新しい朝

 東京湾の方角に、天へと伸びる一本の線が見える。

 軌道エレベーターというものだ。

 ビルの屋上からパノラマを一望する。

 ヒルズ、ブリッジ、タワー。

 地上の全ては、軌道エレベーターを見上げる草木に等しい。

 東の彼方から日が昇る。


『メル・アイヴィーは』

「月に帰った」

『女王ではなく』

「ひとつの」

「『いのちとして』」



 ……イヤホンの音が切れた。




いつかまた

月下美人は

咲くだろう

新たないのちを

大地におろして




……風が、吹いた。



 御苑には、一輪の月下美人が活けてある。

 

 その花弁が咲くことは――ない。

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月下美人の微笑みを 山門芳彦 @YYgarakutalover

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