【9】 発情期休みのクラスメートを訪ねちゃう女の子

【シチュエーション】 

発情期で学校を休んでるケモの同級生の家を訪問しちゃう女の子


【舞台設定】

現代ファンタジー世界。ハルの部屋。


【二人の関係と親密度】

学校クラスメート。エチカはハルに好意を持っている


【個人データ】

・ハル──男、犬狼型の獣人、10代。一般的な性格。

・エチカ──女、人間、10代。好奇心旺盛な性格。


───────────────────

『 発情期休みのクラスメートを訪ねちゃう女の子 』





 一度目のチャイムでは無視を決め込もうとした。

 二度目もそう。三度目で「出なければいけないか?」と思い、その後は四度五度と繰り返されるそれにハルは完全に起き上がった。


 日中の大半を寝て過ごしていたことと、血流を安定させるために飲んだ薬の作用もあってか、立ち上がるなり足元がふらついた。


「嫌な予感がする……」


 不安は思わず口をついて出た。これから迎え入れようとしている来訪者についてである。……先のチャイムの鳴らし方ですでに誰かかの見当はついた。


 寝室を出て、玄関までの廊下を渡るうちにその予想は確信へと変わった。

 犬狼型の獣人であるハルは、その種族性ゆえに鼻が利く。僅かに玄関先から漂ってくる匂いには、目で見る以上の覚えがあった。


 数歩を歩いても眩暈は止まず、壁へ肩を預けては体を引きずるようにして歩くとようやくハルは玄関へとたどり着いた。

 そんなハルの到着を知ってから知らずか、憤慨したようにもう一度チャイム。そのしつこさにハルはため息をつく。


「はぁはぁ……はい? どなた?」


 ドアは開けず、スチール越しに語り掛ける。

 その刹那、


『おっそーい! いるんなら早く出てきてよ、ハル!』


 ドアの向こうからはけたたましい怒声が一つ。……予想通りの相手だ。ドアの向こうに居るであろうエチカは学校のクラスメートである。


「……何の用? 今日は風邪ひいてるから出られないよ、エチカ」


 エチカとは高校に入ってから知り合った仲だが不思議とフィーリングが合って、学校ではいつも一緒にいる。

 しかし今現在においてはハルが一番会いたくない相手の一人でもあった。


『知ってるよ、そんなのー! だからお見舞いに来てあげたんじゃないの! いいから開けなさいって‼』


 ハルの説得にエチカは納得するどころか益々以てエキサイトしてしまったようである。そのドア越しのテンションにハルの気持ちは反比例して重くなっていく


 かくいうハルは今、エチカに嘘をついていた。

 体調不良の理由は風邪などではなく、種族性による『発情期』に他ならない。


 字のごとくに今現在、発情の真っただ中にあるハルにとっては女子との面会ほど酷なものは無かった。

 単純に性行為をしたいという衝動以外にも、発情の症状には眩暈や倦怠感といった副症状を伴う場合が多々ある。ハルの場合は欲情よりもそっちの方が重いのだ。


 だからこの時期に女子などの存在を察知して肉体が反応すると、途端にハルの症状は悪化してしまう。それがもたらす不調による苦しみたるや、薬でも収まりが利かないほどであった。


「いいから帰ってよ……今日はとてもじゃないけど、まともに対応してられないんだから」

『そんなの知ってるって! なにもお茶とケーキで持て成してもらおうって気はないわよ‼ そもそもアタシがここに来た理由をまだ聞いてないじゃん‼』


 ドア越しに話しているせいか一向にエチカの声は勢いを落とす様子が見られない。それどころか尻上がりに大きくなっているそれに、ハルはご近所への体裁が気掛かりでしょうがない。

 そんなことを考えた矢先、


『あ、大家さーん! こんにちわー! うちのハルがお世話になってますー♪』


 ドア越しの声にハルは両肩を跳ね上がらせる。

 不安が的中した。こんな騒ぎを見られたくはない──急いで対応しようとドアを開けた瞬間、


「──お? やっと開けてくれたねぇ♡」


 学校帰りか、制服姿のエチカがイタズラっぽい笑みを浮かべて見上げてくる。

 ドア枠の開口から首を伸ばし彼女越しに周囲を見渡すも、そこには自分達以外の人影は見当たらなかった。


「……騙したね、エチカ?」

「友達を邪険にするからいけないのよ」


 鼻を鳴らすハルを押し分けてエチカは玄関へと進入してくる。それに押し切られてハルも屋内に戻るや、エチカは後ろ手で玄関ドアを閉じた。

 その途端、


「ん……? んむぅ……ッ!」


 ハルは腰砕けて玄関の上がり框に座り込んだ。

 呼吸は今まで以上に荒く、食道からせり上がってきた分泌物は口角に泡となって溢れている。


「ちょっと、大丈夫ハル? ホントにヤバかったの?」


 その尋常ならざる様子に、エチカですらもが慌てた様子でその身を案じた。

 しかしながらそのエチカ本人こそが、全ての原因であることは火を見るよりも明らかである。


 至近距離の、しかも密閉された空間で嗅がされるエチカの匂いにハルの肉体はその一瞬、臨界を突破しては機能を停止したのだ。

 化粧品や整髪料の甘い香りのなかに混じるヘアピンやスマホといった鉄の匂い、そして女性特有の生理臭──匂いからくるその情報量の多さに脳は混乱を起こしていた。


 しかしながらこれが本格的な発情への前段階であることも察したハルは、辛うじて首だけを持ち上げては上目にエチカを見据える。


「はぁはぁ……帰れ……もう、もたない……はぁはぁ………」


 もはや形振りなどかまってはいられない。鼻筋(マズル)に幾重にもシワを寄せた威嚇するような表情で告げる。


「風邪って言うのは、ウソだ……発情期で、休んでた。だけど、エチカの匂いで……スイッチが入った……このままだとエチカを、襲う……!」


 険のこもったハルの形相にその一瞬は戸惑いを見せたエチカではあったが、怯えにも似たその表情は徐々に解けていった。

 それどころかそんなハルを見下ろしてくる目には、ここへ来たことの後悔や浅ましい動物に対するような哀れみすらもが感じられた。


「そんな目で……見られるのが嫌だったんだ……」


 極限状態の中で己を律しているとあってか、頭に思いつく言葉は全てハルの口から洩れた。


「エチカが、好きだった……だから、対等でいたかった………こんな獣の姿なんて、見られたくなかった……!」


 溢れ出した想いは止まらない。涙が一滴頬を伝ったが、それが肉体と心のどちらの苦しみに由来するのかは分からない。あるいはその両方か。

 すべてが終わった──もうこんな無様を晒しては、明日からまた元通りの友人関係になど戻れるはずもない。

 そう思った矢先、


「そんなの……知ってるってば」


 思わぬ返事を返してきたのはエチカであった。


「アンタこそさ、なんで気付かないワケ? アタシがアンタのこと大好きだって言うことに」

「え……えぇ? それは、どういう……?」


 混乱していた頭がさらに混乱した。

 告白したつもりが告白され返されたのである。

 すなわちは、


「相思相愛っていうの? そういうこと♪」


 呆けては見上げる先のエチカが大きく笑顔を咲かせた。

 そうしてさらに自身のスカートの前裾をつまむや──


「ッ!? あ、あぁ……ッ!」


 両手で持ち上げて、その下のものを露わとする。


 ハルの目の前にある光景──スカートのウェストにしまわれたワイシャツの両裾が、三角形のカーテンを左右に作り出しては、その中央にある純白の下着を彩っている。

 白地も相成ってうっすらとヘアの陰影が透けるそこは、シワ一本無い綿の布地がピンと張りつめては、ふくよかな恥丘の盛り上がりを見せていた。

 下着本体の意匠された見た目と相成ってはそれは、まるでプレゼンの包装のようにも見えた。


「最初っからそのつもりだよ、ハル」

「…………」

「誕生日とバレンタインとクリスマスと……『恋人』としては一緒に過ごせなかった分のプレゼント、今まとめてあげるね」

「……ッ………」


 最後に見たエチカは、こんな場には似つかわしくないほど朗らかに微笑んでいた。

 そして、


「さぁ、召し上がれ♡」


 そう告げられた瞬間──ハルはエチカへと飛び込んでいた。

 彼女の腰に抱き着き、荒々しく尻の両房を握りしめては香しいエチカの股座へと顔を埋め、先の下着のふくらみに鼻先を埋める。

 発情中の彼氏とそれにかこつけた彼女──おおよそ最低最悪の形ではあったが、


「エチカ、エチカぁ! ゴメンッ……ゴメンね!」

「あん、もー♡ 謝らなくったっていいんだってば」


 二人の想いは今、成就を果たしたのだった。



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