地味子と偽装同棲始めました―恋愛関係にはならないという契約で!

登夢

第1部 都会・同居編

第1話 同居人が必要だ!

昼休みに社員食堂で食事をしていると隣の席に山本隆一が座った。隆一は同郷で高校が同じだった。また、上京して入った大学も同じだった。


彼の実家は老舗の菓子屋で故郷では名が知られていて、駅やデパートにも店を出している。郊外にお菓子の工場があると言っていた。


そこの御曹司でいずれは菓子店を継ぐことになっていると言う。今は武者修行のために俺と同じ食品会社に勤めている。


高校の時はクラブが同じだった。大学でも学内で会えば立ち話をする仲だった。偶然同じ会社に入ったので同期になってそれからより親しくなった。


彼はいずれこの会社を辞めることになると思っているので始めから俺と張り合ったりしなかった。そのいずれ辞めることは会社には秘密にしている。


彼は商品企画部にいるが、仕事もできるし、センスも良い。俺の良き相談相手になってくれている。


「どうだ、仕事は?」


「まあ、なんとか目途が付いてきてもう一息のところまできた。いつも相談にのってもらって感謝している」


「気にするな、会社ではお互いを利用して助け合っていければいいじゃないか」


「頼りにしている。俺はおまえと違って、ここしか居場所がないと思っている」


「浮かない顔をしているが、仕事は順調なんだろう」


「ああ、プライベートなことでの悩みだ」


「そういえば最近引越しをしたとか聞いたけど」


「親父のマンションに引っ越したんだ」


「いいじゃないか、家賃は只だろう」


「そうでもないからどうしたらよいか考えていた。今日の帰りに一杯やりながら相談にのってくれないか?」


「特に予定がないからかまわないけど。場所は駅前のビアホールに7時半でどうだ。その時に話を聞こう。もちろん割り勘でいいよ」


「そうか、飲むのは久しぶりだな、じゃあ頼む」


◆ ◆ ◆

7時半にビアホールに着いた。すぐに隆一が来た。いつものビール大ジョッキとつまみのソーセージ、ピザ、サラダを注文した。


「相談の中味を聞こうじゃないか」


「会社から見えるだろう。あの高層マンションへ引っ越したんだ」


「へー、あれは随分高級なマンションだぞ。確かバブルのころに建てられたと聞いたけどな」


「バブルのころは億ションだったと親父から聞いた。それをバブルがはじけたときに親父が友人から頼まれて格安で買ったそうだ。友人が資金繰りに困っていたからと言っていた。今はかなり値段が上がってきて、儲かったと親父は喜んでいる」


「じゃあ、困ることはないじゃないか」


「なんやかやで毎月結構維持費がかかるんだ」


「親父さんが出してくれるんだろう、いいじゃないか」


「親父は俺に払ってくれと言っている。それに固定資産税も払えと言うんだ。維持費の一切合切を俺に払えと言うんだ。結構な額になる」


「前の家賃と同じくらいならそれでもじゃないか? それに会社の近くだから便利だろう」


「もっとかかるから困っているんだ」


「交通費はかからないだろう」


「交通費はかからないが、もともと通勤手当が出ていた。それもなくなったから関係ない」


「確かに交通費は出ないな。あそこはバスも通っていないし、それに歩ける距離だからな」


「何が問題なんだ?」


「金だけでもじゃないんだ。掃除もある。今までは1LDKだから掃除なんて時間もかからなかった。今は200㎡位あるから、広くて掃除する気にもならない」


「200㎡もあるのか、誰かに頼んだらどうだ? 家事代行にでも」


「ああ頼んでみた。結構な金になる週1回でも月4~5万位はかかる。こんなにかかると女の子と遊ぶ金がなくなる」


「それで悩んでいたのか。部屋はどうなっているんだ」


「バストイレ付きのメインルームとほかにサブルームがあるが、これもバストイレ付きだ。リビングダイニングが50㎡くらいある。それにキッチンだ」


「すごいな」


「もともとその親父の友人が会社のビジター接待用に使っていたそうだ。パーティーができるようにリビングダイニングにはおまけにトイレがもう一つある。トイレだけでも3つだぞ。ほかにカラオケができるようになっている」


「カラオケもあるのか、それは一人じゃ使いきれないな」


「まあ、カラオケは練習に使っているが、広すぎる。無用の長物だ」


「売ればいいじゃないか」


「売れば今なら2億近くなると嬉しそうに言っていたが、持っていたいみたいだ。親父は上京した時のホテル代わりに使っている。維持費がかかり過ぎるので俺に何とかしてくれということだ」


「断れなかったのか?」


「最近、経営がタイトになってきているといっていた。親父は俺みたいに東京へ出たかったそうだが、出してもらえなかった。だから東京にマンションが持てて嬉しいみたいだ。俺は東京の大学へ出してもらって、こちらで就職もしたし、我が儘を聞いてもらっている。だから引き受けざるを得なかった」


「サブルームを誰かに家賃をとって貸したらどうだ」


「それも考えたが、プライバシーが心配だ。女の子も連れ込めなくなる」


「女の子とはホテルでいいじゃないか」


「いつもホテルとはいかないだろう。金が持たない」


「じゃあ、気遣いのいらない年配のおばさんにでも貸したらどうだ? ただし、家賃を安くして、時々掃除、洗濯をしてもらう条件なら、いそうだぞ」


「年配のおばさんか? それなら気を遣わなくていいな、ありかも?」


「掃除と洗濯をしてくれて、朝食ぐらい作ってくれれば十分じゃないのか?」


「確かにいい考えだな」


「誰かいれば紹介しよう」


「頼むよ」


相談した甲斐があった。いいことを教えてもらった。要するに同居人を探せばいい。それも掃除や洗濯をしてくれる気遣いの不要な人で、家賃を安くして、光熱水費を半分くらい負担してもらうことで、随分助かる。良い考えだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る