女王の独白
私が好きなのは自己中心的、傲慢、それでいて支配欲に塗れた男。
それを屈服させ、跪かせる瞬間が最高にゾクゾクする。
鳩尾にヒールを突き立て、泡を吹いた男を抱擁、甘い言葉の飴で彼らは堕ちていく。
ああ、たまらない。醜い悪意が、利己心が、保身が、プライドすら涎とともに吐き出され、私好みの忠実で愛らしい犬になる。それが何よりも心地いい。
私が好きなのは悪意。自己中心的で、傲慢で、支配欲にまみれた悪意。私がまるごと平らげて、この魂の糧にして差し上げましょう。
……愛?ばかげたことを言わないで。貴方ごときに与える愛なんてないわ。
私が愛したのは1人だけ。私が恋するのも1人だけ。それは貴方じゃない。
あの人はどう言うかしら、今の私を見てどう思うかしら。
悪趣味だと苦笑いして、やりすぎるなとたしなめて、俺にはするなよと青ざめるのかしら。
「……義姉さんは、兄さんにもそういうことをしたいって思ったの?」
入口付近で気まずそうに、夫の弟は声かけすらためらっているように見えた。
鞭打たれた男は恍惚と全身を痙攣させ、火照った頬で白目を向いて失神している。
義弟の言葉には答えず、駄犬の縄をスルスルと解く。
「兄さん、言ったら応えてくれたかな」
「……あの人としたいって、思ったことはないわ」
いいえ、本当は少し、虐めたいと思ったことはある。……けれど、酷いことをしたい、なんて、思えるわけがない。
自分より他人を優先して、
傲慢に見せかけても本当は純朴で、
支配や、権威なんて言葉が大嫌い。
そんなあの人を愛していた。
今だって愛している。
「これは求愛でなく躾。欲望の発露よ」
「義姉さん、恨みじゃないの?」
自己中心的で、傲慢で、支配欲に満ちた相手を知っている。
私の兄は、私の母は、夫を追い詰め、義弟を苦しめ、弟に恐怖と挫折を植え付けた。
「……兄さんは、たぶん悲しむよ」
この憎悪がいつか慈愛や博愛に変わるなら、止むことのない衝動も、形を変えることがあるのかしら。
薬指で、相手を失った結婚指輪が輝いていた。
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