★★★ Excellent!!!
太陽と月の巡り、奇跡の織物 だいなしキツネ
遥か時の彼方、いにしえの時代のこと。光の竜が、一人の女性に恋をした。彼女は竜の子どもでありながら人間として生まれ、竜からは忌み子として蔑まれていた。しかし、光の竜には彼女の涙色の瞳、漆黒の髪、そして静謐な月の優しさを秘めた心こそが美しく思えたのだろう。光の竜は、彼女を娶ることとする。それは、竜から人に向けられた差別を乗り越えようとする行為でもあった。
竜の名をハルという。彼は、太陽にも等しい巨大な権能をもって、竜と人とを見守る存在である。
女性の名をティリーアという。彼女は、月のような穏やかさをもって、太陽と世界の行く末を見守る存在となる。
第一部が、二人の馴れ初めの物語だとすれば、第二部は、別れの物語だ。太陽と月が別れるとはどういうことか。少し想像するだけでも察せられるのではなかろうか、それが世界の命運を賭けた一大事となってしまうことが。物語は第二部に至って加速していく。
第一部が、竜から人に向けられた差別を扱っていたように、第二部は、人から竜に向けられた差別を扱う。前者が優越感に基づく差別なら、後者は劣等感や不信感に基づく差別だ。人間をおさめる王として君臨していたハルは、この苛烈な人間感情と真摯に向き合う。その決断は人間にも、竜にも、ティリーアにも、そして世界にも大きな影響を与えることとなる。それは悲劇としか言いようのない事態だった。しかし、おそろしいことに、世界はその記憶さえも風化させていく。脆くも崩れ去る竜の時代、その残滓だけがバラバラに世界に散っている状況は、まさに砂漠を彷彿とさせた。
……しかし、砂漠には蜃気楼が揺らめく。その向こうにはまだ希望が残されている。そして、砂漠の夜空を見上げてみよう。そこには圧巻の夜空、銀の砂を振りまいたかのような星の煌めきを見出すことができる。砂の伝説とは、この〈砂〉の表象の全てが結実したものだ。
そう、この物語は悲劇では終わ…
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