剥ぎ取られた紋章

 昔、『PX』なる雑誌があった。本来は軍隊用語で酒保を意味し、要するに売店なわけだが、当該誌は軍隊絡みの雑貨やこぼれ話の類を紹介していた。
 その中で、第二次大戦中のドイツ軍で用いられていたベルトのバックルが紹介されていた。流質品だそうだ。そのバックルからは、ナチスのカギ十字が削り取られていた。
 雑誌の記者は、そうせざるを得なかった元の持ち主の心情を弁護しつつも、歴史の証拠品としてそのままの状態を残して欲しかったとコメントしていた。
 翻って、本作でのキングタイガーは、ナチスの忌まわしい所業の一端に触れつつ、とても勇者とはいえないようなクズどもの虚飾を剥ぎ取る手段にもなっている。
 あらゆる歴史は必然である。作者が提示する『必然』は、情け容赦ない。最初から虚飾など欠片も許されない者が、虚飾を虚飾と自覚しない者を裁くからこそ。
 必読本作。

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