食べ歩き編

最終話 明るいデブであれ

細谷がデブ道に入門してから数ヶ月が経った。

細谷の体はやや大きくなり、体重も順調に増えているようだ。


太谷は、細谷が頑張ってきたご褒美に、食べ歩きの旅に連れてきたようだった。


「食べ歩きの基本は、『食べたいものを食べる』だ。」

そう言いながら、太谷はすでに両手に食べ物を持って食べている。

そして、周りの人も思わずヨダレを垂らしてしまうほどに美味しそうに食べているのだった。


細谷も、食べたいものを食べているが、すでにお腹は膨らんできている。やはり、太谷の次元の違いをひしひしと感じる。


太谷は体が大きいので、明らかに目立つ。そのため、食べ物なんて食べていようものなら、すれ違う人たちは思わず見てしまうのだが、そんな視線も嫌がっているわけではないようだ。


「ふとしは、太ってるのが嫌だなって思ったことは無いの?」

細谷は聞いてみた。

「昔は、嫌だなって思ってたこともあるけど、今は無くなったかな。これが自分自身だって思えるようになったから。それに、デカい体で縮こまっていても、どうせ目立つんだから、おどおどしてるよりは明るくしてた方が、気持ちいいなって気付いたんだ。」


太っている事をコンプレックスに感じる人々もいるはずだ。しかし、太谷はキャラクターの1つとして受け止めているようだった。

何かを食べる時も、明るく美味しそうに食べる事で、周りの人にも幸せを分け与えられる事を知っているのだ。


今の時代に反するデブ道を、あえて歩む事で、太谷は何かを乗り越え、何かを掴んだのだろう。デブでいることだって、悪いことだらけではないのだと。


「ところでほそし、ちょっと悩みがあるんだけど。」

珍しく、太谷から相談を持ちかけられた。

「どうしたんだ?」

太谷は、やや深妙な面持ちで言った。


「夕ごはんどこにする?」


「まだ食うのかよ!」

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