普段は冴えない天パの汚れ眼鏡ダサスーツ男、しかしその本性は悪をもって悪を制すハブと呼ばれる存在!
前半のほぼ悪口みたいな形容は、私が言ったのではありません。
その男――羽布先生の税理士事務所で、アシスタントとして働く睦美による言葉です。
この睦美の視点で語られるお話なのですが、金にまつわる人の悪意、そして悲しみと理不尽の凄まじいこと凄まじいこと。
しかし何だかんだと一途で明るい睦美のおかげで、重苦しさに溺れることなく、むしろ彼女と一緒に一喜一憂しながら先を追いかけてしまいました。
後半は、まさかまさかの連続。
本気で手に汗握り、正義とは何か、悪とは何か、蠱毒で生き残る者が認められるのならば正義も悪も定義する必要などないのではないかと、激しく心が揺さぶられました。
全てが一つに繋がるラストは、圧巻!
ハブにマングース、ではなく、ハブとマングース。
皆様にも是非この物語を読んで、このタイトルの意味を噛み締めていただきたいです!
正義とか悪とか、それを断ずる基準は個の中にしかないのだと再認識しました。
羽布税理士事務所で助手として働く万睦美が、「先生」である羽布とその周囲で起こる事件について語っていく形式で進む物語です。法律に触れない範囲で相手に不利な条件に陥れ、破滅させる。法で裁けない悪人に対して、胸を張っては言えない方法で手を打っていく先生は、本人も言っている通り「悪人」に分類されるのでしょう。
睦美は正義感が強くじっとしていられない性分で、なんとか先生を信じようと動いたり、恋におちた人のために全力疾走できるタイプの子です。彼女の善性に救われる部分も物語としてはあります。ただそれだけではなく、そんな善良な一般市民である睦美をもってしても、誰かを悪人とか善人とか、正義とか悪とか、それを訴えるだけの根拠を持っていない。なんとなく、それは悪だと感じている。そういった割りきれないもの、その深さを感じる小説だと思います。
後ろ暗い過去を持ち二つの顔を使い分ける税理士と、そうとは知らずに彼を手伝う光のアシスタントの物語です。
ダークヒーローたる羽布先生が、とにかくカッコいい!
普段の冴えない雰囲気から一転、闇の仕事をする時に纏う冴え冴えとした気のギャップ。
そこへ、正義に燃えるアシスタント・睦美ちゃんの視点で迫っていく緊迫感に、凄まじいリアリティがあります。
税絡みの法律の話も出てきますが、難しさは感じません。
むしろ物語に深みと説得力を齎すエッセンスとして、非常に巧く台詞に組み込まれており、税務のプロのカッコよさを感じました。
どこかに実在しそうな、血の通った魅力的な登場人物たち。
絡み合う思惑と拗れゆく人間関係。
窮地からのどんでん返しで悪人を懲らしめる展開に、最高のスカッと感を得られます。
実写化希望です。とても面白かったです!