日常

※「敗者の街 ― Requiem to the past―」終盤 のネタバレを含みます。




 ***




 朝の光が眩しくて、目を覚ました。

 朝は苦手だ。光が目に突き刺さるし、誰もが起き出して動き出す。要するにうるさい。

 部屋のホコリなんかも目に見えて嫌になるし、朝にいいことなんてない。夜に起きる生活の方が随分と気楽だ。……と、何年も思って生きてきた。今も、それは変わらない。


 でも、今日は起きなきゃいけない理由がある。


「……しんどいなら、寝ててよかったのに」


 隣で彼女が、困ったように目を伏せる。

 ……そういうわけにはいかない。もう、平気なフリなんてさせないし、させたくない。


「……むしろ、朝じゃねぇと混むだろ。こんなとこ……」


 自然公園なんてところは、昼間や夕方になるとピクニックだのデートだので余計に騒がしくなる。

 俺はまあ、我慢すればいいが、彼女の身体に障ることはしたくない。

 それに、朝の空気を吸って散歩するのは嫌いじゃない。むしろ清々しくて好きだ。……昔なら、それにも罪悪感を覚えてたのかもしれないが……


「……リハビリくらい、1人でもできる」

「俺が隣にいたいんだよ。ほら、倒れた時とか介抱できるし……」

「……なんだか昔と反対だ」


 苦笑して、アンはちょいちょいと俺の服の袖を掴んだ。意図を察して、手を握る。


「大人になったなぁ、ロッド」

「アンこそ、どんどん綺麗になる」

「……そんなとこまで大人にならなくていい」


 恥ずかしそうにコートのファスナーを口元まで上げて、アンはそっぽを向いた。

 兄さんや姉さんって呼んでた頃が懐かしいくらい、俺の図体はでかくなって、アンに手を引かれることもなくなった。

 こうやって、隣に立って歩くのが当たり前になった。


「痛んだらすぐ言えよ」

「……ロッドこそ、疲れたらすぐ言えよ」

「別に俺はいいし……」

「じゃあ俺も言わない」

「……すいませんそろそろ疲れました。ベンチに座りたい……」

「ふふ、よく言えました」


 叶わねぇなぁ、なんて頭を掻きながら、目を細めて笑うあなたが隣にいる今を、この日常を、心から幸せだと思った。




 2018年11月23日……今日のこの日が、なんでもない日であることが、心の底から愛おしい。

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