敗者の街 ―Happy Halloween Ⅴ ―

 どうも。本編は休載中ですが、ハロウィンは例年通り行われることになりました。

 現場のオリーヴ・サンダースです。


 今回の会場はというと……


 インターネットです。

 オンライン開催、というやつですね。別に時事ネタとかは関係ありません。敗者の街の世界観は現実世界とよく似た歴史を辿った並行世界。良いね?


『さっきから誰と会話してんだよ……』


 と、ロデリックのアイコンが点滅し、ぴょこぴょこ動く。

 あれ、おかしいな。私(あたし)、声に出してたっけ。


『それにしても、インターネットって便利だよね。死者の世界とも繋がりやすいし』

『ホントは簡単に繋がってもらっちゃ困るけどね~~』


 続いて、カミーユとイオリのアイコンもぴょこぴょこ動く。そうだね。世界中どころか死者とも繋がれるってすごいよね。死者は厳密にはネットを介してる訳じゃない気もするけど……


『あ、レヴィくんから繋がらないって。あの子機械音痴だから……』

『こっちもぐっさんから連絡来てる~。レオぴがホームレスでもネット出来るとこ教えてって言ってんだってぇ。あ、金髪の方のレオぴね』

『……イオリ、いつからレオナルドのことレオぴって呼んでんだ……?』


 カミーユ、イオリ、ロデリックの順にアイコンが飛び跳ねる。

 うーん、さっそくカオス。

 まあ、私はこういうゆるーい感じのが楽でいいけどさぁ。


『霊界|(?)からの繋ぎ方ってコツいるしね。後はレニーさんに投げた』


 カミーユが言う。

 あー、そうなんだ。そういうのもコツとかあるんだ。為になるぅ……。……いや、本当に為になる、のかな。まあいいや。


『そういやこの場合、ポールとヴァンサンがどっちも参加してくる可能性あるよね』

「ややこしいこと言うのやめよ? たぶん、二人とも来ない気がするし」


 っていうかポールからメールで欠席の旨は聞いてるし。マノンも同じく。

 理由は二人とも同じ。

 平たく言うと、「第二部組って、ネタバレの扱い難しくない???」……それはそう。はよ完結しないかな。


 ……と、耳にぞわりと不気味な声がまとわりついた。

 な、なにこれ。怨嗟の声、みたいな……。


「だ、誰!? イタズラ!?」

『……悪い。間違えて環境音が入ったようだ』


 私の叫びの後に、申し訳なさそうな声が届く。

 画面を見ると、初期アイコンがぴょこぴょこと動いている。……名前の欄は、「レヴィ」……。


 環境音なのあれ!?


『あー、あそこ、そういうのよく聞こえるよな……』


 ロデリックのアイコンから、ぼそっとアンドレアの声が聞こえる。あー、はいはい、隣にいるんだねご馳走様。……じゃなくて!

 ここに来てちゃんとしたホラー展開はやめて!?


『あー、悪ぃな。ネット経由だと余計に「何か」を拾いやすいらしい』


 レヴィのアイコンから、今度はレニーの声がする。ややこしい。けど、この「誰が誰だかわかんなくなってくる」感じ、最高に「敗者の街」っぽい……!

 あれでしょ! この後ロバートのアイコンでキースが喋り出す感じじゃん!

 ちょうど今入室音鳴ったし……!


『あらぁ、もう賑やかになってるのねぇ』

『ち、ちょっと! 僕より先に喋らないでよ義姉さん!』


 ……予想に反し、ロバートのアイコンで話し出したのはローザだった。


『遅れてごめんね。論文まだ仕上がってなくて……』

『えっ、それ大丈夫か』

『……えへっ』

『あーあ……俺は知らないからな』


 ロデリックのツッコミに、チャットでも可愛い絵文字を送ってくるロバート。アンドレアの呆れ声も、ちょっと遠い声で聞こえてくる。


『……誤魔化している場合ではない。早く論文を仕上げに戻れ』

『レヴィくんは、僕と話したくないの?』

『うぐ……っ』


 はい、またイチャイチャ劇場始まりましたー!

 あざといな。さすが第一部主人公あざとい。


『ちなみにわたくしも、この後予定があるの』

『ロジャー兄さんと?』

『うふふ、ご想像にお任せするわ……』


 ロバートのアイコンで、ローザは意味ありげに語る。

 明らかに声が楽しそう。つまりは「そういうこと」で良いんだよね?

 はぁ………………私も早く「彼」とイチャイチャしたい…………。

 ……と、天を仰いだところでまたしても通話ルームに入室音が響く。


『レニー、来てやったし連れてきてやったよ』


 サーラ、と名前欄に書かれたアイコンが増え、点滅しながら元気よく飛び跳ねた。


『よっ、兄弟! 久しぶりだな!』

『……ネットできる場所が見つかったみてぇで、何よりだぜ』


 サーラのアイコンがまた動き、今度はレオナルドの声がする。そしてレヴィのアイコンがぴょこぴょこと跳ね、レニーらしき声が返事をする。……ああ、またややこしくなって来た……。


『ぐっさんとアドっさんは?』


 レオナルドの質問には、イオリが答える。


『ぐっさんはブライアンとハロウィンデート~。アドさんは単なる不参加。誘ったんだけどぉ、『勘弁してくれ』って言われちゃった~』


 くそおおおおまたデートしてるやついるぅうう!

 みんなハロウィンとバレンタイン勘違いしてない!? ねぇ!?


『いおもこの後尾崎さんとオンゲーやるから、そのうち落ちるね。ハロウィンイベやんなきゃ』


 あー、ゲームかぁ。現実だけでなくネットもハロウィンに染まってるんだね……。すごいねハロウィン……。


『まあ、僕らは年中ハロウィンだけどね。死と生の境界的な意味で』


 カミーユが何かぶち込んできた。


「めちゃくちゃしれっとホラーを思い起こさせてくじゃん」

『おいおい分かってねぇなオリーヴ、今のは幽霊ジョークだよ』

『そうそう』


 レニーさん?? 幽霊ジョークってなに??


『ついでだし、ここらで幽霊あるある言っとくか?』

『……アリかもな』


 レニーの提案に、なぜかちょっと乗っかるアンドレア。

 あんたは結局生霊だったじゃん!?


『あるある……? 存在証明が不安定であることか』


 レヴィさーん!? 何初っ端から「ガチ」なこと言っちゃってんの!?

 てかレヴィは一応「半死半生」だよねぇ!?

 ……んんん、なんか、どんどん「死者」の定義がわかんなくなってきた。さすが自我すら錯綜する「街」の住人。頭がこんがらがってくる……。


『突然現れる、はどうかな』


 ……ん? 何だこのねとっとした感じの声。入室音もなかったし……

 しかも、背筋がゾワゾワする……


『……てめぇか』


 サーラ……じゃない、レオナルド……いやサーラの機材?

 の電波が死にかけてる。というか、邪魔が入ってるみたいにノイズが走ってる……?


『ここに可愛らしい子達がいると聞いてね。××を××しに』


 新しい客人が全てを言い切る前に、アンドレアがぴしゃりと言い放った。


『オリーヴ、キックはできる?』

「えっ、幽霊相手にキック機能効く!?」

『幽霊云々でなく、システム上弾くのが可能なら弾け。もし無理でも、こちらがどうにかする』


 狼狽える私に、今度はレヴィが追撃してくる。

 まあ、そうだよね。グループ通話に変質者混ざってきたらキックするのが普通だよね。


『ははは、酷い言いようだ。幽霊ジョークに乗っただけじゃないか』

『どぎつい下ネタで「ジョーク言ってやった」ってノリは正直キツいぜ。……キース! こいつ連れてけ!』

『ああ、分かった』

『おや、どこに連れていくつもりか……な……。……ああ……よし、逃げるとするか』

『待て、逃がすつもりはないぞ』


 レニーの背後からキースの声が聞こえ、真っ黒なアイコンがスウッと音もなく消える。

 いや普通にホラーな感じの入退場やめていただいて?


 ん? なんかポコポコチャット通知がうるさ……


『逃がしませんよ

 逃がしません

 逃がしませんよロナルド

 悔い改めなさい』


 チャット欄になんか流れてきてますがー!?


『……あー……失敬。混線があったようだ』


 レヴィが気まずそうに言う。

 もうううう!

 今日はホラーな雰囲気に仕事させなくていいんだってばあ!!!


『……そういえば、ノエルとサワはどうしたんだい?』


 サーラが綺麗に話題を逸らす。そういや怖いの苦手だったっけ、この人。


『ハロウィンってさ、芸術家にとってはぶっちゃけ作業日だよね』

『あー……』


 カミーユの言葉にロデリックが頷いてるけど、それは確かにそう。ロデリックは締切に余裕持たせる方だけど、そうじゃないアーティストやクリエイターもちろんいる。

 そう考えると、今まで参加できてたのが不思議なくらい。……いや、待てよ。冷静に思い返せば、私が参加した年どっちも、ノエル

とサワは真面目に参加してなかったような……?


「……あれ? カミーユは?」

『僕? 僕はそういう時事的な流行に乗る作風じゃないんだよね。見れば分かるでしょ』


 いやわかんないけどね?

 年中ハロウィンみたいな作風してると思ったけどね?


『ともかく、締切に追われて生死の境にいる芸術家達は今頃、「ハロウィン2日ぐらい伸びないかな」って思ってるはずさ』


 カミーユの言葉に続いて、チャットが二連続で動いた。


『ボクは3日伸びて欲しいね!!』

『直前で創作意欲刺激してきたの誰だと思ってんのよ』


 ……。……うん、頑張れ、みんな……。

 あはは……でも、私の仕事はハロウィン後かな……。

 セレブのハロウィンパーティー関連の記事……書かなきゃ……。うっ……頭が……。


『ぼ、僕も論文書かなきゃだし、みんなで頑張ろう……!』

『なんでどいつもこいつも何かに追われてんだよ』


 ロバートの言葉に呆れるレニー。


『オレもこの前めちゃくちゃ追われた。ポリ公に』

『そうかい。お前さんを追いかけなきゃならねぇポリ公にゃ同情するよ』


 そして、レオナルドの言葉にも呆れるレニー。


『あっちの「レオ」もポリ公は苦手っぽいしよ、「街」の時はアドっさんで良かったわ』

『それ、褒めてんのかい……?』


 レオナルドが「もう一人のレオ」の話題を出し、サーラが突っ込む。

 そこで、ロバートが思い出したように言った。


『……あ、そういや、そっちの「レオ」さんとエリザベスさんはどうしてるの、レヴィくん』

『……先程から、同じ空間で一切口を効かずに互いに視線を交わしあってはすぐに逸らしている』

『何それ可愛い』

『俺は気まずい』


 レヴィは、ロバートの呑気な感想にため息をついている。

 まあ……複雑な親子関係みたいだしね……。なんやかんや、満更でもないみたいなんだけど。


『レニー、アンジェロはどうしてる』

『今日に限っては、シレイと仲良くやってるよ。……ハロウィンだしな。たまにはこういうのもアリだろ』


 ……ああ、その二人なら、もしかしたら気が合うかも。

 アンジェロくんなら、シレイくんのことも救ってあげられるかな。……なんか、そんな気がする。


 ……にしても、予定で勝手に抜けたり、突然入ってきたり。

 こういうゆるい空気、やっぱり悪くないね。……欲を言うなら……


「彼」も来てくれれば、嬉しかったのにな。




 その時。

 状況は一瞬で変わった。


 ピロリ、と、メールのアイコンが着信を知らせた。メーラーを起動する。……画面一面に、そのメッセージが広がった。


 ……。ふふふ。可愛いこと言ってくれるじゃん。


「……ごめん、私用事できた」

『お? どうした。仕事か?』


 ロデリックのアイコンがぴこぴこ動く。

 続いて、私のアイコンが踊るように跳ねた。


「……ハロウィンデートっ!」

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敗者の街番外編(短編集) 譚月遊生季 @under_moon

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