ま、顔見えなかったんだけど
これは「敗者の街」に迷い込んだある少女の日常。
怨嗟と狂気に満ちた土地で、平然と振る舞う理由。
「こんなのよくあるじゃん?」
「えっ、君まだ13歳とかだよね!?そんな歳で一体何が……」
常識に意味はない。
彼女は産まれた時から「そう」だった。
「教えたげよっか」
そうして、彼女は語り始めた。
目の前の青年を過去に引きずり込むように、黒い瞳が瞬いて──
────
うち、城島家ってちょっとしたオカルトな家系でさ。
霊媒師の末裔……ってやつ。明治時代あたりにちょっと色々あって、神職の人らと結婚して神道の方に寄っちゃった特殊な家系なんだって。
テレビに出た親戚もいるし、雑誌でコラム書いてる親戚もいる。神社やお寺で働いてる人もいる。
そんで、いおのママは女優をしてる。言葉通りの取り憑くタイプ。たまに芸能人のサインとか写真とかもらえる。
だからこんなふうに、夢ん中でも話せんの。
「……慣れすぎだよ、変なの」
えー、子供の頃からフツーにあるもんこういうの。パパはよくビビってるけどさぁ。
「いいな、庵ちゃんは。お父さんもお母さんも優しくて」
そそ、いおはラッキーなの。超ラッキー。
「……いいなぁ……」
だけど変わってやんないよ。その代わり、いいこと教えたげる。
「何を?」
せっかく夢まで来てくれたから、お得に悩み聞いたげる。
「……お得に?」
未練とか、後悔とか、そういうのあるっしょ?
言っとくけどママに会ってたら手下にされて、パパに会ってたらビビりながら消されるからいおでラッキー。
「変なの。それで何かあったら……」
パパが消してくれるからどうにかなる。ダメだったら親戚の誰かがどうにかしてくれるし。
「……ずるくないかな」
いお、女子高生でJKで未成年だし。可愛いし。
「……ええー……」
ま、能力的にはポンコツも良いとこだけどねー。ちっちゃい頃からよく変なこと巻き込まれるし。
「……それでいいの?」
ぶっちゃけ慣れた。とりま、何でも話してー。
「……僕、父さんに殺されたんだ。父さん、僕のこと、そんなに嫌いだったのかな」
え、それお父さんがサイテーじゃん。
「僕が……父さんの言いつけ破らなかったら……」
は?言いつけ破ったら子供殺していいとかやばくない?フツーに無理じゃね?アウトじゃん?
「……そうだね、うん」
元気出しなってー。
「いや、僕もう死んで」
死んだら終わりじゃなくね?少なくともあんたには死後あんじゃん。今、実際に、ここで。
「…………また、来ていい?」
えー……ぶっちゃけ2回目タダはしんどい。イケメンの知り合いいたら連れてきて。あ、できたらちょい女顔系で。
「……やっぱりいいや」
そ?じゃ、頑張って幸せになんなよ。来世でもいいからさ。
「ありがとう」
どいたまー。
***
「おはよ、ママ」
「庵。来週の親族会議、予定どう?友達と遊びたいならママとパパだけで行ってくるけど」
「おじさん達怖いしそれでー」
いおはね、何回も霊障で熱出したし、何回も足引っ張られたし、何回も金縛ったけど、霊感あってラッキーだと思う。
「庵、パパ頑張ってくるからな!!ちゃんとママを守ってくるからな!」
「おばさんにビビって守護霊逃がしちゃった時みたいに?」
「うっ、で、でもな、庵。あの時義姉さんたちが言ったことは気にするな。跡を継ぐ必要なんかこれっぽっちもないんだぞ……!」
ヘタレだけど優しくて面白いパパ、素っ気ないけどたくさん気遣ってくれるママ。
いおが、幸せだってわかるんだもん。
「あなた、身を守らせる術だけはしっかり教えなさいね」
「庵はすごいぞ。俺が覚えるのに8年かかったのを3年で覚えたからな!低級霊ならもう楽勝だ!」
……だから、また来ちゃダメだよ。ほんとはもう、余裕で消せるんだから。
消滅したら、幸せもなんもなくなっちゃうし。
いお、優しいイケメン超大好きだから、特別ね。
────
「……ってことがあったの」
「……えっと、お父さんに殺された男の子は幽霊……?」
「いお、あれくらいのはミスって浄化どころか消しちゃう」
「そ、そっか……」
現実に戻った黒い瞳。青年の胸に、改めて畏怖の念が込み上げた。
──「敗者の街」、寂れた医院での1幕
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