第13話『地球連邦樹立・新たなる創世の神話』
……西暦二〇四六年。第二次世界大戦から一〇〇年。世界は大転換点を迎えている。
国際連合は最後の総会で、国連憲章を改正、地球連邦憲章の採択、地球連邦への移行手続き、初代大統領の指名を行った。
地球連邦政府初代大統領は暫定措置として国連総会が指名したが、二代目以降は連邦議会、ゆくゆくは地球連邦加盟各国を選挙区として公選される。
アメリカ合衆国大統領エドワード・サウスマウンテンを地球連邦政府初代大統領として新体制が発足。サウスマウンテン大統領は二〇二二年のカグツチとの戦いで異世界の脅威を痛感した元米海軍将官であり、未知なる脅威に備えるべく地球連邦の強化を推進。
地球連邦政府は行政、立法、司法の三権分立だ。
国際連合事務局を母体とした、大統領、副大統領、各省庁長官で組織される行政府。
そして国連総会を母体とする二院制の連邦議会が発足した。旧安保理常任理事国プラス日本、方舟で構成される上院(大国が拒否権を行使した弊害から、全会一致制から多数決に変更)。上院議長は副大統領を兼ね、現在の副大統領兼上院議長は方舟の王族のバシス大公だ。一方下院は地球連邦全加盟国で構成される。
司法は、国際刑事裁判所を発展改組、国際司法裁判所は最高裁判所となった。
……サウスマウンテン大統領の支持もあり魔界軍との人類統一戦線を主導した日本国、さらには弾道ミサイル攻撃で突破口を切り開いた北朝鮮は国際社会において大いに株を上げた。
逆にアメリカ国内においては民主党を中心に原子力事故を起こしかけた空母の配備に異議が上がり、ベトナム戦争のごとく反戦運動、軍備の見直しに拍車がかかっている。これも日本、北朝鮮に期待が集まる理由である。
地球連邦政府は防衛総省、そして【即応軍】を結成。
即応軍は、魔界皇帝を倒した精鋭ジークフリード隊と護衛艦かが、やまとなど海上自衛隊部隊を中心に横須賀などを運用拠点とする【即応軍海軍】を編成。
事実上の空母艦隊である海軍第一打撃群の司令には前護衛艦やまと艦長、
アメリカ海兵隊、自衛隊有志は【即応軍海兵隊】に発展改組。
さらにアメリカ戦略軍、ロシア戦略ミサイル軍、中国人民解放軍戦略ロケット軍、北朝鮮戦略ロケット軍に【即応軍戦略ミサイル軍】を編成、即応軍の傘下におさめた。
ただし戦略軍は機密保持の観点から各国部隊が独立している。
戦略軍はアメリカが太平洋、ロシアが大西洋、中国がユーラシア、北朝鮮が極東を担当する。すなわち──戦略ミサイル軍極東方面隊司令官に朝鮮人民軍最高司令官たる
……余談ではあるが、北朝鮮国営放送は「金序運同志がもたらした共和国の外交的勝利である!」と
即応軍は有事の際、地球連邦防衛総省長官のもとに統合運用される。
防衛総省統合参謀本部議長には
……そして皆の関心は、誰が地球連邦防衛総省長官に就任するか、であった。
当然、ひとりの男に注目が集まる──
──建国記念日再び! と言わんばかりに熱い弁舌で日本人を鼓舞しヤタガラス作戦を成功させた
過去幾度にも渡る防衛大臣の在任を鑑み、二〇一一年のヤマタノオロチ討伐、そして今回のヤタガラス作戦の指揮と、二度に渡り内閣総理大臣の大任を果たした荒垣がまさに適任であるが……
荒垣は老後を妻と静かに過ごしたいとの思いから周囲の説得をはねのけていた。
……日本国においては、臨時内閣であった荒垣政権が応急的な戦後処理を終え退陣、その引き際は第二次世界大戦を終結に導いた名宰相、
内閣官房長官であった
立花は次段階の復興を成し遂げるべく各大臣を人選、組閣においてサプライズ人事を用意した。それは──
──
今の彼女の役職たるや凄まじいもので【 副総理大臣 兼 外務大臣 兼 内閣府特命担当大臣(異世界) 】と主要な国務大臣を独占。さらに精霊魔法をはじめとする異世界文明の政府調査部局の内閣府特定事案対策統括本部、通称【
美咲は自主憲政党の参議院議員である。
現在の与党は自主憲政党ではなく、日本改新党であるが、これには面倒な戦後処理を押しつけたい自主党と公民党、さらには民衆党、労働党の思惑もある。いずれ立花政権が解散総選挙に踏み切った時、再び自主憲政党と公民党の連立政権が発足するだろう。
その際、自主憲政党の総理総裁を担うのは誰か。
驚くべきことに、自主憲政党次期総裁、すなわち次期内閣総理大臣には──東城美咲副総理兼外務大臣を推す声が少なくない。
魔界軍の首都中枢への攻撃で、大泉首相はじめ主要閣僚が死亡したが、当然その中には派閥の重鎮や若手の有望株が含まれていた。生き残った幹事長や有力議員は、美咲を担ぎ出したのだ。見返りでの閣僚ポストを狙い逆に恩を着せようという派閥の思惑もある。
美咲が精霊魔法の根幹たる太陽因子を宿し、対異世界専門部局【特事対】の本部長、さらには荒垣内閣で外務大臣を担ってきた経歴も鑑みての判断だ。決してタレント扱いではない。
順当にいけば、日本初の女性内閣総理大臣誕生である……
* *
……青空を色とりどりの花火が彩り、ファンファーレが鳴り響く。
地球連邦政府樹立式典が華やかに行われた。
上空からヘリコプターでリポートするキャスターが告げる。
『現れました! 地球連邦の旗でしょうか!? 数名が旗を取り囲むように持ち、行進しています』
旧国際連合安全保障理事会常任理事国の首脳、そして方舟女王ミュラと立花内閣総理大臣が皆で地球連邦旗を持ち、行進する。
旧国連主要国が連邦旗を持ち、新時代を招来する粋な演出だ。
コーラスが響き、観衆が熱狂する。
会場を縦断する連邦旗が目指すは、ポールのもとに待つ地球連邦初代大統領エドワード・サウスマウンテンだ。
大統領は一礼し、連邦旗を受け取る。
大統領と各国首脳が旗をくくりつけ、紐をひくと同時に軍楽隊が演奏を開始。地球連邦の歌だ。
バッ! と大統領が旗をひるがえす。
抜けるような青空に昇る旗が、新たなる創世の神話の始まりを告げる──
……東城美咲副総理兼外務大臣が来賓席に座っていた……どういう訳か、隣には地球連邦即応軍海軍、東城洋祐少将が座る。
ふたりは顔を見合せ、なぜここにいる!? と言わんばかりに驚いた。軍籍とあらば、別の席に座るはずだが。
さらにアレクシス、遥がやって来る。
アレクシスは武功がミュラ女王に認められ、伯爵から公爵に叙勲されたと遥が話す。
異世界『方舟』における公爵とは王族たる精霊族にしか与えられない爵位だ。異世界が定める敬称は殿下となる。
防衛大臣たる東城宏一は国内待機ではあるが、地球連邦政府樹立式典に東城一家が揃ってしまった。
……地球連邦初代大統領エドワード・サウスマウンテンがスピーチを述べる。
『本日お集まりの中に、果敢に魔界軍に立ち向かい、未来を切り開いた一家がおられます──東城家です!!』
勢いに押されそうなスタンディングオベーションに包まれ、洋祐、美咲、アレクシス、遥が腰を上げる。
口笛が吹かれ、万雷の拍手が贈られる。
「(大統領め……)」と皆痛快に思う。
東城一家が着席したタイミングで、大統領が再び口を開く──
『彼らの勇気あるリーダーシップに感謝します…………二〇四六年二月十一日。当時の荒垣健内閣総理大臣が宣言した通り、我々は侵略には屈しませんでした。ヤタガラス作戦、建国記念日を取り戻す戦いが未来を切り開き、地球連邦政府樹立に繋がったのです──』
と、舞台奥の扉が開かれ、人影が姿を現す──その人物は、まさに──
「「前総理!!?」」
「「荒垣閣下!!!」」
観衆が拳を突き上げ、熱狂する。
『おお!? これはこれは。 皆さん、さらなる英雄の登場です──
荒垣が照れながら観衆に一礼する。
日本人、ひいては人類を鼓舞した荒垣健の、サプライズでの登場だ。
地球連邦大統領直々の命令で断りきれなかったようだ。
「(いや、絶対仕組んでただろ)」
洋祐が呟く。
「サウスマウンテン大統領も劇場型だな。頑張った相撲取りに感動した大泉元総理の親父さんみたいだ」
大泉進太郎元内閣総理大臣の父親、
洋祐は美咲に向き直る。
「美咲も自主党総裁に担がれてんだろ?」
「ええ。誰かがやらなくてはいけないからね」
「えっ! お義母さんが内閣総理大臣!!?」
アレクシスが目を剥いて驚く。
「……アレクシスも王族、今や殿下と呼ばれてんだろ? ……おっといけねえ、公爵殿下」
「からかわないでくださいよ」
ふたりのやりとりに美咲と遥が笑った。
……皆が見上げる先には青空が広がり、
恒星から惑星が生まれ、惑星は海と緑に、あまねく生命に祝福される。
生命の樹に純愛宿り、紡がれゆく……
太古の記憶、悠遠の神代から続く人々の営みは神話となり、新たなる時代の幕開けを告げる──
《 新日本神話 第三部 【新日本神話:急】 最終話『地球連邦政府樹立・新たなる創世の神話』 ────完──── 》
新日本神話:急 外山康平@紅蓮 @2677
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