第7話 地味子が女友達を連れてきた!

今日は隆一と居酒屋で飲んだ。大体月1回位はお互いの都合がつけば飲んでいる。入社して親しくなってからこれがずっと続いている。


「どうだ、彼女との同居生活はうまくいっているのか?」


「意外とうまく行っている。掃除・洗濯をしてくれることが何よりだ。そばにいても気を遣わなくていいし、気にもならない」


「いい娘なんだろう?」


「ああ、いい娘だ。気楽に話し相手にもなってくれて、それに話しているとなぜか気が休まる」


「それはよかったな」


「でも好きにならないかな、そういうところがあるとしたら」


「もう少し可愛いとその気になるかもしれないが、地味過ぎて色気もないしね」


「可愛かったらその気になるというのは少し心配だな」


「大丈夫だ。契約書にも書いた」


「困ったことがあったら相談にのるから」


「そんな時は相談するけどね」


毎回場所を替えているが、2時間くらい飲んだら早めに引き上げている。これが気楽でいい。まあ、一緒に飲んで言いたい放題言い合ってストレスを発散して帰るといったところだ。


9時過ぎにマンションの部屋に戻ってくると、地味子と友人と思われる女子が二人でカラオケの練習をしていた。俺が帰ってきたことが分かるとすぐに止めた。


相手の女子は地味子と同じ黒いスーツを着ていて地味子の友達にふさわしい地味なスタイルだ。


「こんばんは、すぐに止めなくてもいいよ。ドアの外からも聞こえなかったから」


「もう少し遅くなると思っていました」


「今日は隆一と飲んだから、そうは遅くならなかった。大体こんな時間だ。彼女を紹介してもらっていいかな」


「私の友人の山内さんです」


「こちらはここのオーナーの篠原さんです」


「山内さん、白石さんから聞いていると思うけど、二人の同居は口外しないでください」


「聞いています。ご迷惑はかけません。私はこれで失礼します」


「ゆっくりしていっていいんだよ」


そうは言ったが、その友人は慌ててすぐに帰っていった。


「私が前に勤めていた会社の同期です」


「そうなんだ。友人は大切にしないとね」


「そうですね。彼女はいつも私を助けてくれましたから」


「前の会社はどうして辞めたの? 差支えなければ聞かせてくれないか?」


「前の会社はセクハラが原因でやめました。直属の独身の上司からセクハラを受けて、随分我慢していましたが、山内さんの勧めもあって、会社に助けを求めました」


「それで」


「その訴えが認められて、上司は転勤になりました。セクハラの事実を知っている周りの人から私にも落ち度があったと非難されました」


「上司の方がはるかに悪いと思うけどね」


「山内さんもそう言って励ましてくれました」


「でも、会社は辞めたんだね」


「そうです。私もすべて忘れて出直そうと思ったからです」


「それで今の派遣会社へ就職した?」


「新しい会社を探すのも大変なので、この方が気楽かなと思ってそうしました」


「でも収入は相当少なくなっただろう」


「3~4割少なくなりました」


「それで生活が苦しくなった?」


「だからできるだけ質素に暮らしています。もともと大学に通っているときから質素な生活には慣れていましたから。確かに原因は私にもあったのかもしれません。大学を卒業して就職してからは、お給料が全部仕えるようになって、気に入ったお洋服を買ってお洒落をするのが楽しみになりました」


「就職したての若い娘は皆そうだと思うけどね」


「それで服装や化粧が少し派手になったのかもしれません。そうした油断が上司に誤解を与えたのかもしれません」


「それは違うと思うけどな。大体、執拗なセクハラをするやつとかストーカーをするやつはどこか普通じゃないんだ」


「でもそのきっかけは私が作ったのだと思います」


「そんな風に考える必要はないと思うけどね」


「それで派手な服装やお化粧をそれからはしないようにしています。もちろん経済的なゆとりもありませんから丁度よかったのですが」


「それで地味で目立たないようにしているのか」


「やはり、目立ちませんか?」


「白石さんに同居の声をかけたのも目立たなくて地味だったからだ」


「それならよかったといえばよかったです。篠原さんからのお話はありがたかったです」


「それより家賃の負担が減って生活が楽になったのなら、白石さんの着飾った姿を見てみたいな」


「どうですか、でも最初におっしゃっていたとおり、地味の方がいいんでしょう。それに当分は考えていません」


「残念だけど、それもそうだ。白石さんが可愛くなって恋愛感情が起こっても困るからね。話したくないことを聞いて悪かった。もう君のことは聞かないようにしよう。これで終わりだ」


「ひとつ提案があります。今日のような鉢合わせもありますので、差し支えない範囲で毎日の帰り時間をお互いにメールで知らせ合うというのはどうですか。お互いに友人と鉢合わせするリスクも少なくなると思いますが」


「そうだな、その方がよいかもしれない。メルアドも教えてくれる」


「はい」


確かに、面倒ではあるが、その方が返って気楽だ。成り行きで地味子の過去の話を聞いたが、素直に話してくれた。性格はいい。彼女もいろいろと苦労してきているようだ。少し陰がある感じがするのはそのためかもしれない。

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