【3】 発情したケモの幼馴染と部室で二人きり

【シチュエーション】

ケモの少女が親友と二人きりの時に発情期を迎える。


【舞台設定】

現代ファンタジー世界。放課後の部室。


【二人の関係と親密度】

幼馴染。エチカはハルのことが好き。


【個人データ】

・ハル──男、学生、人間、10代。のんびり屋。

・エチカ──女、学生、犬っ娘、10代。一般的な性格。


───────────────────

『 発情したケモの幼馴染と部室で二人きり 』





 朝からおかしいとは感じていた……。あるいは『もしかして?』、とも。


 とはいえ、肉体の倦怠感を覚える初期の症状は風邪とも似ていたから、特に疑うこともなく登校したのだ。


 それが確信に変わったのは学校でハルに会ってからだった。

 一目見た瞬間、文字通りにエチカは総毛立った。


 一瞬で血の巡りは速さを増し、頭は彼に触れたい衝動で一杯になる……エチカは今、『発情期』の真っただ中にあった。


 犬型の獣人であるエチカと違い、ハルは人間の少年だ。だからこそ生態の違う彼と付き合う時には細心の注意を必要としたし、周囲からも言われていた。


 今の発情期などは正にそれの典型的な一つで、獣人はそれを自覚したならば早々に担任に報告し早退をしなければならない。


 しかし、エチカは残ってしまった。

 こんな時にもしかし……否、こんな時だからこそ、


──はう~ん……ハル君いいにお~い♡


 本能が邪魔をした。

 ハルと一緒に居続けたいという衝動はそんなエチカの理性と倫理を押しやってしまったのだ。


 もっとも、それでも朝の時はまだ理性が利く状態であったからエチカ自身も軽く捉えてしまったのかもしれない。

 しかし放課後に至り、事態はもはや抜き差しならない状態にまでなっていた。


「はぁはぁはぁ………♡」


 廊下をハルと歩くその道すがら、エチカは舌根を吐き出しては荒い呼吸に両肩を上下させていた。


「エチカ……大丈夫?」


 一見したならば息苦しそうなその様子を思い遣ってハルは声を掛ける。


「え? ふえ? あ、あぁ……大丈夫だよぉ、ハル君」


 それを受けてエチカもまた返事を返すが、平静を装う表面とは裏腹にその内部は……


──ハル君、いい匂い、気持ちいい声……体に触りたい、触ってほしい……もっと匂い嗅ぎたい! 舐めたい……!


 エチカの脳内は一触即発の状態に熱しあがってしまっていた。


「それならいいけど、今日くらい部活休んでもいいんだよ?」

「大丈夫だってばぁ。最後の授業が体育だったからそれで体が熱くなっちゃってるの」


 ハルとの会話はその言葉の一言一言が脳に響いてくる感じだった。しかしそれは決して不快なものではなく、斯様な衝撃が響くたびにエチカは喜びから強く尻尾を振っては隣にいるハルの足を打ち付けてしまうほどであった。


「もし苦しくなったら言ってね。僕が送っていくから」

「はぁはぁ……イクのぉ? 送って……イッちゃうのぉ?」


 だいぶバカになりつつあることを実感しながら二人は部室へとたどり着く。

 もとは家庭科の準備室であった部室は9畳ほどの縦長な一室だ。ここで自称・将棋部を運営しているハルの手伝いをエチカはしていた。


 とはいえ部員は自分とハルの二人だけでエチカもまた将棋を知らないことから、放課後にここで過ごす時間の大半はたわいもない話を止めどもなくするというものであった。


 しかしながら今日は違う……今日の部室は二人にとっての『愛の巣』だ。すくなくともエチカにとっては。


 日中もすでに、今日の放課後にここで二人きりになる瞬間を待ちわびて過ごしてきた。

 もはやここでハルを襲うことを決めていたエチカは、昼の時点ですでに正気を失っていたのかもしれない。


 今に至ってそれは何とも如実で、


──エッチ出来る……ハル君と出来る……エッチできる……さわれる、キスできる、抱きしめてもらえる、匂い嗅げる、ツバ飲める、噛める、チンチン見れる、アタシのおまたを触ってもらえる………!


 紺の制服と柔毛の毛並みゆえに目立たぬが、スカートの股間部分と靴下は腿を伝わって滴るほどの分泌物によってすっかり濡れてしまっていた。


「ふう……それじゃあ今日は何を教えようかな?」


 一方でそんな背後の不穏な空気など察せぬ純朴な少年は、学校カバンを机の一角に置くと将棋のセット一式を取りに移動する。


「ううぅ~………ッ♡」


 小走りに棚へと移動するハルのお尻が左右に振れる様を見つめるエチカの瞳孔が丸く拡大しては開く。


 今にも食らいつきたい衝動を抑えるがあまり噛みしめた口角からは、威嚇のような唸りとヨダレとが滝のように溢れ出していた。

 それでもしかし最後の理性がエチカにある行動をとらせる。


 しずしずと入室を果たすや、エチカは後ろ手で閉めたドアの握り玉をねじ切っては破壊した。


 もとは補助的な一室であったことからも、引き違い戸の他の教室と違いここはドアの造りである。そんなドアは構造上、手掛け部分となる握り玉が無ければ内部ラッチの上下が出来ない。


 すなわちは、もうこの一室は『内側からは退出できない空間』となってしまったのだ。


「今日はぁ……もっと、別のことを、教えてほしいなあ……♡」


 荒ぶる呼吸を抑えながら、エチカは平然とハルに語り掛けていく。もはや尻尾は興奮のあまりに硬直して、棒のように地面へと向いていた。


「えっとぉ、将棋盤どこかな……んー? なぁにー、エチカ?」


 一方で依然として異変に気付かないハル少年は、前屈みになっては背後のエチカに小ぶりの尻を突き出している。


「勉強とか教えてほしいのぉ……保健体育なんだけどぉ、アタシ全然分からなくてぇ♡」

 一歩一歩エチカはその芳醇な果実へと歩を進めていく……


「んー……いいよぉ。じゃあ今日は飛車の動かし方教えてあげるから、その後にね」

「ひしゃ? ひしゃってなぁに~?」

「簡単に言うとね、まっすく飛ぶんだ。横にも動けるんだよ」

「まっすぐ飛んじゃうのぉ? 横にも動いちゃうんだぁ……♡」


 もはやハルからの言葉一つ一つが淫靡なものとしてエチカの耳には届いていた。


「じゃあ……エチカにもハル君の『ひしゃ』をまっすぐに打ち込んで♡」


 ついにはハルのお尻のすぐ背後にまで辿り着き、エチカは眼を剥く。


「いいよ♪ でも最初はエチカにやらせてあげる。一緒に覚えようね。──あ、見つけた。こんな所にしまっちゃってたんだ」


 ようやく目的のものを見つけ出してはそれらを手に取るハル。胸の前にそれを抱きしめて振り返るそこには──掌を見せつけるように両手を前に広げては、大きく口中も開け放ったエチカの牙がハルへと向けられていた。


「エチ、カ……?」


 ハルの手から零れた将棋盤と駒が床に落ちる。

二人以外には誰もいない部室に──駒が弾けて散乱する乾いた音が響いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る