敗者の街 ― Happy Halloween Ⅱ ―
目が覚めたら、そこは見知らぬ場所だった。
暗闇にぽつねんと佇む廃墟。奥の方からは、何やら話し声が聞こえてくる。
……と、入口に誰かが現れた。
金髪に、茶色の瞳。どこかあどけないそばかすのある顔立ち……見覚えのある風貌だ。
そいつは座り込んだままの俺を見下ろし、口を開いた。
「今年のハロウィンはサプライズ開催らしい」
「……またやるのかよ……」
言い忘れたが俺の名前はアドルフ・グルーべ。
ちょっと片腕がないだけのそこらにいるオッサンだ。
話すと長くなるので、詳しくは「敗者の街」本編を読んで欲しい。どうせ今回もネタバレあるだろうしな。
「ちなみに仮装だけど、今回は決めるところからやるってローザが」
「幹事そいつなんすか……。ここムーンライトじゃねぇんですけど、大丈夫っすか」
「大丈夫だ。そこら辺はレヴィがコンプライアンスをチェックしてる」
レヴィならなんやかんや真面目だし信頼できるが、それはそれであいつの胃が心配になるな……。
「じゃあ、行くぞ。そろそろ全員集まってるだろうし」
キースは俺に背を向け、会場の方へと歩き出す。
ついて行くと、廃墟内の一室で会議が行われていた。
「全裸に首輪はどうかしらぁ」
「却下だ」
「ならその上にコートはどうかな? もちろん下着は無しで」
「却下だ」
「下着の代わりに亀甲縛りにでもしたらカミーユあたりが悦ぶだろ」
「窒息するほどギチギチにやってくれるならアリかな」
「却下だ!!」
会議は紛糾していた。そして、レヴィの胃痛はおそらく最高潮に達している。
帰りてぇ。
「衣装はもう準備したんだけど、一人分足りなくて知恵を絞ってるらしい」
キースが注釈してきたが、どう考えても絞られてるのは知恵じゃなくて欲望だ。
「……変態どもに付き合っていては時間がいくらあっても足りん。ロバート、何かいい方法はあるか」
「普段着が既に仮装っぽい人連れてきたら?」
「なるほど。ではロジャーにそのまま来いと頼んでもらえるか」
骨チラ軍人は……まあ、確かに仮装っぽいな。
くそ、またあのカオスな空間に放り込まれるのかよ……。俺だってトラックに轢かれたんだから異世界転生ぐらいさせてくれたって良いじゃねぇか。最近流行ってんだろ。そこら辺のオッサンが死んで異世界に行くの。
……いや、ここもある意味異世界か……。
「……しかし、どこの廃墟だ。ここ」
「え、僕の死に場所だけど。そこら辺に血文字残ってない?」
俺の疑問に、カミーユがサラッと答えてくる。
また事故物件じゃねぇか。勘弁してくれ。
「ロジャー以外ねぇ……わかったわ。男は全員女装で女は全員男装でどうかしら」
「夫が絡まなくなると雑になるんだね」
ローザの提案に、ロナルドがやれやれといった様子でぼやく。
「あれ、それだとレヴィくんはどっち……?」
ロバートの疑問に、レヴィも真剣に悩み出す。
女装はしたくないが、自分は男だと主張したい……そういった感情の板挟みになってるのがよくわかる。
「……ローランドくんもどっちなんだ?」
「そうねぇ……」
キースの言葉に、ローザが思案する。
……ん? この流れ、少なくとも俺が女装するのは確定になっちまうんじゃ……?
「女装って、似合わない人がするから価値があるんだと思う。僕は似合うからしなくて良くない?」
カミーユが真剣な顔で交渉に入る。マゾだがそういう辱めには興味がないらしい。
……いや、この流れはまずい。ますます俺の女装が近づいちまう。
「そうだな。カミーユさんの言う通り、似合わない者がするから面白い。せっかくの祭典だ。意外性を重視すべきだろう」
くそ、レヴィもここぞとばかりに乗りやがった……! ロバートはその横で「レヴィくんならなんでも似合うよ」なんて呑気なことを言ってやがる。
「だ、だがよ、似合わねぇ女装なんて誰も見たかねぇだろ」
「私もアドルフに同意しよう。そういうものはね、一時のインパクトだから許されるんだ。長い時間は見るに堪えない」
俺が反論すると、まさかのロナルドが乗ってきた。
こいつは口が達者だ。敵に回すのは恐ろしいが、味方にできりゃ心強い。
「長かねぇよ。ハロウィン終わるまでだぜ? じゅうぶん一時のインパクトだっつの」
そんでもって、レニーの発言がごもっともすぎる。俺にゃ反論できねぇ。
「……なるほど、一理あるね。じゃあ私はシスター服でも着ようかな」
この野郎……!! 旗色が悪くなったと見りゃ容易く傷が少ないチョイスをしやがった……!!
しかも他の野郎が遠慮して着にくいモンを選ぶたァ策士じゃねぇか!!
「もうすぐ他のメンバーも来る頃だし、さっさと決めておきたいわねぇ。今まで出た案を参考に、わたくしが決めて構わないかしら?」
「君が決めるとロクなことにならないし、参考にもしないだろう」
「失礼なことを言わないでちょうだい。そこは約束するわよぉ。いたずらに信用を損ねるのはビジネスをする者として失格よ」
変態兄妹が揉める中、黙っていたキースが口を開く。
「公平に、くじでいいんじゃないか?」
……まあ、それが一番簡単だよな……。
***
メンバーは続々と集まり、廃墟は途端に賑やかになっていく。部屋は腐るほどある(実際ところどころ床が腐ってる)ので、着替える場所には困らなかった。
「こういうのって、着るのは楽しいけど……なんだか、恥ずかしいな」
ローランド(アンドレア)は黒い猫耳を付けて黒いスウェットワンピースを身につけている。
部屋から出てきた瞬間、ロデリックが奇声を上げて壁に頭を打ち付けていた。大丈夫かあいつ。
「……幽霊が出そうな廃墟だな」
「まだ幽霊怖がってんのかよ……」
「か、顔見知りはもう平気になったから! な、ロッド!!」
アンドレアは俺のツッコミにはそう返しつつ、吸血鬼の格好のエリザベスが隣を通った途端「ひっ」と小さく悲鳴をあげて隣のロデリックに抱き着いた。勢いで二叉のしっぽが揺れる。
ロデリックのほうはというと、白いキモノを来て頭に……なんか、三角の布をつけている。何の仮装なんだ、アレ。
「ちょ、おっぱい当たっ〇✕△■……」
「ロッドー!?」
猫耳姿の妻に抱き着かれたことで、ロデリックは鼻血を吹いて気絶した。刺激が強すぎたらしい。
あ? 俺がなんの格好してるかって? 頼むから聞くな。
「お、アドっさん、バニー? なんか似合ってんじゃん」
「地の文で誤魔化してんだからセリフでバラすのやめろ」
「へ? 何言ってんだ見たまんまバニーだぜ」
レオナルドがなんか言ってるが気にするな。
ちなみにレオナルドはウェディングドレス(※血糊付き)。胴体がキツそうな上に転びそうな裾だが、さすがは百獣の王。身のこなしが軽い。
だが見てくれはもはや地獄絵図だ。くじってのは公平だが、本当に恐ろしい。
「あー……視界悪い上に肩凝る……」
かぼちゃを被ったカミーユがぼやく。
ちなみに幽霊組は今回実体化してないので、肉体のないやつの分は衣装がない。どうりでレニーは余裕をぶっこいてたわけだ。
「……あ、イイこと思いついた」
「ぎゃぁあぁああ軽率に首ポロすんなよ!!!!」
カミーユが被り物ごと頭を外したので、隣のグリゴリーの悲鳴が響き渡る。
ちなみにシスター服を引き当てたのはグリゴリーだった。イオリがおもちゃの銃で遊んでたので没収したのが手元にあって、よくわからねぇがなんか似合う。
「イオリ……武器、人に向ける、の……危ない……」
「でもおもちゃだよー?」
「ん……おもちゃも、だめ……」
カウボーイの格好のイオリを、ブライアンがたしなめている。
オザキの方のイオリもそばでしゅんとしつつ聞いている。おそらく「撃ってみて」とか言ったんだろう。
ちなみにブライアンはナース服。元が中性的な感じだし、体格のことを除けば普通に似合っている。……体格のことを除けば。
「おもちゃ、でも……挑発に、なる……人、いる……」
「……! 確かに! サバゲーとかで警察沙汰になりそうな人いるいる!」
ブライアンの説明にハッとするイオリ。
まあな。ろくでもねぇクズはいっぱいいるもんな。
「ったく……ビビらせんじゃねぇよ。寿命縮んだらどうすんだ」
「君こそ、いい加減慣れてよ」
『いやいや、首が落ちるのに慣れたらそれはそれでおかしい気がするね。ボクも未だに笑えてしまうくらいだし』
「サワは黙ってて」
ちなみにカミーユの胴体は脇にかぼちゃの被り物(in自分の頭部)を置いて壁にもたれている。周りでダチの幽霊どもがワイワイ話してるのが見える。
『……肉体がなくてよかったわ。見てらんなくて吐きそう』
……ノエル(らしき声)の発言は、俺やレオナルドのことか……?
「れ、レヴィくん……カッコイイ……」
「……。そうか……?」
ロバートがうっとり見つめる先には神父姿のレヴィ。ちなみに四礼が勝手なことをしないよう、封印された刀をしっかりと握っている。
本人の生い立ちもあって神父の格好は微妙な気持ちだろうが……まあ、確かに、すげぇカッコイイ。悪魔祓いっぽい。ぜひグリゴリーと並んで欲しい。
まあ、こいつの場合事情が事情だし、断ることもできたろうが……
「女装よりはマシと思ってな」
「……うん……そうだね……」
「大丈夫だ。似合っているぞ」
「それ……大丈夫なのかな……」
ロバートは自分のメイド服を見下ろし、項垂れる。
大丈夫かどうかは知らねぇが、俺らよりは似合っている。俺はそろそろ脱ぎてぇ。
「しかし、良かったのかね。私は自前だが……」
「軍服で骨が見えてるなんて、仮装としてもハロウィンとしても完璧よぉ」
ロジャーとローザの夫婦は楽しげに語らっている
妻に褒められ、ロジャーは「そ、そうかね」と照れ臭そうに骨の指で頬をかいた。
ローザはチャイナドレスを優雅に着こなしているが、頭の札が鬱陶しいらしく、さっきベリっと剥がして捨てていた。それ、アリなのか……?
ちなみにさっきからロナルドの姿がない。えぐい女装でも引いて身を隠してるんだろうか。
あいつ、人にさせるのは好きそうだが自分がやるのは嫌がりそうだからな……。
なんて思ってるところを、サーラに呼び止められる。隣にはレニーもいる。
「アドルフ、キースはどうしたんだい?」
「俺らもさっきから探してんだが、とんと見かけなくてよ……」
サーラは狼男の仮装だが、キースが確かめずにどこかにふらっと行くとは考えにくい。……あいつ、どうしたんだ……?
「まだ着替え中か……?」
「着替えつったってあいつも霊体組だし、そりゃねぇだろ」
そういやそうか。……あいつは、肉体がねぇんだったな。
……なんて話をしてると、奥からフラフラと金髪の影が現れた。フリフリのゴシックロリータドレスを着ているが、間違いない。キースだ。
「ロナルドと交渉の末、僕が憑依して着ることになった」
青ざめた顔で、キースは語る。なんだ交渉って、どんな取引があったんだ。
「交渉の内容については聞かないでくれ……あんな恐ろしいこと、僕には容認できない……僕がこの姿になるだけで済むなら、それに越したことはないんだ」
いったい何があったんだよ……!?
「……見直したぜキース。見てくれは悲惨だが、なかなかに男気のある姿じゃねぇか。……見てくれは悲惨だが、な」
「誰かのために恥ずかしい格好をするなんて、やるじゃないか。……ほんとに恥ずかしい格好だけど……!」
サーラ、レニー、やめてやれ。笑いを堪えてるのはわかるが、余計に傷を抉ってる。
「よほど、着たくなかったのでしょうね……」
「まあ、俺でも着たくはないなぁ」
離れた位置で、アダムズ夫婦が何か言っている。エリザベスはさっき書いた通り吸血鬼の格好で、レオの方は霊体なので仮装はしていない。
2人の距離は少しだけ開いていて、息子との距離も遠い。
「……神父服、ですか」
「まあ、いいじゃないか。レヴィが着ると選択したんだ。俺たちがとやかく言うことじゃない」
「わかってる。……似合ってますね」
「エリーも似合ってるぞ」
「……あなたの仮装も、見てみたかった」
「そうかぁ。じゃあ、来年に期待だな」
ここはシリアス成分が強すぎて、ツッコミにくい。
それはそうとして、来年もこの与太話をやる予定あんのか……? 勘弁してくれよ。
「君の兄弟もなかなかの格好だけど、いいのか」
「兄弟の格好で嘆いてるのは俺じゃねぇぜ、アンジェロだ」
「あー……だろうねぇ……」
俺がよそ見をしている隙に、キース達の会話はアンジェロの方に移っていた。
そういやアンジェロは、実の親父がウェディングドレス着てることになんのか。……お、おう……。
「……あ、ロデリックからメール……って、この文面はアンジェロだね。親父がウェディングドレス着てうんこ座りでタバコ吸ってるのが耐えられねぇから帰る……ってさ」
「お疲れさん……。クリスマスにゃもっと楽しめるよう祈っとくぜ」
本当にお疲れ様だ。ゆっくり休んで欲しい。
……って、来年どころかクリスマスもなんかやる気かよ!? 休ませろ!?
「レニー、クリスマスくらいはサーラと僕にチャンスをくれてもいいんじゃないか」
「……それを決めるのはお前さんじゃねぇぜ。サーラだ」
懲りずにアタックしようとするキース。もういい加減諦めた方がいいだろ。
サーラのほうは、聞かなかったふりをしてタバコを吸っている。キース……あんだけスルーされてんのになんで諦めねぇんだよ……。
「……と、悪ぃ。席外すぜ」
「ああ、わかった。……なるべく、僕のことは見ないで欲しい」
「……わかってますよ。俺のことも見ないで欲しいんで」
さすがにちょっと疲れたので、風通しの良い廊下に場所を移す。
「ロッド、体調大丈夫?」
「昇天しそうだけど最高」
「……やっぱり調子悪いんじゃ……」
先程鼻血を吹き出したロデリックは、化け猫の格好をしたままのアンドレアに介抱されて楽しそうだ。よく見たら白いキモノに鼻血が飛んで、余計にハロウィンの仮装っぽくなっている。
アンドレアは本気で心配しているらしいが、ロデリックは膝枕を堪能している。
お幸せに。
「……レヴィくん、僕も、その、膝枕……」
ちょっと離れた壁際でタバコを吸っていると、ロバートとレヴィも休憩にやってくる。
姉夫婦……兄夫婦? の様子を見ていたロバートが、レヴィの方に視線をやる。恋人に膝枕されてぇって気持ちは俺にゃわからねぇが……奴らにとっちゃ憧れなんだろう。
「奇遇だな。その、俺も……。……いや、なんでもない」
おい、そっちもメイド服で膝枕されてぇってか。
……と、レヴィと目が合った。
「……アドルフさん、その格好で歩き回るのは……。……いや、やめておこう。厳正なるくじの結果であり、希望したわけでもないからな」
ふい、と目を逸らし、レヴィはこほんと咳払いをした。見るに堪えないってか。悪かったな。
でもな、お前は似合わない女装を推進した側だからな。忘れんなよ。……いや、本音を言うと忘れて欲しい。一刻も早く記憶から消し去って欲しい。
「……アドルフさん、あんまりアンのこと見ねぇでください。めちゃくちゃ可愛いのは分かりますけど……」
「ちっとも見てなかったし膝枕されながら言うな」
「……ロッド、やっぱり血出しすぎたんじゃない?」
なんて会話をして、会場に戻る。
ロジャーが「ロー! 持ってきたぞ!」と、ペットボトルの水を抱えて廊下に走っていったが、頼まれたんだろうか。
「あなた、その大きさは飲みにくいわよ……って、まあいいわ。ロデリックに飲ませるんだろうし」
ローザの冷たい一言が聞こえる。ロデリック、ドンマイ。
……と、肩をとんとんと叩かれ、振り返る。
「……ッ!?!?!」
首のない男がそこにいた。
身振り手振りで何か伝えてくるが、さっぱり分からねぇ。
『首が被り物ごとどっか行ったのよ』
『非常に愉快な状況だね! ……じゃなかった。『我が友』くんも見当たらないんだ。何か知らないかい?』
友人達っぽい声がする。要するに、カミーユの首が盗難事件にあったってことか。
「僕……も、探してる。けど、ない……」
「モナミくん? は被り物の中に一緒に入ってたらしいしぃ、いおも探してんだけどぉ……」
困り果てた様子のナース(ブライアン)とカウボーイ(イオリ)。オザキも横でオロオロしている。
カミーユ(の胴体)は腕組みして考え込んでいる。焦ってるのか困ってるのか怒ってるのか、頭がねぇとこんなにも分からねぇモンなのか……。
「もう諦めろよカミーユ。首がなくてもイケメンじゃなくなるってだけだろ、いいじゃんそれで」
「えっ、それ大問題じゃん!? カミーユさんがイケメンかどうかってだいぶ大事!!」
グリゴリーがなんか言ってる。イオリが噛みつき、オザキがボソッと「それ以前に……目とか見えないの、大変だと思う」と反論する。
カミーユは肩を竦め、手を「やれやれ」みたいな形に振った。……思ったよりわかりやすいな。
「ゲホッゴホッ」
「誰かコップを持っていないかね!」
ロジャーがなんか叫んでる。誰かが噎せる音も聞こえる。何が起こったのか何となく分かった。今回はトラブル続きだな……。
「俺、コップとってくる。えーと、枕がわりになるもの……あっ、レオさん、そのかぼちゃ貸して!」
「お? いいぜ、そこらへんで拾ったやつだし」
犯人てめぇかよ!! それカミーユの首が入ったかぼちゃだろ!
「なんか中に入ってて重いし気ぃつけろよ~。食えねーっぽいし」
しかも食おうとしたのかよ!! 被り物自体はプラスチックとかアクリル樹脂とかじゃねぇのか!?
「ありがとう、ちょっと借りるね……あれっなんか落ち……た……」
そこで声が途絶える。
「ロー!! しっかりしろ!! 何ということはない、本編ではよくある光景だ!!」
「ロー兄さん! しっかり!! 胴体落とさないで!! あっ今は落ちないんだっけ!?」
「……アンと呼んだほうが良かったかね!?」
「どっちでもいいんじゃないかな!!」
ロジャーとロバートの悲鳴が聞こえる。
どんな悲劇が起こったのか、だいたい察した。
数分後、今度はアンドレア(ローランド)がロデリックに介抱されていた。隣で首を戻したカミーユが「な、なんか、ごめんね」と謝っている。頭に木彫りの人形が乗ってるのには、気付いてねぇのかな。
「中に物入ってるかどうかくらい見ろよ……」
「でもよ、フツー生首入ってるって思わなくね?」
「……思わねぇな!」
レニーとレオナルドが何やら言い合ってるが、 分かる。そもそもポロった首をそこら辺に置いておくのもどうかと思うしな。
「ごめんって」
カミーユは、なぜかまだ謝っている。
「……なぁ、俺の見間違いじゃねぇよなぁ」
ロデリックがなぜか低い声で問い詰めている。
「君の言う通り、どさくさに紛れてワンピースの中見たよ……ほんとごめん……ついでに今もちょっと……君の殺意にゾクゾクしてて……うん、ごめん……あっ、冷たい目で見ないで興奮しちゃう」
何してんだこいつは……!?
その後、カミーユとレオナルドはレヴィに叱られていた。すっかり忘れてたが、レヴィがコンプラを確認してるんだっけか……。
***
時間はあっという間に過ぎた。……というのは、ロバートやイオリの感想だ。俺にとっちゃ、だいぶ長い時間だった。
「そろそろ時間よお。お兄様、憑依は抜けてもらっていいかしら。霊体組は着替えがないし、先に帰らせることにしているの」
「ロナルド、これは契約違反にはならないはずだ。心苦しいけど不可抗力だし、仕方ない」
会場の方からローザとキースの声がする。俺は別にロナルドのゴスロリなんざ見たかねぇが、レヴィとロバートは嬉々として会場内に入っていった。カミーユに至ってはスケッチブックを準備している。
レヴィが刀の鞘を確認していたが、元警察として刃傷沙汰は止めるべきか……? ……まあレヴィはコンプラ確認担当だし大丈夫だろ。殺ったとしても描写できるレベルに留めるだろうし……たぶん。
「……すっげぇ、これ、まだキースのが似合ってたよ」
「ははは、似合っていると言われなくてむしろ良かったよ。しかし、似合わないと言いつつしっかり見続けるなんて……グリゴリー、君の目はどうやらガラクタらしいね」
「ん、2人とも……喧嘩、だめ……」
……色々あったが、今回のハロウィンはこれで終わりらしい。良かった。ようやくこの衣装から逃げられる。
「アドルフ」
キースの声に振り返ると、そこには誰もいなかった。もう、俺には見えないようになってるらしい。
「言い忘れていたことがあるんだ」
……とりあえず、耳を傾ける。
俺らの因縁を思えば、言いたいことも一つや二つじゃねぇだろうし。……とはいえ、俺にゃ、特にねぇけどな。
終わったことは終わったことだ。キースがどう思ってるかは知らねぇが、過去に取り返しはつかねぇし、つけようとも思わねぇ。
「その格好、似合ってないけど面白いぞ」
「……わざわざ、それを言いに来たんすか……」
前言撤回。
ハロウィンでバニーを着たことは、なかったことにしたい。
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