未来で学ぶオタクの歴史――で、ラブコメ。

主人公はブラック企業に勤めるオタクのサラリーマンです。

そんな主人公が、いきなり未来に拉致されるところから物語は始まります。

拉致された先――三百年後の未来の日本では、貿易の中核をなす固有の国家資産がオタク文化しかなくなっているという状況になっています(オタクといっても色々とあるでしょうが、いわゆる漫画・アニメオタクの文化です)。しかしそのオタク文化は世界的な人気となっているらしく、もはやオタク文化の知識がなければ社会的に生活することも就労することもできないという設定です。

そんな世界へ主人公が連れてこられてきた理由は、本作のヒロインであるお嬢様にオタク知識を教える家庭教師として適切な人物であると判断されたためでした。

そうして、お嬢様と主人公によるオタク文化のレッスンが始まります。

こうしてあらすじを書くと、不安に思われる方がおられるかもしれません――ひょっとしてこれは、オタクによる自己満足の作品ではないか、と。

しかし――ここが最もよくできているところなのですが――オタク的な趣味を何一つとして持たない人・知識を持たない人でも愉しめるように、本作では最大限の工夫が凝らされているのです。

まず、この作品はラブコメです。

そして、作中で随所に挿入されるギャグはきちんと笑えるようになっています。登場人物にいたずらに面白いことを言わせるのではなく、万人が笑えるギャグを厳選して挿入し、読者を飽きさせないよう物語に締りを作っている印象です。

作中で行われるオタク知識のレッスンも、知識のひけらかしではありません。どちらかといえば、日本文化史の一区画を愉しく分かりやすく解説しています。

主人公もまた一部分の人々の代表者ではありません。アニメの在り方は変わらない、アニメは元々家族で観るものである――などといったオタク的信念は言わずもがな、漫画・アニメなどに対するメディアックス展開への意見・見解もしっかりしています。これらの意見・見解は広く一般的な読者と同じものであり、主人公は大衆の代表者と言うべき存在でしょう。

このように、本作はオタク文化に特化したニッチな作風を取りつつも、おおよそ万人が愉しむことができるラブコメディーとなっているのです。

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