すた丼編
第1話 大盛り
「とりあえず飯にしよう。」
と言われ、連れてこられた細谷。
ここは、いつも2人が訪れる、通い慣れた「スタミナ丼」のお店だ。
券売機で、それぞれ食べたいメニューの食券を買い、どんぶりが出てくるのを待っている。お店の中は、ニンニクの効いた独特の香りで満たされていて、食欲が刺激されるようだった。
「お待たせいたしましたー。」
店員が、2人の注文の品を持ってきた。
「普通盛りのお客様。」
細谷が軽く手を上げるが、店員はそれをすでにわかっていたかのように、細谷の前にすばやくどんぶりを置く。
「こちら、大盛りのお客様ですね。」
太谷も軽く手を上げようとするが、その間も無く太谷の前にどんぶりが置かれた。
「さて、さっそくだけど最初の教えだ。」
箸に手を伸ばそうとしていた細谷の手が止まった。
「はい、先生。」
細谷は両手を膝の上に置き、太谷の教えを聞く姿勢を取った。
太谷は「おっほん」と、わざとらしく咳ばらいをして、こう言った。
「デブは一日にしてならず。」
そして、太谷はテーブルを指して、細谷に問いかけた。
「違いは何かな?」
細谷は、いつも通りの机の上を見て答えた。
「いつも通りの注文だけど、俺は普通盛りで、ふとしは大盛だ。」
太谷はうなずいた。
「その通り。どうして、普通盛りにしたんだい?」
細谷は、少し考えた。普通盛りにした理由を尋ねられるとは思っていなかった。
「どうしてって・・・。いつも通り注文したんだ。普通盛りでお腹いっぱいになるからね。」
太谷は再びうなずいた。
「そうだろう。ほそしは、そういう判断が出来る人だ。しかし、ここに分水嶺があるんだ。」
太谷は空中に三角形を描いた。
「満足できる分だけ食べる人、ちょっと多い、を積み上げる人。」
太谷の右手と左手が、裾野に近づくにつれて離れていく。
「人が持つ継続するコツの一つに、『習慣』がある。これを利用して、ちょっと多く食べる、を習慣に出来る人こそが『デブの道を歩む者』だ。」
たしかに、と細谷は思った。太っている人は、一日二日で太ったわけではなく、日々の食生活の栄養過多を積み上げた結果太っているのだ。
しかし、ここで細谷には疑問が浮かんだ。
「太っている人は、いつも『ちょっと多いな』って思いながら食べているのかい?」
太谷は、間髪入れずに答えた。
「違う。デブは、足りないから食べているだけだ。しかしそれが、自分の体の必要量を超えているってことに気付いてないんだな。」
なるほど、と細谷は思った。自分の食生活を思い返してみれば、食べ放題に行くなどで、時々、多く食べることはあった。しかし、それは継続するわけではなく、普段はお腹いっぱいになると食べるのをやめていた。
そして、お腹がいっぱいになる量というのは、細谷自身の体が生命を維持するために必要な量でしかなかったのだ。
「最初は大変かもしれないが、習慣になれば抵抗を感じることもなくなるはずだ。最初の第一歩はこれだ。特に、こういう大盛無料サービスのお店では、必ずこう答えるんだぞ。」
『大盛で!』
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