感じるものは色と熱と光と、そして時を越える想いのかたち。


皆さまはこれまでに言葉を通して、其処に描かれた色や熱、
あるいは光といったものを感じたことはおありでしょうか?
それはいわば五感を濾して得た感覚、そのものたちです。

この作品では自身がその場に立ち、実際にその目や肌とで感じているように思えます。長編となると概して、その文量を前に読む力が持たなくなってしまいがちですが、この「砂の伝説」という物語に限っては、水が砂の大地へと染み込んでゆくように、何の抵抗も無くごく自然にこちらへと入り込んで、その心に世界を描いて見せてくれます。

例えば一口に「あお」の色といっても、同じ「あお」は二つとして存在しません。しかし作者様は、その描写の一つでさえも怠らず、極めて丁寧に描かれています。そしてまた作者様の、伝えようとする気持ちが持つ濃やかさは、色だけには留まりません。その活き活きとした美しい言葉の繋がりは、きっとあなたから時の感覚を奪うことでしょう。


悠久なる時を往く竜と、極めて短い時を生きる人。
その両者を隔てる溝はあまりにも深く、底が窺い知れない。
しかしそんな懸隔をもやすやすと飛び越えてしまうものは、想い。

気が遠くなるような時の奔流の中でも、誰かを真に想う気持ちというものは、
最も身近にあるような存在でありながら、いつまでも色褪せないものなのだと、
私はこのお話を通してそう切に感じました。

歴史や伝説といわれるものは、砂粒の一つ一つが砂の大地を成すように、それを見てきたものたち、一人一人の想いによって連綿と紡がれ、そしてそれは風に乗って、また何処かで新たな物語を創り出すのかもしれません。

乾いた心には潤いを、暗く沈んだ心には光を、そして凍てついた心には優しい温もりを与えてくれる、そんな素敵な物語です!(*´▽`*)∩

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