第2話『国家安全保障会議・アレクシスと遥』
……日は暮れ、濃紺の夜空が大都会東京を包む。
星空の代わりに広がるのは、東京の夜景だ。
北朝鮮弾道ミサイル発射を受け、同日、首相官邸にて関係閣僚を招集した国家安全保障会議開催が決定。
内閣総理大臣を議長に、内閣官房長官、外務大臣、防衛大臣が参加する四大臣会合である。
オブザーバーとして、内閣府特定事案対策統括本部【
彼女は精霊魔法の根幹たる『太陽因子』を宿し、二〇二二年当時は内閣官房参与。カグツチとの戦いにてその歌声により、精霊魔法を増幅し決戦を勝利に導いた歌姫である。
海上自衛官東城洋祐と結婚し、娘の
木目調の内装の会議室に美咲たちが着席し、首相の到着を待つ。
官僚が扉を開けると同時に皆が起立し、首相を迎え入れる──
紺色のスーツを着込み、赤いネクタイで決めたハンサムな男。
──この日本国を担う内閣総理大臣、
爽やかで切れ味鋭い弁舌で政治を切り回し、国民からの支持も高い政治家である。
大泉が席につき、続いて閣僚たちが座る。
「防衛大臣、状況の報告を」
大泉が切り出した。
「はい。本日午後四時十三分、北朝鮮より八発の短距離弾道ミサイル発射をジークフリード隊が確認。素早い展開から、発射されたミサイルはトレーラーに乗せられた移動式と思われます──」
手元の配布資料に目を通す一同。
「──迎撃ミサイルSM9を撃ちますが、一発を撃ちもらします。その一発を護衛艦やまとが魔導砲で撃墜しました」
洋祐、と呟く美咲。
美咲を見、ほほえみつつ大泉は訊ねる。
「国内への被害は?」
「ありません。やまとのおかげですな」
腕を組んでいた内閣官房長官が即答する。
「防衛大臣、艦長は不問にするように」
「かしこまりました」
大泉が美咲に向き直る。
「東城大臣。特事対では、今回のミサイル発射は何か異世界と関係あるのか?」
「ない。と言ってよいでしょう。魔導士たちも何も感じなかったと」
「そうか……皆、引き続き北朝鮮への監視を厳に。本日はこれにて散会とします」
大泉が宣言し、皆が会議室から退出する。
「東城大臣」
廊下を歩く美咲を大泉が呼び止める。
「何でしょう総理」
左右を見回し、人のいないことを確認すると、大泉は口を開く。
「……いずれ内閣改造をやろうと思ってる。君には引き続き異世界担当大臣と特事対本部長を担ってもらいたい」
「やりますか? 改造」
「なんだか悪い予感がしてね、目玉人事は副総理だな……あの人に復帰してもらう」
「その人って……」
二〇一一年、東京湾巨大生物上陸災害で日本を救った英雄を大泉と美咲は思い出していた……
* *
西暦二〇四五年──第二次世界大戦の終結から一〇〇年が経った。
世界情勢は目まぐるしく変わり、異世界方舟と邂逅したことで日本国はアメリカ合衆国と対等──否、それ以上の国家となった。
……青空に花火がはじけ、色とりどりの紙吹雪が舞い散る。
音楽隊が小気味良いリズムで軍艦マーチを演奏し、港に係留された航空機搭載型護衛艦、ミサイル護衛艦、汎用護衛艦がカラフルな装飾に彩られる。
海上自衛隊は観艦式を開催した。
会場では関連イベントが行われ、護衛艦やまとが港に接岸、一般公開を行っていた。
また、戦闘機ジークフリードが会場内に駐機。国民の前に現れるのは初めてとなる。
ジークフリード機に程近いエリアでは、ステージが組まれ、ライブが開かれていた。
「次のゲストは──東城遥さんです!」
彼女は、軍服風の黒衣に、金、銀、赤色の配色が施された、色あざやかな衣装を纏い、制帽を押さえつつステージに駆け上がる。ふわふわした茶髪の若い女。年はちょうど二〇頃か。
父洋祐、母美咲と同じく、精霊魔法の根幹たる太陽因子を宿しており、日本国政府が公式に認めた内閣官房参与である。
遥がマイクを持ち、背後のバンドのメンバーに目配せすると、ドラムが叩かれ、ベース、エレキギターの音が弾ける。
眼下の観衆に手を振りながら応え、歌い出す。
観衆の中に、アレクシスの姿もあった。
歌に伴い、彼の笹穂耳も動く。彼は精霊族であり、精霊魔法の根幹たる太陽因子に反応したためだ。
しばし、彼女に聞き惚れ、見とれてしまうアレクシス……精霊魔法だけではない。彼女の愛らしさゆえか?
……演奏が終わり、遥が舞台から降りてくる。
腰までの高さの柵で区切られた通路を歩き、舞台下の観客とふれあい、握手やハイタッチを始めた。
彼女はアレクシスに近づいてくる。
目が合い、胸が高鳴るのを感じた。
遥もアレクシスに視線が釘付けとなる。彼の青い瞳、笹穂耳に目を奪われる……
「……方舟の軍隊の方ですよね?」
沈黙を破ったのは遥だ。
「混成航空団、ジークフリード隊所属のアレクシスです。……よろしく」
アレクシスが右手を差し出すと、遥もその手を握った。
* *
護衛艦やまと艦内、CIC──戦闘指揮所はあわただしくなっていた。
副長たる魔導士の報告で、対水上レーダーによる監視を始める。
薄暗い指揮所内にモニターの光が輝き、乗員たちの顔を照らす。
「確かなのか?!」
洋祐が問いただす。
「はい。東京湾内に大出力の転移魔法を確認、巨大質量が出現すると思われます!」
副長は青ざめた顔で告げた。
洋祐は姿勢を正し、指示を下し始める。
「ただちに横須賀自衛艦隊司令部に報告! レーダー各員、見張員は対水上警戒を厳となせ」
「「了解」」
乗員がそれぞれの持ち場につく。
洋祐の額に汗が流れる。
彼は無意識に拳を握りしめていた……
* *
……暗雲がたち込め、遠くの山々からは稲妻の光とともに雷鳴が轟く。不気味で禍々しい光景が、ここが魔界であることを象徴していた。
山にそびえる煉瓦造りの都市……その中の黒き城塞は、皇帝の力を顕示するようだ。
有機的意匠と幾何学的意匠が融合した宮殿。
壁のステンドグラスからは燦々と光が差し込み、皇帝が居座る間を照らす。
壁際の床からは赤い魔方陣が回り、青き火炎を吹き上げる。
黒のローブを身に纏った将軍や女官が侍立し、城の主を見つめる。
赤絨毯が敷かれ、玉座へと続く……
皇帝はいぶし銀の鎧に身を固め、頬杖をついていた。吹き上げる火炎と同じ青き肌を持ち、緋色の瞳を宿す壮年の男。肉体はわずかに老いて、白髪は肩まで伸びている。
「皇帝陛下。太陽因子を観測しました……異世界日本と方舟の共鳴波です」
白髭を伸ばした宰相が、うやうやしく皇帝に告げた。
……皇帝は身を起こす。
「我らは日本、方舟から太陽因子を奪う!」
皇帝の右手が宙をわしづかみにし、手のひらに青き炎が灯る。
「侵攻は任せたぞ、ベノム将軍、ガリウス将軍」
皇帝に見下ろされたふたり。
御意、と返事し、こうべを垂れる……
雷が宮殿を直撃し、ステンドグラスが光った!
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