砂の伝説

作者 眞城白歌(羽鳥)

190

66人が評価しました

★で称える

レビューを書く

★★★ Excellent!!!

詩のように流れる、透明感のある文章にすっと惹き込まれました。
それぞれの思惑が絡まり、時にほどけないかと思わせるくらいにこんがらがり……。
それでも愛を信じ、進み続ける。
失うものも多いお話ですが、それだけに話の行く末を見守り続けたい気持ちになります。
素敵なお話をありがとうございました!

★★★ Excellent!!!

 人と竜が共存する世界。光を司る竜の青年ハルは、とある村でティリーアという少女と出会う。彼女は竜族の血を引いていながら人間として生を受け、それゆえに同族から忌み嫌われていた。しかしハルは、ティリーアの清らかさに心惹かれ、彼女を妻として迎え入れることを決意する。ティリーアも彼の求婚を受け入れ、竜の祝福を受けながら二人は結ばれる。ティリーアは竜の力により永遠の生を授けられ、ハルと共に無限の時を生きるはずだった。
 しかし運命は残酷であり、とある出来事によってティリーアとハルは引き裂かれてしまう。二人の別離が呼び水となったかのように人と竜族も袂を分かち、竜の加護を失った王国は滅びへと向かう。
 砂に覆われ荒廃した王国。大地は枯れ、人々の心もまた渇き荒涼とするが、その中でもティリーアは希望を失わずに待ち続ける。ハルと最後に交わした約束。それが果たされる日が来ることを信じて。

 全編通してとにかく文章が詩的。美しい言葉一つ一つが繊細に紡がれてきらびやかな世界観を構成しています。特に第三部、本作の主題である『約束』の時を迎えた星夜の砂漠の美しさは圧巻。あたかも自分が奇跡の瞬間を体験しているかのような没入感を味わえることでしょう。
 物語中盤では悲愴さもありますが、不思議と重さを感じさせないのは世界観が優しいからでしょう。上述したきらびやかな情景描写に加えて、痛みや裏切りを経験しても優しさを失わない人々。それが物語に救いを感じさせ、読み手にも希望を与えてくれるのだと思います。

 後続作品である『竜世界クロニクル - 約束の竜と世界を救う五つの鍵 -』と合わせて、大切に読みたくなる作品です。

★★★ Excellent!!!

遥か時の彼方、いにしえの時代のこと。光の竜が、一人の女性に恋をした。彼女は竜の子どもでありながら人間として生まれ、竜からは忌み子として蔑まれていた。しかし、光の竜には彼女の涙色の瞳、漆黒の髪、そして静謐な月の優しさを秘めた心こそが美しく思えたのだろう。光の竜は、彼女を娶ることとする。それは、竜から人に向けられた差別を乗り越えようとする行為でもあった。
竜の名をハルという。彼は、太陽にも等しい巨大な権能をもって、竜と人とを見守る存在である。
女性の名をティリーアという。彼女は、月のような穏やかさをもって、太陽と世界の行く末を見守る存在となる。

第一部が、二人の馴れ初めの物語だとすれば、第二部は、別れの物語だ。太陽と月が別れるとはどういうことか。少し想像するだけでも察せられるのではなかろうか、それが世界の命運を賭けた一大事となってしまうことが。物語は第二部に至って加速していく。
第一部が、竜から人に向けられた差別を扱っていたように、第二部は、人から竜に向けられた差別を扱う。前者が優越感に基づく差別なら、後者は劣等感や不信感に基づく差別だ。人間をおさめる王として君臨していたハルは、この苛烈な人間感情と真摯に向き合う。その決断は人間にも、竜にも、ティリーアにも、そして世界にも大きな影響を与えることとなる。それは悲劇としか言いようのない事態だった。しかし、おそろしいことに、世界はその記憶さえも風化させていく。脆くも崩れ去る竜の時代、その残滓だけがバラバラに世界に散っている状況は、まさに砂漠を彷彿とさせた。

……しかし、砂漠には蜃気楼が揺らめく。その向こうにはまだ希望が残されている。そして、砂漠の夜空を見上げてみよう。そこには圧巻の夜空、銀の砂を振りまいたかのような星の煌めきを見出すことができる。砂の伝説とは、この〈砂〉の表象の全てが結実したものだ。
そう、この物語は悲劇では終わ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!


はとりさんの作品の魅力、といえば、この作りこまれた世界観だと思います。
どこまでも果てしなく広がる竜が作り出した美しい世界。
端々まで綺麗に行き届いていてほつれがないので、読者に幻想的な世界を楽しませてくれます。

最初はハルとティリーアの恋愛物なのか、と思っていたら、二章から世界へとお話が広がり壮大になっていきます。
竜と人間達の間にも色々と複雑な関係と思惑があって、一人一人がとても個性的で感情豊かで、作者様の愛を感じられます。

個人的にティルシュさんが好きです。
それまでの展開からの彼の登場に胸が熱くなりました。
あとヒロインのティリーアちゃん。
健気で守ってあげたくなりますね。
竜は、悩んだんですけど選べないです。みんな素敵で迷っちゃう!




★★★ Excellent!!!

物語の世界はこの星——地球ではない別の場所。竜と人間が生きる世界。
竜族であるはずなのに人間として生まれた少女ティリーア。そして彼女に恋をした光の竜ハルの恋物語が主なテーマです。
しかし二人は時代の流れに翻弄され、国や人々を巻きこみ壮大な幻想譚として描かれていきます。
果たして二人に穏やかな日々は訪れるのか⁈

豊富な語彙、巧みな表現で描かれる世界は読んでみると唸ってしまう。「こう表現するのか!こんな言い回しがあったか!」と読んでいるだけで勉強になります。
なにより流麗、緻密な文で表現された文章は自分の中にありありとその世界を作り出すのです!
読み終えた後に「ああ、そうだ。読書ってこんなに楽しいんだ」と思わせてくれる。そんな物語を是非手に取ってみませんか?

Good!

 序盤から、壮大にして加速を募らせ続けるお話であった。それでいて地べたに足をつけた、確かな描写が途切れず続いて作品を磨き上げている。
 作中で題材となる要素をここで一つ一つ列挙するのは、個人的には止めておこう。なにか、大事な読後感に差し障りかねないような気がする。無論、私がそうだというだけで他人様にどうこうしたいのではない。
 ただ、種としての竜なり人類なりの行く末を描いていくと必然的に居心地の悪い成り行きも出さざるを得ない。作者はそれをあやふやにしたりせず、そこをどう乗り越えるかで一つの道しるべを呈示したことは間違いない。
 昨今の流行からは外れているかもしれないが、是非ともこうしたスタイルを貫き作者自らの『世界』を拡げていってほしい。
 竜ならざる人にとっては、それこそが『永遠』に近づく唯一の方法だろうから。

★★★ Excellent!!!

硝子のような視点で送られる、綺麗で美しくて、表現できそうでできない文章の書き方、全てが綺麗という言葉で表現できる作品です。

差別や寿命、キャラを用いてテーマを作者様なりに解いて答えを出して作品にしているような……。

言葉が適切かどうかはわかりませんが、芸術と呼んでもいいくらいに、この物語は真摯に向き合える作品です。

★★★ Excellent!!!

 竜から生まれた人の子は、ティリーアと名付けられる。
 それは、涙の泉という悲しみの意を秘めていた。

 時を司る竜の力を持つ竜の子、アスラには大好きな姉がいる。
 だけど、その姉は竜の両親から生まれたはずであるにも関わらず、人の身体を持っており、そのことから村の民から敬遠されていた。
 それでも彼は、姉を慕い、その理不尽に心から憤っていた。
 そんな彼の村に、二人の竜が訪れる。
 やさしく、そして、力強く、未来を見据える二人の竜との出会いは、姉弟の運命を変えていく――。

 星の欠片を集めて編んだような、幻想的な世界観。
 春の日差しのような柔らかい文章と描写で、全てが優しく包み込まれる。
 突き刺さるような、今という逆境に、彼らは負けずに未来を思い描いていく。

 これは、竜と人が描く、歴史であり。
 過去であり、現在であり、未来である。
 やさしい、彼らの想いを見届けよ。

★★★ Excellent!!!

重厚な世界観、美しい風景描写。
これらもさることながら、特に目を引くのが、キャラクター達の優しさです。

各々それぞれ信じるものがあり、それぞれの優しさがある。
信念や優しさ故に誰かを助け、協力することもあれば、誰かを傷つけ死を招くこともある。
一概に悪人、善人と割り切れないキャラクター達に、終始魅了されっぱなしでした。
また、本作に出てくるのは「人間」と「人間以外」ですが…両者の間でも悩みや問題に対するアプローチが違ったりします。この差を上手に描き出しているのも、本作が良作足り得るゆえんだと思います。

幼い頃に読んだ、懐かしいファンタジーをも彷彿とさせる物語です。
皆様もぜひ、キャラクター達の優しさが紡ぐ、奇跡の果てをご覧ください…!

★★★ Excellent!!!

まるでステンドグラスに描かれているような描写──これは何度かご本人様へワタシが投げ掛けた告白文です。
すべてを通すと、長い絵巻物をずっとずっと静かに眺めているような心地でした。
種族が異種であろうとも、歩みより話し合いわかり合うことの大切さをこの物語は教えてくれます。

はとりさんの代表作と銘打っても良い一作です。
世界がきちんと確立し、決して極端に難しい言葉を使っていないので何度でも没入できる世界観だと思います。
最高なのは、この物語にピンと張られ続けている揺るがぬ集中力でしょう。
ファンタジーが苦手でも、深くのめり込めたワタシが言います。

★★★ Excellent!!!

命の始まりの瞬間から、運命づけられたように忌子として生まれた姉と、皆に祝福された特別な竜の弟。
生き物はどんなものであれ、どう生まれるは選べませんが、どう生きるかは決められます。
竜の種族の話ではありますが、読者自身に生きることとは何かと投げかけるような、哲学的な問いをたくさん感じました。

★★★ Excellent!!!

始まりは、ひとりの悲しい少女と、彼女を救った心優しき「光の竜」との恋物語。
けれど寛大な目で壮大な時を見つめる竜族と、刹那に生きる人間たちが、共に生きた時代は変化のときを迎え――。

神話の世界の壮大さと、人間の業、さまざまなかたちの愛、怒りも憎しみも悲しみも許しも、そして純粋な想いの尊さも。すべてを抱いた物語です。

この深く広くどこまでも続く世界へ、ぜひ、足を踏み入れてみてください。
ようこそ、「砂」の世界へ。

★★★ Excellent!!!

この作品は心理描写と情景描写が素晴らしいです。

物語はティリーアという人間の少女が光の司竜ハルと出会う、ラブストーリーから始まります。
そして第二部、第三部へと読み進めていくうちに、人間と竜族を絡めた壮大なストーリーへと発展していきます。

果たして、愛する二人はもう一度再会できるのか。
ぜひ、結末を見届けてください。

まず第一部を読んでみてください。
素敵なラブストーリーがあなたを待っています。

★★★ Excellent!!!


皆さまはこれまでに言葉を通して、其処に描かれた色や熱、
あるいは光といったものを感じたことはおありでしょうか?
それはいわば五感を濾して得た感覚、そのものたちです。

この作品では自身がその場に立ち、実際にその目や肌とで感じているように思えます。長編となると概して、その文量を前に読む力が持たなくなってしまいがちですが、この「砂の伝説」という物語に限っては、水が砂の大地へと染み込んでゆくように、何の抵抗も無くごく自然にこちらへと入り込んで、その心に世界を描いて見せてくれます。

例えば一口に「あお」の色といっても、同じ「あお」は二つとして存在しません。しかし作者様は、その描写の一つでさえも怠らず、極めて丁寧に描かれています。そしてまた作者様の、伝えようとする気持ちが持つ濃やかさは、色だけには留まりません。その活き活きとした美しい言葉の繋がりは、きっとあなたから時の感覚を奪うことでしょう。


悠久なる時を往く竜と、極めて短い時を生きる人。
その両者を隔てる溝はあまりにも深く、底が窺い知れない。
しかしそんな懸隔をもやすやすと飛び越えてしまうものは、想い。

気が遠くなるような時の奔流の中でも、誰かを真に想う気持ちというものは、
最も身近にあるような存在でありながら、いつまでも色褪せないものなのだと、
私はこのお話を通してそう切に感じました。

歴史や伝説といわれるものは、砂粒の一つ一つが砂の大地を成すように、それを見てきたものたち、一人一人の想いによって連綿と紡がれ、そしてそれは風に乗って、また何処かで新たな物語を創り出すのかもしれません。

乾いた心には潤いを、暗く沈んだ心には光を、そして凍てついた心には優しい温もりを与えてくれる、そんな素敵な物語です!(*´▽`*)∩

★★★ Excellent!!!

竜の村で、人間であることで虐げられていたティリーア。彼女が「光の司竜」ハルと出会うことからこの物語は始まります。

運命は一度残酷な方向へ傾きますが、ひとつの約束が大きな奇跡へと物語を導いていきます。

誰よりもハルを愛し待ち続けたティリーアと、それぞれ思いを抱いた人と竜。彼らの願いを優しくも豊かな言葉で描いたこの作品は、きっとあなたに最高の感動をもたらすことでしょう。

願わくば、この奇跡が永遠に人々の心に刻まれますよう。
彼らの信じた未来が、輝かしいものでありますよう。

素敵な物語をありがとうございました!

★★★ Excellent!!!

この世界観には、原典となる何かがあるように感じました。
独特のルビ振りや、人と竜の繋がりを何度も強調させる部分がそれです。
——何の神話が原典なのでしょう? 個人的にそこが一番気になりました。

良い点を挙げるとすれば、語彙力です。この作者さんは描き慣れている人なのだとすぐ分かると思います。

そしてストーリー。
海賊を攻撃した竜がハルから咎められ、追放宣言されるストーリーなどが特にそうですが、どこから実在の神話を思わせるようでした。

気になった部分としては、
『次元の裂け目』など、あまり説明されてない要素が使われて話が進んでいくので、置いてけぼりになる部分も感じました。

ただ、そんな点も気にならなくなるほどのファンタジー作品です。
おススメします。

★★★ Excellent!!!

柔らかな語り口と豊富な語彙で描かれる異世界の物語は端から端まで揺るぎなく綺麗でした。
筆者さまは、異世界に生きる人たちの暗い部分から目を逸らさずに終始物語を書き上げています。だからこそ光る希望が作中にいくつもあり、それが納得できる救いになっていく。
ラストは全幅のハッピーエンド。
本篇結びの言葉が、終わりなき希望と時の流れを感じさせてくれる。そんな素敵な作品でした。

★★★ Excellent!!!

心理描写や風景描写などの表現の仕方は目に見張るものがある。
地の文や会話文もテンポが良く、とても読みやすい。
それに加え、濃密な世界観や設定があるので時間を忘れて物語の世界に没入する事が出来た。
人間でも国籍が違えば分かり合えない事も多い。
竜族と人間であれば種族が違う。
その壁を払うのは容易ではない。
だが、それを変えてくれるという事を彼等に期待したいと思う。

こういう作品が書籍化されるんだろうなぁ。

★★★ Excellent!!!

ファンタジーの上手下手を左右するのは、その世界観の構築と、それを読者にいかに伝えていくか、です。
この小説は、そのどちらも兼ね備えています。
これほど優れたファンタジー小説を読めることは、幸運というほかないでしょう。

舞台は異世界であり、主人公たちは「竜族」と呼ばれる人間とは別種の存在ですが、私たちと同じように感情があり、日々の営みのなかで生きています。
ゆえに、一人一人の行動や感情が、あたかも友人の一人のもののように感じられます。