食べて、胃袋を活性化しておくことこそ、食べ放題におけるコンディション調整である、と太谷は語った。
「そうだったんだ…。」
細谷は、食べ放題で多くのものを入れるためには、事前になるべく食べないようにして、お腹を空かせておくことが重要だと考えていたが、間違っていたらしい。
太谷の発想の違いに、改めて驚いた。
「そして、もう一つ。『デブ道』の教えがあります。」
太谷は指を一本立て、右手を顔の前に掲げた。
「三食食べる。」
その言葉を聞いて、細谷は言った。
「そうか、三食食べたほうがエネルギーを多く摂取できるからだね?」
太谷は、首を振った。
「結果的にはそうなるけど、発想の根源は違うんだ。」
細谷は首を傾げた。
「良いかい?今の日本は1日3食が基本だろう?つまり…。」
1日3回、1ヶ月で90回、1年で1095回食べる権利を得ていると考える。
例えば、食べ放題のために朝ごはんを食べないということは、1回分の権利を使わずに損してるということだ。
そして、この食べ放題でお腹いっぱいになったからといって、夕飯を食べないとする。すると、今日は2回も食べる権利を損してることになる。
細谷は絶句した。確かに、発想が違う。
細谷はこれまで、食事はお腹が空くから食べるものだと思っていた。しかし、デブ道を歩む者にとっては、例えお腹が空いていなかったとしても、食事のタイミングが来たから食べるだけなのだ。
細谷の顔を見て、太谷は付け足した。
「だからと言って、苦しんで食べているわけじゃないんだ。僕らは、食べるのが好きで、食べてるだけなんだよ。」
細谷は、ある意味で納得した。好きじゃなきゃ、普通はやらない。
細谷がデブ道を一歩進んだところで、しゃぶしゃぶ最初の食材が到着した。
「お待ちしておりました。さぁ、夢の時間を楽しもう!」
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