元ピアニストの腕の秘密。

「精密義肢師」という仕事をしているクリフ。
 彼は業界屈指の技術を誇るフィリップを師として、この仕事に従事しています。
 それならば、クリフが作る義肢の精度も高いはずと読者は思うことでしょう。
 しかし、出来上がったばかりであると思われる一本の義足は、顧客にキャンセルされてしまうのです。

 キャンセルされた原因は「信頼関係が十分に築かれなかった」から。

 義肢を注文する顧客たちは、それぞれ失った手足に対する思いを持っています。そのため、「精密義肢師」は顧客の気持ちに寄り添う必要があるのですが、クリフはそれができず、余計なことを言ってしまうようなのです。

 このままではクリフは独り立ちができそうにありません。
 そんなとき、師であるフィリップが、右腕が義手で元ピアニストのジャクリーンのところに一緒に行こうと言うのです。

 しかし彼女はフィリップの顧客のなかでも、より一層気を使わなくてはいけない相手。クリフがまたいらないことを言ってしまったら、今度は師匠の顧客まで離れて行ってしまうことは想像に難くありません。

 そのため彼は師の提案に気乗りしなかったのですが、師匠に促されてジャクリーンと会うことになるのです。

 読んだ後、彼の持っている技術の高さと、本当の誠実を見ることができれば、きっと「信頼関係」というのは築かれていくものではないかなと、そんなことを思いました。

 そして「ジャクリーンの腕」を通して、読者は二つの驚きに出会うことでしょう。それが何だったのか、気になった方は読んで確かめてみてはいかがでしょうか。

その他のおすすめレビュー

彩霞さんの他のおすすめレビュー410