あなたとともに重ねる日々が、世界に色を与えてゆく。

繊細な感性と鋭い洞察力によって織り紡がれた、人の生き様を描く作品です。
主人公は善性が強く純真で、それがゆえに脆さを抱えた大学生。自己嫌悪と隣合わせな堕落した日々の中、祖父が入院している病院で出逢った女性が、彼に変化をもたらしていきます。

絡まりもつれた人間模様、うまくいかない人間関係、上辺だけでやり繰りしていた危うい日々は、ひとつの「死」によって崩壊してしまう。
どん底まで落ちたからこその、再起のはじまり。
運命の糸を辿って伝播するかのように、その日々は彼を取り巻く人々をもそれぞれの囚われから解放してゆく、切っ掛けになっていきます。
過程は平坦ではありませんが、ひとつひとつ丁寧に重ねられてゆく物語は、まるで映画のようにそれらの日々を感じさせてくれるでしょう。

叙情的で描写力に優れた語りの中に差し込まれた、絵画、音楽、小説、哲学なども、物語に奥行きと深みを増し加えています。
各所に散りばめられた「美しいもの」は、読み終えた後にきっと心に深い余韻を与えてくれるに違いありません。
派手さはなく、薄明、夕焼け、月光、などのように淡くゆるく心を満たす物語。
ぜひこの機会に、堪能してみてください。

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