第11話『北朝鮮参戦!アレクシス突入せよ』

『久しぶりだね。日本の諸君……』


 彼こそが金序運キムジョウン

 国務委員会委員長にして朝鮮人民軍最高司令官、そして朝鮮労働党委員長と、国家、軍、党の頂点に君臨する独裁者だ。


 荒垣が立ち上がる。

「金委員長、いったいどうして……」

 金は口角を上げてみせる。

『状況は知っている。バリア突破は私が引き受けよう──朝鮮人民軍特別作戦部隊に通達! 敵要塞戦艦に対し、弾道ミサイル一斉発射!』

『了解! 弾道弾、全弾発射!』

 オリーブドラブ色の軍服に身を固めた将官が金の命令に応える。


 映像が切り替わる。


 格納庫から濃緑の弾道ミサイルが陽を受けて輝き、姿を現す。

 点火! ……地響きが轟く。

 一〇……二〇……三〇……数え切れない数量の弾道ミサイルが天空に打ち上げられる。


 どこらかか音楽が流れる。

 昭和のアニメソング風のイントロに、北朝鮮の先軍思想を体現する『攻撃』的な歌詞。一瞬の躊躇もなく立ち向かう金序運戦法のテーマだ。


 防衛省の担当者が叫ぶ。

「! ──北朝鮮、通告通り弾道ミサイルを発射しました! 大小あわせて一〇〇発を越えます!」


 映像が北朝鮮国営放送で放送された。

 ピンクのチマチョゴリを纏った年配の女性キャスターが感情を込めて抑揚の強い弁を振るう。


『本日、われらが朝鮮人民軍は魔界皇帝傀儡一味に対し、特別作戦部隊による弾道ミサイル攻撃作戦を開始した! 敬愛なる金序運最高司令官同志の白頭山を打つ稲妻のような天才的な指揮により、人間の皮を被った悪魔を無慈悲に懲罰するであろう!』


     *    *


 ……状況は護衛艦やまとにおいてもモニターされていた。

 オペレーターが眼鏡を上げ下げしながら報告する。

『十時方向より多数の弾道ミサイル! 北朝鮮から発射された飛翔体と思われます!』

 ディスプレイの値が【 98……99……100 】と瞬く間にとてつもない数となる。

 洋祐が目を見張る。

「……本当に来やがった!」

 握りこぶしをつくり、喜びを表す洋祐。

『弾道ミサイル散開! 全方位から要塞戦艦に飽和攻撃を行うものと思われます!』


 ……耳をつんざくような音が響く。

 弾道ミサイルが極超音速で飛来し、要塞戦艦に殺到する。

 ──爆発! 一瞬で爆炎が直径数キロメートルの要塞戦艦を取り囲み、虹色の魔導防壁を炙る。


 ……防壁がゆらぎながら消滅していった……


 洋祐はマイクを取り、決然と命じる。

 指揮は本来ならば艦隊司令の役だが、洋祐には『代将』の地位が与えられていた。


『──統合任務部隊海上戦力に告ぐ! 護衛艦『まや』は右舷の軍団、『なち』は左舷の軍団を迎撃せよ! やまとは要塞戦艦に対し艦砲射撃を敢行する!』


 第一主砲塔、第二主砲塔が旋回し、要塞戦艦に照準する……砲身が上下し……

 ──発砲! 砲口から爆炎が膨れ上がる。


 要塞戦艦各所で爆発が起こった。


『統合任務部隊司令部より護衛艦やまと! 要塞戦艦の頂上部を狙え! ジークフリード隊の報告ではそこに皇帝と東城参与がいる! 突破口を開け』

『了解! 頂上部に火力を集中──』


 殴るように要塞戦艦に主砲を叩き込むやまと。


「(お義父さん……!)」

 コックピットから黒煙と火柱が上がる要塞戦艦を見下ろすアレクシス。

 そこへ、護衛艦やまとからの直接回線が開かれる。

『行けアレクシス! ……娘を頼んだ』

『……了解!』

 洋祐とアレクシスの通信を聞いていた隊長が笑みをこぼす。そして──

『魔族のクソ野郎ども! でかい口開けて待ってろ! ──突っ込むぞ!!!』

『『うおおおおおおおおお!!!』』

 隊長の宣言に雄叫びで隊員が応える。


 白銀の機体をひるがえし急降下! 

 要塞戦艦に穿たれた破口めがけて、ジークフリード一番機、二番機、三番機、四番機が突入する。


『アレクシス行け! 全機、ジークフリード2を援護しろ!!』

『『了解!』』


 機関砲を掃射し、突破口をつくるジークフリード隊。

 飛竜を次々と撃墜。破口めがけて撃たれた機関砲の火花が要塞戦艦に飛び散る。

 突入できるのは王族たる精霊族にして魔導士たるアレクシスしかいない──ジークフリード隊が連携し彼を援護する。


 アレクシスが唇をかみしめる。

「(──遥さんの居場所はわかる。太陽因子が共鳴するから──)」

 青空のような彼の瞳が光かがやく。

 操縦捍を強く握り、スロットルを目一杯押し込む!


『ジークフリード2、敵中枢に突入する──!!!』


     *    *


 ……遥は十字架にかけられ歌っていた。

 絞り出すように。悲しい歌声が響く。

 瞳に光を失い、四肢を真紅の輝く輪で縛られ、太陽因子を欲しいままに絞りとられている。彼女は要塞戦艦の動力源と化していた。


 愉悦に満ちた顔で皇帝はそれを眺める。

 禍々しい赤一色の大広間。

 隅からは青の火炎が噴出し、金色の細工が玉座に施され、そこに皇帝はゆったりと構える。

「全能なる皇帝陛下に謹んで奏上いたします。太陽因子の蓄積、間もなく完了します」

 宰相が供手の礼で告げた、その直後──


 ──爆音が鳴り響いた!


 天井が爆破!! ……舞い上がる粉塵と共に白銀の機体が出現する。

 誇り高き日の丸輝く翼。

 ジークフリード2──アレクシス機だ!

 煙を纏いながらも、失速しかける機体を持ち直し、青色の魔方陣を下方に展開。ふわりと機体が浮遊する。


 皇帝が立ち上がった。


『驚いたか。遥さんを返してもらうぞ!!』

 操縦捍をやや傾けながら、トリガーを引く。

 機体が左に傾いた。

 両翼付け根の機関砲カバーが展開。六砲身を束ねた二〇ミリガトリング砲が突出する。

【 LOCK ON 】

 オレンジのオートフォーカスフレームに、皇帝と幕僚たちが照準され、アレクシスのバイザーに映る。

 ──発砲!

 軽やかな動きで機体を横にすべらせ、攻撃魔法をかわしながらガトリング砲を叩き込む。

 全てを抹殺する大口径弾の直撃だ。

「「「「あああああああっ……!!!」」」」

 文官らが我先に逃げ惑う。

 軍官や戦士たちが立ち向かうも、毎分三〇〇〇発の砲弾を喰らい骨ごと挽き肉と化す。腸、内臓を撒き散らし血飛沫が弾け床に飛び散る。


 ……そのような惨状の中、皇帝は仁王立ちで構える。魔力で機関砲弾は防がれていた。

 機体をすべらせ、遥の縛られている十字架の前に、かばうようにアレクシス機は占位する。


 皇帝の火炎攻撃に防御魔法を展開し、耐える。

 コックピットが業火に炙られる中──アレクシスは叫んだ!


『────喰らえええぇぇぇ!!!!!』


 両翼から二発の魔導弾ミサイルが発射された!

 赤と青の炎が渦巻き、皇帝めがけて突っ走る!


 皇帝は目を見開いた──


     *    *


 政府臨時拠点──危機管理センター。


 長瀬統合幕僚長の報告を受けた東城防衛大臣が立ち上がり、荒垣内閣総理大臣に告げる。

「統合任務部隊司令部より連絡。敵中枢の爆発を確認!」

「東城参与とジークフリードの安否は!!?」

「東城参与とジークフリード二番機が消息不明です……」

 荒垣が問いただすも、返事は芳しくない……


 皆、重苦しい雰囲気に包まれる……特に東城遥内閣官房参与を家族に持つ東城宏一防衛大臣と東城美咲外務大臣兼特事対本部長は気が気でない様子だ。


『……こちら統合任務部隊司令部……』


 突然の通信に、荒垣、宏一、美咲ら閣僚が顔を上げる。


『──東城遥内閣官房参与とアレクシス三等空尉の脱出を確認──!』


 宏一と美咲が笑いあう。荒垣がふたりに歩みより、握手を求めた。

 荒垣と立花官房長官が軽く拳をぶつけ、肩を叩きあう。

「勝ったな」

 立花が眼鏡をずらし、嬉し涙を拭く。


「ああ。日本の建国記念日だ…………!」


 ……荒垣が見上げる青空。どこまでもどこまでも晴れ渡り、国旗が誇らしくはためいていた……


     *    *


 ……雲が流れ、海面から反射した白銀の光が機体を照らす。


 コックピットではアレクシスが操縦捍を握り、太ももの上に遥が横たわる。左腕に頭をもたれ、気を失っているようだ。


 飛行服ごしにも感じる彼女の温もり……体重、存在感が、この上なくいとおしい。

 きめ細かい栗色の髪を指先ですき、桜色の頬を撫でる。


 ぎゅうっ……と、遥を優しく抱きしめる。


「……んっ……」

 ゆっくりと彼女のまぶたが開いた。

「アレクシス君……!?」

 目を大きく見張り、思考を巡らす遥。

「遥さん……無事で良かった」

 アレクシスは、空色の瞳に涙した。

 遥の頬が桜色から桃色に染まり、アレクシスの首回りに腕を回す……胸に顔をうずめ、甘えた。

 髪の甘い匂いが心地よかった。


「遥、って呼んで……アレクシス」

「わかったよ……遥」


 遥の柔らかい顔が優しく両手で包まれる……遥は一瞬目を見開くが、顔を紅潮させ睫毛を伏せる……

 


 ふたりはそっと口づけした。

 

 


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