ラストライム
──触れられねぇんだ、その手綺麗で、どうにもできねぇ俺は
そこら歩いて反比例、賛否両論、本気で指令待つだけこの本能のみで
今すぐ来いよとすぐに言え、言い出せなくて張るだけ見栄、閉じ籠るのはいつも家、ごめんな、マジでお前ひでぇ、バカな俺なんて今すぐ死ね
そう言わないで、お前にゃ分かんねぇ
海の波の間の珠のような眼しやがって
背骨折れる、底が知れる、だけど、やがて本音すらノンレム睡眠の中で笑むばかり
春は曙、だけど俺はただの獣ゆえに除け者、行けども行けどもどこまでも子供
yo,yo,白くなりゆく山際、深く刺さるぜ俺のこの牙、紫だちたる雲にたなびきたる細く補足、マジ意味分かんねえと答えを催促
夏は夜、そうだろ
闇も尚、答えはNo、蛍飛び違いたって火照る蹴り飛ばす雨など降るも、駄目なら来るな、秋の夕暮。
夕日のさして山端いと近くなりたるに、暑苦しいカリグラフィー、烏の寝所へ行くとて
まして雁などの連ねたるが、指して針はそのプラナタリア、いと小さく見ゆる星を待って飛んで飛んで飛んで飛びまくって。
日入り果てて、推理探偵も風の
冬はつとめて。来るわ来るわもう
雪の降りたるは言うべきにもあらず、隙のなさすぎる
なあ、聴いてんのか、反転の利点並べて満点の星待って弁天の採点もって馬鹿みてぇだから減点ならもっとハッキリ正直に素直に真正面から矜持気にせずパッションメンタルぶつけてりゃよかった。
今からでも遅くねぇ、頼む、一回だけ聴いてくれ、一回だけ。
俺、マジでお前のことが好きなんだ、春も夏も秋も冬も、一番綺麗なのはお前だし、他のものなんてクソほどの価値もない、いつもお前がそこにいて、それを愛でて撫でて笑ってりゃ何でもいいんだクソ女、頼むから忘れてくれ俺のことなんか、俺はお前を忘れないから、お前の人生にハズレ無いから、俺はお前のナイトになれやしないからいい加減俺を殺してくれマジでそれでいいからずっとずっと言いたかったんだ思い込みたかったんだ、だけど言いたくなかったんだ俺が望んでたのはそうじゃないから、自分でも何言ってんのか分かんねぇ、多分今日俺自殺するわマジクソ恥ずかしくて生きてらんねぇ、だけど後悔はしないぜ、だから歌ったんだ枕草子を今この豆腐メンタルの俺がよ。
あの日手に取った枕草子、俺とお前は似た者同士なんかじゃなく講師と童子、お前と俺を隔てるのは格子、常識からしてありえねえ非常時、調子狂うぜ、申し訳程度の矜持を盾にってそうして勝手に信じるのは勝手だって分かってたって素直になれねえ、去っちまうのが怖いから。
だから力の行使、ひたすら上申、尽くして奉仕、機嫌取るばっかで何もできやしねえんだよマジで。
まずは潜り抜けるぜこの登竜門、来世俺がもし高身長の秀才で生まれて超新星みてえにお前の前に現れたらそんときゃよろしく蝋人形にしてくれてもいいぜ。
お前のお陰で勇気が持てた。これをお前に言う気が持てた。だからマイフェアレディ、歌い続けるぜあの落雷を、俺を苛む迫害を、大概にしろって言われても来世はメイビー、養って英気、いい男になって生まれたいもんだね、いや、今のこの現世に出入り、やっぱ掴みたいねお前に提示、女神の啓示、それができる日までひたすら誠実に生きてくよだから待てよ暫時、いいから見ててくれどっちなんだって感じだけどさ、何でもいい、書くこともできない女神への手紙握り、吐く言葉ネガティブにしないでとせがみっきり、死なずに見ててくれよマジで愛してるから。
嘘だって思うだろ。ほんとなんだ。
笑ってくれとも言わねえよ。
ほんとのことなんだから。
あの夜、お前に会えてよかった。
あのとき、枕草子を手にしてよかった。帆かける舟に溶かせよ
梅雨も、夏も、秋はもちろん、冬だって春が来たって、令和が終わって何年になってもいつだって金木犀。清少納言も沈黙せり、
お前が時間の過ごし方とそれを誰とするかを選んでるその間も、俺は歌うわ。そして向かうは
そうして、もしかして、お前の前にまた現れるかもな。お前がもしニューヨークの修道女になってもまたこの慣用句で歌うぜ何度も。
そのとき、お前は選んでくれればいい。
言いたいことは、これで全部だ。わけわかんねえけど、とにかく俺は何年でもここにいて、お前と俺を繋いでる枕草子を歌い続けるわ。それを、俺は選ぶ。お前が何を選ぼうと、俺はお前を選ぶ。そして、俺が求める俺になる。
だから言ったろ、終わっちゃねえんだ。
静寂。
しばらく続き、大歓声。熱狂の渦と称賛の嵐が、タケルのツイストパーマを揺らした。
カンナに、マイクを投げ渡す。ちょっと慌てた様子で受け取り、照れながら口元へ。
「ひとつだけ、間違ってる」
スピーカーから流れる彼女の透き通った声に、フロアはまた静寂を取り戻した。
「あの枕草子、今持ってる?」
言われて、タケルはポケットにねじこんでいた枕草子を取り出した。
「貸して」
その圧力に従い、手渡す。
半分ひったくるようにしてそれを手にしたカンナが、おもむろにフロアに投げ捨てた。
「あなたとわたしを繋ぐのは、枕草子なんかじゃないわ」
スポットライトに少し目を細め、笑った。
「帰ってくるから。あなたの前に」
「──マジかよ」
「たった四年よ。待つんでしょ?そのとき、あなたを選ぶわ」
「──俺を」
「言ったでしょ。わたしは、選ぶ。自分の人生を、誰とどう過ごすか。あなたもそうだって、今言ったじゃない」
笑ったまま、カンナは両手を広げた。
その意味が分からず、タケルは立ち尽くした。
──お兄ちゃん、頑張れ!
──タケル!あんた男でしょ!
客席から、二人の声。
「ほら、タケル。ラストだ。完璧にキメろ」
ターンテーブルの脇のハルトが片眉を上げ、いたずらっぽく言う。
──タケル!タケル!タケル!
フロアを包むコール。
広げたカンナの腕からマイクがこぼれ落ち、鈍い音をスピーカーが揺らす。その瞬間、タケルに二度目の落雷。
それで、意味が分かった。
そこには、扉があった。
たしかにあって、開かれていた。
駆けた。わずか三歩の距離を。
駆けて、駆けて、跳んだ。
そして、彼の
緩いパーカー越しの柔らかな温もりと、世界を埋め尽くすほどに咲き誇る金木犀の花が、スポットライトとミラーボールの光できらきらと輝きながら、彼を包んだ。
「今から、コラボだね。タケルfeat.カンナ」
照れ隠しなのか、カンナがジンジャーエールのようにいたずらっぽく笑う。
「言ってろ」
それに、タケルは応えた。そしてカンナの手を強く引き、二人でステージから飛び降りた。
その先にある道は長く、遠い。だからこそいい。どんな音を二人が奏でるのかは誰にも分からないが、今、少なくとも、二人は繋いだ手を通じて互いの
完
枕草子を今歌え 増黒 豊 @tag510
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます