悪人は、「悪人」が裁く。

 正義とか悪とか、それを断ずる基準は個の中にしかないのだと再認識しました。

 羽布税理士事務所で助手として働く万睦美が、「先生」である羽布とその周囲で起こる事件について語っていく形式で進む物語です。法律に触れない範囲で相手に不利な条件に陥れ、破滅させる。法で裁けない悪人に対して、胸を張っては言えない方法で手を打っていく先生は、本人も言っている通り「悪人」に分類されるのでしょう。
 睦美は正義感が強くじっとしていられない性分で、なんとか先生を信じようと動いたり、恋におちた人のために全力疾走できるタイプの子です。彼女の善性に救われる部分も物語としてはあります。ただそれだけではなく、そんな善良な一般市民である睦美をもってしても、誰かを悪人とか善人とか、正義とか悪とか、それを訴えるだけの根拠を持っていない。なんとなく、それは悪だと感じている。そういった割りきれないもの、その深さを感じる小説だと思います。

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