ジャクリーンの腕

作者 Veilchen

71

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★★★ Excellent!!!

不幸な事故で腕を失った天才ピアニストのジャクリーン・シャーウッド。
彼女の義肢を造る工房で働くクリフは、師匠フィリップと共に彼女の許を訪れる。

ピアニストの義肢を造る話、かと思って読み始めた。
題材は面白いし、冒頭の一文からとても良い。

面白い、あるいはしっかりとした作品を読む時に、
私はそこに特有の「空気」というものを感じる。
それがあれば安心してその作品世界に浸ることができるのだ。

気にせずに読み進めれば良い。
話のバランスも良く、人物もそれぞれ癖がある。
最後まで読み進めれば驚きと感嘆を得られるだろう。

しかし本作を最後まで読み終えた時、あなたはこれが人間と近未来の技術、あるいは機械についての物語だと知ることになるだろう。
そして尋ねるのだ。

「なあ、クリフ。君は最初から――」

★★★ Excellent!!!

高性能義手への偏見的評価によって引退したピアニストとのもとへ、技師と一番出来の悪い弟子がメンテナンスに訪れる。

それだけの話です。しかしウェブ小説でたったこれだけの一場面から、出逢い・舞台説明・問題提起・心情描写・若干のどんでん返し的?結末等々を内包して無駄なく完結させているのは凄いと思います。

この短編に描かれた舞台は、きっと遠からず未来としてやってくる気がします。
人間と機械のミックスが産み出す芸術に対して、現在でも批判的姿勢にある人は少なからずいますし、人工知能が「人間のようであること」についてアレルギー的不安を抱えている人はもっといるでしょう。私達のある一定層は機械に自分達の立場を奪われるとか、人間らしさを失うとか屁理屈を言いながらその実、まだ機械とどう接するべきか考えあぐねている最中で、単にそれらを支配することで答えを出したつもりになっているように思います。
しかしこの短編にある世界のように、ピアノも弾けてしまう義手やAI技術が完成に近い形で存在することになったら? 私達はもう支配以外の形で機械達と共生していかなければならないのではないでしょうか。ジャクリーンのように。或いはクリフのように。

ラストはとても清々しいです。
これは説教臭い警鐘全開のSFではなく、有り得る未来の我々のお話です。


★★★ Excellent!!!

まず、題材がめちゃくちゃいい!

機械への偏見。まだあまり掘り下げられていませんが、それでいてホットな話題です。
最近だと、AIが描いた裸婦画が5000万近い値で落札されたニュースがありましたね。その絵を「冷たくて暗くていかにも機械的に感じる」なんて言う人を見たことがあります。高性能義手で演奏するピアニストのジャクリーンの演奏に対する「面白みがない」という批判の声に、似たものを感じました。
だからこのSFは「自分たちとは縁のないフィクション」とは言い切れない気がします。だからこそ、あのラストは鮮烈ですね。自分も他人のことは言えませんわ。

この作品は、機械への偏見を揺さぶる力を見せつけてきます。それは、最後の瞬間まで。

★★★ Excellent!!!

 近未来SFの短編で良作を挙げろと言われたら、私は――少なくとも、しばらくの間は――『ジャクリーンの腕』を挙げるだろう。義肢師の技術はあるが、心ない言葉で顧客を傷つけてしまうクリフ。事故によって右腕を失うも義肢によって舞台に舞い戻り、機械の演奏だと評価されて舞台を下りたジャクリーン。二人の出会い、そして明かされる真実を通じて、私たちは思考させられる。技術、機械、そして心というものについて。