『語彙世界』は言葉の自家製型録。決して色褪せることのない価値の辞書。


学校で習うことのない常用外漢字。
造形が美しい画数の多い文字。
古文の中に匿われる言葉。

実用性より装飾性が心地好いこともあるのですね。
文學の「物語性」を超えた「文字そのものの可能性」に気付きます。
眺めて学んで堪能したい御方へ、お薦めの型録です。

辞書を読んでいるかのような感覚でありながら、浮かび上がる光景があり、それらは一話ずつ独立しています。
漢詩の趣きの彫像。異国の単語を鏤められた絵巻物。特定されない舞台に射す光と影の風景画。
そのように感じられる文章の行間には、自分の解釈で埋めることの可能な「余白」があります。奥床しい風情を感じる次第です。

質と品の良い綺麗な言葉の自家製型録(カタログ)。
現代の国語から失われつつある言の葉を拾い上げ、言の葉の可能性を未来へ繋ぐ試み。
この語彙世界は過去・現在・未来を行き来する、言葉と物語を載せた舟の如く、航(ゆうたり)と時代の海をたゆたうのです。

作者様の繊指(ゆび)が掬い上げる語彙というエッセンス。
それがデジタルの画面上に、或るひとつの「美の指標」に沿って歌い上げられていく物語を、言の葉の細波が脳に寄せる恍惚を、是非、味わってください。

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