【10】 相思相愛の兄妹が二人きりで一晩を過ごす

【シチュエーション】 

お互いが好きでしょうがない兄妹の両親が揃って旅行に出かける


【舞台設定】

現代世界。ハルの部屋。


【二人の関係と親密度】

兄妹。年齢は一緒。相思相愛でお互いの感情にも気づいている。


【個人データ】

・ハル──男、兄、10代。一般的な性格。

・エチカ──女、妹、10代。一般的な性格。


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『 相思相愛の兄妹が二人きりで一晩を過ごす 』





 妹に夜這いを掛けられる兄などそうはいないだろう……そして俺はその稀有な一人だ。


「お兄ちゃん♡ 来たよ……ついにこの日が来たね♡」

「な……なんの日だよいったい?」


 深夜──俺の寝るベットに乗り上げながらそう微笑んでくるエチカに、一方の俺は困惑を一つ。


 しかしながら『この日が来た』という感慨を抱いているのは俺も同じであった。

 なぜなら今日から二泊三日の予定で両親が温泉旅行に出かけているからだ。


 そもそも俺とエチカの関係は兄妹である。

 とはいえ同日同刻に生まれた二卵性双生児であったから年齢の上下などは無いのだが、それでもエチカは俺のことを『兄』と呼んだ。


 一般的な兄妹は物心がつくにしたがって、思春期特有の自立心から互いを毛嫌いしてしまうものだが、こと俺達兄妹にはそれがなかった。


 幼少時から仲が良かったし、それは長じてからも変わらなかった。……否、肉体の成長が進むほどに、俺達が互いに感じる好意はその度合いを増していった。

 事もあろうかエチカは俺を『男』とし、そして俺はエチカを『女』として見るようになった。


 もちろん俺はその感情をおくびにも出したりはしない。秘するべき想いだ。

 しかしエチカからの反応は極端で、時に露骨なほどのアプローチで俺に接した。


 食事は常の俺の隣、風呂においても『偶然』を装って浴室に侵入してくることはもとより、近頃ではトイレ中に乱入してくることもしばしばで、俺は小用ですらドアに鍵をかける始末だった。……正直すこし怖い。


 しかしながらそんなエチカの好意を俺もまた嬉しく感じていた。

 表面上は妹とはいえ、その内実は『惚れた女』だ。そんなエチカからのコミュニケーションの日々を、俺も戸惑いつつも楽しんでいた。

 そう……一週間前までは。


 両親から二泊三日の夫婦旅行を告げられた時、俺には──否、俺とエチカには今この瞬間の光景がありありと想像できたのであった。

 しかしながら初日に襲ってくるとは……これには少しばかり俺も油断していた。


 初日では何かの手違いで両親が戻ってくる可能性も捨てきれなかったからだ。

 加えてエチカも特に気負った様子もなくいつも通りに接してくれたものだから、なおさらに俺も今日のタイミングを見誤っていた。


「ねぇ、お布団の中に入れてよお兄ちゃん♡」

「それはいいけど……ちょっと着替えさせてくれないか? いま俺、シャツとパンツだけだ」


 迫るエチカに対し、俺は胸元を隠すようにしてタオルケットを引き上げる。

 妹とはいえ女の子と一晩を過ごすかもしれないというのに、今の姿はあまりにもマヌケに思えて俺はそう願い出たのだった。


「シャツとパンツだけ~? エッチなんだ~♡」


 一方で上下をパジャマに包んだエチカはそう言って笑う。日常においてだって俺が下着だけでいるのはしょっちゅうだろうに、今のエチカにはそんな「当たり前」ですらもが楽しくてしょうがない。


 言うなれば、焦らしているのだ。

 楽しみを先延ばしにすることで、なおさらに今日まで燻ぶらせていた情欲の火種を大きくしているのが妖艶に嗤うエチカの貌から見て取れた。


「俺のパンツ姿なんていつものことだろ。暑いんだから寝る時なんてこんなもんだって」

「そーなんだ。実はね……エチカもね、このパジャマの下に何も着てないんだよ?」


 ベッドの上に、さらには俺の体の上にまで乗り上がってきているエチカの告白に俺も息を飲む。

 そうして脊髄反射的に視線をエチカの胸元に向ければ……言う通り、素肌の谷間がパジャマの下に凝縮されているのが窺えた。


「ふふ♡ なに見るの?」

「そんなふうに言われたら見るだろッ。……な、なんでそんな恰好でやって来るんだよ」


 どこか嬉しそうなエチカの指摘に俺は我へ返り、あからさまなまでに視線を宙に投げては自分の覗き見を誤魔化す。


「え~? だって暑いんだから寝る時なんてこんなもんだよ、エチカは~♡」


 ついさっきの俺の言い方を真似るやさらにエチカは俺の上に乗り上げる。

 俺達の距離はすでに互いの胸板が密着するほどにまでなっていた。


 パジャマとTシャツという互いの薄い布地越しにエチカの鼓動が伝わってくる……おそらくは俺のそれもエチカに伝わっていることだろう。

 それをさらに深く求めるようにエチカは自ら体を沈ませると、自分の体重を完全に俺へと預けた。

 胸元に伝わってくる柔肉の感触には、乳房とは明らかに異なる弾力もまた点として感じられた。


 いつしか交わす言葉も無くなって、ナツメ球の淡い昼光色の世界で見つめ合う俺達……その中で、音に発することなくエチカの唇が動いては何かを発する。

 僅かに唇は上下に開くや、すぐにそれを窄めた。


『ハル』──俺の名を紡いだのである。


 その瞬間、掻きむしらんばかりの情欲が胸の中に渦巻くのを俺は感じた。

 共に生きてきたこの十数年の中において、初めてエチカが俺を名で読んだ。

 それこそは此処における俺を『兄』などではなく、『男』として転換した瞬間であった。


 そしてそれは俺も然り──俺の境界もまた、押し付け合う互いの肉体の中に解けては一体とした。

 だからこそ俺も応える。

 両手を腰へ回し、尻の上で指を井に組むと、より接合できるようにエチカを抱き寄せる。


「ハル……来たよ……ついに、この日が来たね」


 この行為の始まりに投げかけてきた言葉をエチカはもう一度繰り返す。

 あとは互いの視線に引き寄せられるように──エチカは俺の瞳に覆いかぶさるのだった。



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