エチカとハルの平行線

たつおか

【1】 女の子が自室へお泊りに来る

【シチュエーション】 

同級生の女の子が自室にお泊りに来る。


【舞台設定】

現代世界。共学校の学園寮。


【二人の関係と親密度】

学校の同級生で親友。ハルは性を意識。


【個人データ】

・ハル──男、学生、10代。一般的な性格。

・エチカ──女、学生、10代。天真爛漫で子供っぽい。


───────────────

『 女の子が自室へお泊りに来る 』





「一緒に寝よう」──と部屋に押しかけてきたエチカを見るなり俺は当惑した。


 その姿はほぼ下着姿と言ってよかったからだ。


 ブラと一体のキャミソールは肩口や首周りにフリルがあしらわれていて、色白な彼女と相成っては冬の砂糖菓子を連想させるようだ。それが所々にあしらわれた黒のリボンと合わさると、贈り物さながらのラッピングにすら見える。


 無垢な内面とは裏腹に、出るところはしっかりと出た「女」の体とあっては、その姿と深夜に俺の部屋を訪ねてくる行為がさも、「男を誘っている」ように思えてならない。

しかしながらそれは俺の勘違いであり、そしてゲスな妄想だ。


 今のこれに限らず、平素日頃のエチカの行為からはそういった「女の駆け引き」を思わせるような気配は微塵も観られなかった。


 今だって「誘惑しよう」などという意気込みは微塵も感じられず、いつも通りに彼女が俺へ向ける好意は、どこまでも家族や友人に向けるような無垢の親愛なのである。


 とはいえそれがキツいと感じる時もあった。

今などがまさにである。


 エチカにとっては親睦の延長にあるこのお泊り会も、こと健全な男子である俺にとっては、空腹を抱えるライオンの前に飛び出してきたウサギの状況それである。


 僅かでも邪な妄想をしようものならば、その変化は即座に肉体に現れてしまうことだろう……故に俺はエチカを眺めつつも一点には注視せず、全体に視線を拡散させることで曖昧にその輪郭を捉えることを意識した。


 と、その矢先──うぉう! ……エチカの股間を凝視してしまった。


 黒を基調としたローレグはまさに必要最低限の機能しか果たしていない。

 女性器のスリットをぎりぎり隠す程度しかない面積は、体毛の薄い彼女でなければ恥丘のヘアが見えてしまっていたことだろう。


 さらに閉じ合わされた両腿の隙間からは、ローレグのクロッチを飲み込んでこぼれた尻の両房がその陰影を晒している。


 まずい……股間に充血していくのが分かる。

 必至に頭の中で掛け算(7の段)を復唱しながら、急いで視線を上げた。

 しかしそれがさらに藪蛇……否、欲情の火に油を注いだ。


「どうしたの? さっきからキョロキョロしちゃって?」


 目の前には就寝の準備の為か、折った両腕を掲げては髪を結わえるエチカがいた。


 解放された両脇の、茂みの欠片すらない滑らかな窪みが露わとされた腋下の光景──さらには頚窩の窪みから胸板に至る真っ白なラインもまた再確認して、俺は完全に撃沈……否、屹立してしまった。


「……ひ、一人で寝ろって」


 それを悟られぬよう慌てて踵を返し、エチカに背を向けては平静を装う俺。興奮から声が震えてしまわぬように必死に発声を低くしては素っ気なく応える。


 しかしながらそんな俺の言葉など聞く耳持たずといった様子で彼女は俺のすぐ脇をすり抜けると、


「わー♪ お泊りだとまた雰囲気が違うね」

「あ、こら……!」


 勝手知ったる人の家とばかりに部屋に侵入しては俺のベットの上に乗り上がるのだった。


 再びエチカに背を向けるように体を反転させると、そんな俺の様子をいぶかしんでは「コマみたい」と彼女もけらけら笑った。


 さらには、


「せっかくだからさ、もう少し起きてようよ。すぐ寝ちゃうなんてもったいないでしょ?」


 背後から掛けられるその声に引かれるよう、俺は僅かに首を振り返らせては背後を窺う。


 ベッドの上には両腿をつけるように膝を崩して座る彼女の姿。恥じ入る様子もなく開けた股座を晒し、伸ばした両腕を背後に突いては胸元を突き出すように上体を傾斜させている。


「一緒に遊ぼう♡」


 そうして小首をかしげては掛けられるエチカの言葉と視線に射竦められて、俺は首を正面へと振り払う。


 一緒に遊ぼう? こんな状態で何ができるって言うんだ? 

 もう頭の中はふしだらな妄想と、そしてそれを知って嫌悪するだろうエチカを想像する恐怖とがない交ぜになっている。


 そして俺は決意する。


「………なんとしても、守り切らなければ」


 想いは言葉となって漏れた。

 何としても今夜は「いつも通り」に乗り切るのだ。


 内外からの誘惑を断ち切り、エチカを守り切ることを俺は心に誓う。

 その矢先──


「なにしてんのー? もー、はやくー♪」


 背後から抱きつかれた。

 腕、頬、腹、そして胸──彼女の持つ柔らかさの全てが余すところなく俺の背面に押し付けられる。


「わ、わあぁー!? 急にはやめろって‼」


 思わず叫ぶ。


「あははは♪ 驚きすぎだよー」


 そしてエチカは笑う。

 こんなんで本当に乗り切れるのだろうか?

 ともあれ長い夜になりそうだ……‥まだ始まったばかりだっていうのに。


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