飲み会編

第9話 戦場

ステーキ屋での激闘を終えてから数日後。太谷と細谷の両名は、飲み会へと足を運んでいた。学科の同期飲みがあるようだ。

「それにしても、ステーキ屋でのほそしはよく食べきったよな〜。」

太谷はのんきに笑っていた。

「冗談じゃないよ。あんなにギリギリまでブロッコリーは残しておくものじゃないね…。」

あの日、ブロッコリー嫌いな細谷は、悪戦苦闘しながらブロッコリーを食べきったのだった。


あれから、細谷は食事についてより深く考えるようになった。好き嫌いなく食べられるようにはどうすべきか、人との食事を楽しみ、楽しんでもらうにはどうすべきか。考えることは非常に多い。


「ところでほそし。」

太谷が言う。

「これまで、デブ道の話をしてきたけど、飲み会という場は、また違った戦略が必要になってくるぞ。」

どうやら、飲み会にもデブ道の思想があるようだ。

「はい、先生。飲み会で気をつけることはなんですか?」

細谷は片手を上げて質問した。すると太谷は腕を組んで答えた。

「飲み会は『戦場』だ。気を引き締めて行け。」


飲み会場は、ごく一般的な居酒屋だった。集まったのは10人ほど。席だけの予約のため、料理は各自の判断で注文する。

「かんぱーい!」という幹事のシンプルな合図で飲み会が始まった。

がやがやと話題が盛り上がっていく中で、料理が運ばれてきた。

その瞬間、太谷の目つきが変わったのを細谷は感じた。


「飲み会では、とにかく食べたいものを食べれば良い。足りなきゃ注文だ!」

そう言って、太谷は食べ始めたが、きちんと他の人にも料理が回るように気配りをしている。

自分が食べるだけではなく、周りも楽しんでもらえるように動いているのだ。

しかし、よく観察してみると、自分の取り分が多くなるように調整しているように見える。流石の技術である。


「隠密行動が基本さ。戦場ではなにも、ドンパチやるだけが戦いじゃない。」

太谷は、周りに気を使っているように見えて実は自分のためだったのだ。


「お待たせしました、チャーハンです。」

店員さんは、なんとチャーハンを持ってきた。飲み会の常識として、『炭水化物は締め』という言葉がある。しかし、序盤ですでに出てきたチャーハン。

「誰だよチャーハン頼んだの!締めだろ?」

笑いながら入り口付近のやつが受け取る。

「こっちこっち!」

太谷はすかさず手を挙げた。

「チャーハンが締めだなんて、誰が決めたんだ?飲み会の基本は、炭水化物に始まり、炭水化物に終わる。常識だろ?」


太谷は、食べたいものを食べる。この基本に忠実だが、それを実現するために、デブキャラを存分に活かしていた。

明るくある事で、周りに受け入れてもらいつつ、自分の欲求を通す。完璧な立ち回りだった。


細谷は、デブ道の真髄を垣間見たように思った。

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