第10話『建国記念日再び・ヤタガラス作戦発動!』
二月十一日未明──
夜空は色が移ろい、星々が消え藍色になりつつある……
立川広域防災基地の一室には記者会見場が設けられ報道陣が詰めかけていた。
黒の分厚いジャケットを着込む荒垣。日の丸のワッペンが輝き、胸には赤字で【 防衛大臣 荒垣健 】と刻まれている。
防衛大臣時代から愛用する防衛省のジャケットだった。荒垣の日本を守ろうとする強い意志の表れだ。
『国民の皆様。内閣総理大臣の荒垣健です』
避難所の体育館でテレビ、ラジオを聴く老若男女。
食い入るように見つめ、言葉のひとつひとつを噛みしめる。
『現在、東京二十三区はじめ主要都市は壊滅。天皇皇后両陛下、皇族方は御用邸に避難されました……政府は機能不全に陥っています』
国会議事堂からは煙がくすぶり、首相官邸の窓ガラスは無残に割れている。
渋谷。新宿。銀座……各地に飛竜が闊歩し、焦土と化していた。
天文学的数字の避難者があふれている。
『しかし絶望してはいけません。自衛隊統合任務部隊、方舟軍、在日米軍は夜明けと共に、人類史上最大の迎撃作戦をスタートします。今日は奇しくも建国記念日です。我々は再び戦います。この日本という国家、とこしえの歴史、日本に生きる権利を守るために……』
……太平洋上。
護衛艦かがの甲板でジークフリード各機が出撃準備に入る。
一番機たる隊長機が発艦位置についた。
隊長が親指を上げ、整備員らもそれに応える。
整備員がかがみ、右手が前方の海上を指す。
『勝利を手にしたなら、二月十一日は単なる祝日ではなく、我々が断固たる決意を示した日として記憶されるでしょう!! 我々は決して侵略には屈しない! 破滅の運命には従わない!』
荒垣が目を瞑る……
双発のバーニアがオレンジの火炎を噴き、ノズルが拡張し噴炎は青色へと変わる。
闘志の火──ふたつの炎。
荒垣は双瞳をカッと開いた!
『俺たちはこの立川から反撃の狼煙を上げる! 今日こそ、日本の建国記念日だ!!』
マストに掲げられた国旗がはためく。
白地に赤の円がまばゆく輝いた。
『──これより、ヤタガラス作戦を開始する!!!』
機体の急加速にタイヤが軋み、白煙を上げる。
轟音と共にジークフリード隊長機が飛びたった。
続いて二番機のアレクシスが発艦位置につき、親指を上げる。
『ジークフリード2、発艦を許可する』
『──発艦!』
ブルーとオレンジのコントラストの大空を背景にジークフリードが身をひるがえす。
『ジークフリード3、4! 続けて発艦せよ! 全機、発艦後は統合任務部隊の指示を受けろ! 精霊皇王の微笑みが共にあらんことを』
……アレクシスは目を伏せる。
「遥さん……必ず迎えに行くから」
行方不明となった彼女を案じ、操縦悍にいっそうの力を込めた。
* *
統合任務部隊司令部では航空総隊司令官たる早蕨空将が陸自、海自、空自の幕僚と共にディスプレイを注視していた。
敵は要塞戦艦。
ジークフリード隊のアイコン、国連多国籍軍合同航空隊があとに続く。
海上には護衛艦やまと、かがをはじめとする自衛艦隊。そして米海軍艦隊が布陣する。
『ジークフリード隊、間もなく予定空域に侵入!』
『間もなくだな……』
【 05:59 】
カウントダウンを睨む早蕨。
【 06:00 】
──早蕨が立ち上がる!
『作戦第一段階、反撃の嚆矢を放て!!!』
『了解!』
ジークフリード隊隊長が応える……そしてパネルを操作。
音楽だった。
力強いドラムマーチに、肺が張り裂けそうなトランペットの暴風。ピアノは打楽器だと言わんばかりに鍵盤が叩かれる。曲調はどことなくソビエト風だ。ヤケクソ気味な演奏が最終決戦を演出する。
『隊長!? これは……』
『百年ぐらい前に流行ったSF特撮映画の劇伴だ。三十年前には怪獣映画で使われていたなあ』
アレクシスは呆気にとられる。
『さすがリーダー。粋だな』
四番機パイロットが誉める。
『射程に入ります』
アレクシスが気を取り直し、隊長に告げた。
『魔導弾発射!』
一番機、二番機、三番機、四番機の翼下から、重量級の対艦ミサイル──魔導弾が火を噴き飛翔する。
青空に噴煙を残し、敵要塞戦艦めがけて突っ走る。
──爆発!
直径数キロメートルに渡り、シャボン玉のような虹色の皮膜がゆらぐ。
『初弾命中! 敵防壁の弱体化を確認。近接魔導弾攻撃効果あり』
早蕨が拳を握りしめる。
『作戦第二段階。奇襲攻撃開始!』
白波が音を立てる……海中に動きがあった。
大海を揺るがす響きだ。
『うおおおおおっ……!』
驚くべきことに、潜水艦が限界角度寸前で浮上してきた。急角度に乗組員が唸る。
精強を誇る日米潜水艦部隊である。
濃紺の海中を魚雷が走る! ……狙うは要塞戦艦の周囲に布陣する敵軍船だ。
潜水艦という兵器を持たない魔族にとって、まさしく盲点。意表を突いた攻撃だ。
白濁した海水が噴き上がり、軍船が木っ端微塵に粉砕された……
『敵艦隊排除!』
『了解。作戦第三段階、水上部隊攻撃開始!』
海上に構える護衛艦やまと。
東城洋祐をはじめとする幹部がCICにて指揮する。
インカムを押さえ洋祐は叫ぶ。
『砲術士、魔導弾装填。砲雷長の指示にて一斉射!』
『主砲攻撃始め!』
前甲板に鎮座する第一主砲塔、第二主砲塔が旋回し、砲身を振り上げ要塞戦艦に照準する。
『撃ち方始め──撃て!』
──発砲! 砲口から爆炎が噴く。
放物線を描き魔導弾が要塞戦艦に飛ぶ。
防壁を魔導弾が喰い破り、虹色の光が閃き──爆発!
『魔導弾効果あり』
『米海軍に通信。巡航ミサイル攻撃始め』
……アメリカ合衆国海軍が誇るタイコンデロガ級巡洋艦。そしてアーレイバーク級駆逐艦が海原を進撃する。いずれもイージス艦だ。
甲板に埋め込まれた垂直発射菅から火炎が噴き上がり、トマホーク巡航ミサイルが姿を現す。
上昇し、空中で急旋回し、巡航態勢に移行する。
『スプルーアンス、ベンフォルド、ミサイル発射! ……続けて、全艦巡航ミサイル発射しました!』
翼を展開した巡航ミサイルが要塞戦艦に殺到。
爆炎が連鎖的に噴いた。
米海軍巡洋艦、駆逐艦の火力投射が終わり、要塞戦艦に、日米欧のF35戦闘機やF22戦闘機。さらには中国人民解放軍の殲20戦闘機やロシア連邦軍Su27戦闘機で構成される国連多国籍軍の合同航空隊が果敢に立ち向かう。
『作戦第四段階。合同航空隊波状攻撃!』
戦闘機の大編隊から発射、白煙をなびかせ数十発の対艦ミサイルが要塞戦艦に突入する。
巨大な爆炎が要塞戦艦の外周数キロメートルに渡って立ち昇り、天を焦がした。
状況は統合任務司令部でモニターされていた。
『敵要塞戦艦の魔導防壁、消失しています』
「(うまくいくといいが……)」
早蕨はひとりごちた。
* *
ドクン! と心臓が拍動する。
アレクシスは笹のような耳を動かしている。何かに気づいたようだ。
……はっきりと覚えのある感応だ。
『ジークフリード2よりジークフリードリーダー。要塞戦艦内部に太陽因子!』
確信し、アレクシスは叫ぶ。
『何!?』
『これは──東城遥内閣官房参与のものです!!』
『要塞戦艦に囚われているとは……厄介だな』
隊長が唸る。
『リーダー!』
今度は三番機パイロットが叫んだ。
『どうした?』
『要塞戦艦に動きあり!』
隊長が要塞戦艦を見やる……目を見開いた!
『これは……』
恐るべきことに、要塞戦艦の周囲に再び虹色の皮膜がゆらりと現れた。
──魔導防壁だ。
要塞戦艦は、不死身だったのか……
……立川広域防災基地──危機管理センター。
「魔導防壁、再度展開!」
統合幕僚長たる
「バリア再び展開されました」
統幕長の報告を
ダン! と荒垣が拳をデスクに叩きつける。
「くそっ!!」
東城が深刻な面持ちとなる。
「ミサイルが足りません。火力不足です」
「どこかに打撃力はないのか……」
荒垣が顔を手で覆い、うなだれる……
「──な、何だと!? それは本当か!」
大声で通話する長瀬を閣僚官僚皆が見る。
「統幕長?」
いぶかしむ防衛大臣に統幕長は驚愕の事実を告げる──!
「北朝鮮からです! ヤタガラス作戦に加勢するため
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます