第7話 食べるペース

「デブ道を極めるには、ただ食べれば良いというわけじゃないんだ。」

太谷は言った。

「自分が食べることと同じくらい、人の食事にも気を遣える人であるべきなんだ。」


細谷は、デブ道の教えは次の段階に入ったのだと思った。

確かに食事というのは、自分だけで食べる場合と、人と一緒に食べる場合がある。

では、人と一緒に食べるとき、太谷は何を考え、何をしているのか。


太谷は、指を一本顔の前に立てて言った。

「1番重要なポイントは…。」


食事を通して、人に幸せを提供できることだ。


細谷は、頭に稲妻が落ちたような衝撃を受けた。

予想していたよりもはるかに壮大な話だった。細谷は驚きのあまり、何も言えなくなった。

そんな細谷を見ながら、太谷は微笑みながら続けた。


「例えばさっきの『美味しそうに食べる』ことも、周りの人に幸せをおすそ分け出来る技だ。他には、『食べるペース』についても技がある。」

太谷は、テーブルの上の料理を示した。


細谷は3人の料理をよく見てみる。

中山のステーキはおおよそ半分無くなっていて、太谷のステーキは3分の2がなくなっている。ただし、ハンバーグがまだ手付かずで残っている。

一方、細谷のステーキはまだ半分以上残っていて、ハンバーグは一口だけ欠けていた。


細谷はハッとした。

「そうか、残りの割合か!」

太谷は頷いた。

「そう、一緒に食事をする人のペースに合わせて食事をするんだ。」

太谷によると、こういうことだ。


2人で食べる場合、相手のペースを完全に意識する。自分が早く食べ終えてしまった場合、相手は『急いで食べなきゃ…!』というプレッシャーを感じる場合がある。逆に、相手が早く食べ終えてしまった場合、ややヒマを持て余すこととなる。

特に、デブ道を歩むものとしては大盛りにすることを避けて通れないので、必然的に相手よりも量が多くなることが多い。この時、のんびり食べていると、相手が先に食べ終わってしまう。

のんびりで良いよ、と言ってくれる人もいるが、せっかちな人の場合は、何をのんびり食べているんだと不快になる場合もあるかもしれない。

そのため、食事のペースコントロールをして、相手に不快感を与えないようにするのだ。


「複数人の場合はまた、さらに複雑なコントロールが必要になるのだが、今回はほそしにこの事を教えるために、あえて中山のペースに合わせてみた。」

細谷と、隣にいた中山もへぇ〜と感嘆の声を上げている。


思い出してみると、細谷は、太谷と食事に行った時、食べ終わって待ったり、待たされたりすることはほとんどない。

まさか、そんな高度な技術が使われていたとは思ってもみなかった。


「最初のうちは難しいかもしれないから、あまり気にしなくて良い。まず重要なのは、おいしく楽しく食事をする事だから。」

細谷は、太谷の巨大さ…いや、偉大さに感服した。

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