【2】 混浴の露天温泉でばったり遭遇
【シチュエーション】
混浴の露天風呂で遭遇する。
【舞台設定】
現代世界。修学旅行先の温泉宿。
【二人の関係と親密度】
恋人未満の親友。互いを異性として意識。
【個人データ】
・ハル──男、学生、10代。硬派な性格。男気を重んじる。
・エチカ──女、学生、10代。一般的な性格。
───────────────────
『 混浴の露天温泉でばったり遭遇 』
立ち込める湯けむりのせいもあって、間近に近づくまでその存在に気付かなかった。
視線の先の湯けむりにボンヤリと黒の輪郭が浮き上がり、ふと吹いた夜風がその一瞬視界をクリアにした瞬間──俺は目の前にエチカを確認した。
「う、うわ!?」
「きゃあッ!」
互いを確認するや、俺達は揃って湯船に沈みこむ。
一瞬ではあるがエチカの裸を拝んでしまった……。
互いにまだ未熟な10代の肉体とはいえ、出るところが出始めたエチカの体は紛う方なき『女』だった。
ということは、だ。むこうにもまた、俺は全裸を晒してしまっていたことになる。……この貧相な体を見てどう思ったことか。
そんなことを考えていると、
「……混浴、だったんだね」
おずおずとエチカが語り掛けてきた。
「そ、そうだな……」
それを受けて俺もぎこちなく応える。
そしてチラリと隣を窺えば、
「あッ……」
同じくにこちらを窺ってきていたエチカと視線が合って、俺達はバネ仕掛けのように首を振り払っては正面を向く。
こんなシチュエーションに置かれた俺たちの行動はことごとくが一致していた。
それから盗み見るように視線だけを動かしてはエチカを見る。
湯に濡れて艶やかに光るエチカの肩は雪にも負けないくらいに白かった。
さらには髪を上げて露わになったうなじには後れ毛が一筋垂れていて、得も言えぬ色気をそこに醸し出している。
そして何よりも……湯気の昇る水面の上辺には、その下に沈むエチカの胸が透けていた。そんな水面の境界の少し下で、僅かに白濁した湯の中に乳首の先端が淡く輪郭をぼやかしつつ見え隠れしていた。
本当にこれがエチカなのか? ──そう思った。それくらいに今の彼女は美しく俺の目には映ったのだ。
「エチカって……綺麗だったんだな」
思わず言葉になって漏れた。
それを受けたエチカが息をのむ気配に俺も我に返る。
──なに言ってんだ俺はァァァッッ……‼
自分の迂闊さ……というかスケベ根性を恨む。硬派無頼を気取っていた奴がとんだ変態野郎だ。
そんないたたまれなくなっていると、
「……ハルもかっこいいよね。腕とかお腹とか筋肉ついててさ」
エチカの切り返しに今度は俺が息をのんだ。
思わず振り向けば、そこには恥じらいながらも柔らかな微笑みを返してくれているいつものエチカがいた。
またしても美しいと思った。
そして気付く。
彼女の美しさを好ましく思ったのは、下衆なスケベ心からだけからじゃない。
きっと俺は……いや、俺はこのエチカが好きなのだ。それを確信する。
そう心の中に整理が着くと、途端に心は落ち着きを取り戻していった。
「もうちょっと……そばに行ってもいい?」
そう訊ねてくるエチカに俺もうなずく。
湯が動くと、彼女は俺のさらに隣に付けた。
尻を落ち着けてからもじりじりと体をよせて──ついには俺達の肩が触れ合う。
そんな状況でも互いを拒絶しやしない。
柔らかで滑らかなエチカの肌を直に感じていると、湯に負けない彼女のぬくもりがしみ込んでくるのが分かった。おそらくはエチカもまた俺からのそれを感じていることだろう。
そんなエチカの勇気に応えるように、俺も右腕を上げると──そっとエチカの肩を抱き寄せる。
右腕の境界が無くなり、開けた俺の胸板にエチカの体を寄せた。
まるでそうされることを予期していたかのよう抵抗なく頭を寄せると、すがるように俺の胸板に両手を添わせる。
そこから見上げてくるエチカの視線と俺のそれも絡む。
「エチカ……」
「ハル……」
互いの名を紡いだ。
あとは引き寄せられるように瞳は接近していく。
あわや口づけを──そう思われたその時、一陣の風に周囲の湯気が全て取り払われた。
その瞬間、俺達の夢が冷めた。
目の前には俺の仲間達がいた。
それだけじゃない。エチカの友達も数名……。
それを前に皿のように目を丸くする俺達と、ニヤニヤと好奇の視線を向けている友人達一同。
「き………きゃあぁぁぁ────‼」
エチカの叫び声に、完全に場の空気は現実と戻される。
後は予想通りに友人達による下卑た追及合戦。
俺とエチカの関係を冷かすものはもとより、つい先刻までの俺達のやり取りを真似て見せては冷かしてくる有り様……。
後になって聞いた話だが、ここが混浴であることを知らなかったのは俺とエチカだけであった。
そしてそんな俺達をからかおうと皆、息を潜めて待っていたところに予想外の展開が始まってしまったということであった。
今後、卒業まで今日のこれをからかわれ続けることだろう。
それでもしかし、俺はまんざらでもない気分なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます