【5】 大家の娘が看病に来た

【シチュエーション】

大家の娘が風邪の看病にやってくる。


【舞台設定】

現代世界。通学の為、ハルはエチカの実家が所有する借家に入っている。


【二人の関係と親密度】

クラスメート。互いに口には出さないが間柄は親密。どちらかからの告白を待っている。


【個人データ】

・ハル──男、学生、10代。江戸っ子気質。

・エチカ──女、学生、10代。イタズラな性格。


───────────────────

『 大家の娘が看病に来た 』





 昨晩から今朝にかけての悪寒はすっかり収まっていた。水分をしっかり摂ってたっぷり寝たのが効いたらしい。


 少しばかり体が重かったが、このままもう一晩眠ればそれも取れることだろう。ベッドの上で上体を起こし両腕を伸ばすと、ハルは存分に背をしならせてうめき声を一つ上げた。

 その矢先、


「こんばんわー。ハルちゃーん、様子どう?」


 玄関から元気な声が一つ。

 その響きに内心では喜ぶも、無頼を気取りたい年頃のハルはわざと素っ気なく応えた。


「大丈夫なわけないだろ。まだダルいよ」


 そんなハルの返事が返し終わるのも待たずに、エチカは寝室へと上がり込んできた。


「でもだいぶ顔色良さそうだね。安心したよ」


 学校帰りに直接寄ったのであろう、制服姿のエチカはそう笑ってベッドの脇に腰を下ろした。


「今日くらい来るの控えろよ」

「なによ、可愛げない。待ってたくせに」

「来たところで何の役にも立たないじゃんか」

「そうかしら? 風邪はうつせば治るって言うじゃない? 今日アタシが風邪を引けばハルちゃんの風邪は治るかもよ」


 期せずして二人の間に笑いが上がる。

 なかば二人の間では挨拶代わりと化した皮肉のやり取りではあるが、こんな関係が案外楽しかったりする。


 かくいうハルはエチカに想いを寄せていた。そして彼女もまた自分のことを憎からず思っていることを薄々感づき始めていたハルはちょっとしたイタズラを思いつく。


 まだ風邪の治り切っていないテンションだからこそ、そんなことを思い付いたのかもしれない……ハルは自分の腰元に掛けていた毛布をめくり上げると、


「それじゃ貰ってくか? 一緒に寝れば一発だぞ」


 そう笑いを含みながら返したハルではあったが──それを前にエチカは目を皿のように丸くした。

 驚いてるともはたまた軽蔑しているとも取れるその表情に、ハルもまた正気に返る。

 しまったと後悔もしきりに「冗談だよ」と二の句を告げようとしたその前に、


「──お邪魔します」

「えッ? ぅおい!」


 エチカはハルのベッドに這い上がるや、貼り付くようにしてパジャマの胸板に両手を添えた。


 帰宅直後でまだ冷気をまとったエチカの制服は、今日一日ふとんの中で温もりをため込んでいたハルには目が覚めるように冷たい。

 しかしながら今のハルはといえば、そんな冷感などは微塵も気にならない。それ以上にエチカが自分の体に身を預けてきている現状の方がよっぽども衝撃的であった。


「え、えええエチカぁッ?」

「ちょっとぉ、早く毛布閉じてよ。寒いじゃない」


 慌てふためくハルをよそに、その胸の中から挑発的な笑みを見せてくるエチカにハルも気付く。


──コイツ……からかい返してきたな。


 途端に熱しあがっていた頭は冷静さを取り戻す。

 このまま引いてしまってはエチカの思うがままだ。何としても主導権を取り戻さねば──そんな大人げない対抗意識が瞬時にハルの闘争本能に火をつける。


 ハルは言われるがまま毛布を閉じてエチカを懐に迎え入れた。そしてさらにお返しとばかりに、


「もっと近寄らないとうつりませんよ? お嬢さん!」

「え? きゃあ!?」


 その毛布の中、ハルはエチカを抱きしめる。

 エチカの肩へ、組むように両腕を回してはさらに深く抱き込む。

 そしてそこから見下ろすエチカの顔に動揺が見て取れるのを確認すると満足げに微笑むハル。

 しかし、


「それは失礼? それじゃあ……遠慮なく!」

「え? うおう!?」


 エチカもまた抱き返した。

ハルの両脇に腕を差し入れると、肩甲骨をすくい上げるようにして腕を交差させる。

更にそれだけにとどまらず、


「ん!? わぁー、何すんだッ?」

「ほらほらァ、逃げないの!」


 エチカがハルの股座をふとももで押し上げては両足も絡めた。


──さすがにこれはヤバいんじゃ………


 一連のエチカからの攻めにハルも冷静さを取り戻す。

 前面を密着させ合う上半身に、ハルはエチカの乳房を感じていた。腹部や頬とも違う、独自の弾力を持ったその感触は今までに感じたこともないようなそれである。

 加えて股間に感じるエチカの腿には、完全に自分の『モノ』が乗り上がってしまっていることもまた実感していた。


──マズイ……このままじゃ、時間の問題だ!


 斯様な状況にいずれ訪れるであろう、健康優良児として当然の生理反応──肉体の一部の肥大化を予期したハルは、どうにか現状を抜け出すべくに思考を巡らす。

 と、その矢先──


「あらら~? 刺激が強かったかしら~♡ 男の子だもの、しょうがないわよね~♪」


 またしてもエチカからの挑発。

 上気して耳の淵まで顔を赤くしたエチカの表情は、どこまでも楽し気な笑顔を満たしていた。

 それに煽られてまたしても、


──こいつ……生意気な!


 冷静さを失うハル。

 売られたケンカは買うが身上だ。こうなるともう後には引けない。

 どうなろうと知ったことではないという気持ちが強くなると、ハルの恥じらいや倫理はも再び頭の外に押し出された。


「なら……これでどうだ?」

「うん? え、あッ……ちょっとぉ!」


 互いに絡ませた両足の中、ハルはエチカの両足に抱き絡まれていた腿を跳ね上げた。

 エチカの下着に触れていた腿は、その布越しに前後してはエチカの股間をこすり始める。


「ば、バカぁ! やめなさいよ! 本当にやばいって──……あぅんッ♡」


 今更ながら制止を求めるエチカではあったが時すでに遅し、


「今さら遅ぇ! オラオラオラァ!」


 すっかり熱しあがっているハルはすっかりその行為に没頭していた。

 この時のハルの頭の中には、ただエチカを圧倒しているという優越感しかない。


 腰を引いて逃げようとするエチカをさらに抱き寄せると、さらに強くそして長く股間を往復する腿の動きを早くする。


「ほ、本当にダメェ……!」


 喘ぐような呼吸を繰り返してはハルの胸元にしがみつくエチカ。そうして一際強く発して背を仰け反らせるや、


「あ、あぁ……っちゃう……もうダメェッッ♡♡」


 エチカは突き出した顎先を天に伸ばし身を硬直させた。

 乱れた髪を汗に湿らせた額やうなじに貼り付かせたエチカ……唇を細くしていっぱいに開き、絞り出すように呻きを漏らしては思い出したよう時折り体を痙攣させるその様子を前に、


──と……とんでもないことをしてしまった!


 脱力したエチカの背を抱かえるハルはすっかり正気に戻っていた。


「だ……大丈夫?」


 そうしておずおずと声を掛ければ──脱力して後ろに項垂らせていた顔をバネのように正面に戻すエチカ。

 瞳一杯に涙を溜めた顔ではあるがしかし、その表情には怯えや悔悛といった色は伺えない。

 それどころかむしろ、


「一線……越えちゃったね、ハルちゃん」


 そう返してくる表情には不敵なほどの笑顔がひとつ。しかしそこには、先ほど以上の闘志がみなぎっているように見えた。

 

「あ……いや、そのぉ……」


 一方でそれを前にすっかり委縮するハルではあったが次の瞬間、


「うあッ!? お、おいそこは……!」

 その表情は痛みを孕んだ驚愕のものに変わる。


「ふふん……ハルちゃんばっかりだなんて不公平じゃない?」

「お前……本気かぁ?」

「ハルちゃんに言われたくないわよ」


 言いながらエチカの右手がうごめくと、それに合わせてハルもまた呻きを漏らす。


「次はぁ……アタシがお返ししてあげる♡ ね?」

「おうぅ……ッ‼」



ハルの命運は今──完全にエチカに『握られて』しまったのだった。


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