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失われた魔法ロスト・マジック?」


 和哉は耳を疑った。


「はい。失われた魔法ロスト・マジックとは、大昔にこの世から失われた魔法の事です。ですが、その魔法を今の現代で扱う魔導師は見たことありません。だから、あなたの魔法は言い換えれば、最強であり、最悪でもあるという事です」


「————………………。なんで、そんな魔法が俺に……」


 和哉は目を逸らして、考え込んでしまう。


「一ノ瀬君、何をしているの?」


「うわっ!」


 後ろから誰かに声を掛けられた。和哉は背筋が凍って、綺麗に直立する。


 真彩は「はぁ……」と溜息をついて、額に手を当てた。


「うぉあ……赤舞。どうしてここにいるんだ?」


 驚いた和哉は振り返って尻もちをつく。


「そこを歩いていたら二人の姿が見えたからね。何をしているんだろうと思って……」


 鈴鹿は笑顔を見せて、和哉の肩を軽く叩く。


 ————こいつ、球に神出鬼没して来るからな。全く、気配が読み取れなかった……。


「それでお二人は何を話していたのかなぁ? 白雪さんに怪しいことしてないよね?」


 ニヤニヤしながら面白そうに和哉をつついてくる鈴鹿。


「し、してないけど……。お、俺はただ世間話を……だな……」


 ————って、世間話ってなんだよ……。この歳でそんな話をするわけではあるまいし……。


 和哉は腕を組みながら、深々と考える。


 すると、鈴鹿は後ろにいた真彩に見て話しかける。


「白雪さんもこんにちは!」


「ええと……」


 真彩は、クラスメイトの顔を覚えておらず、和哉に助けを求める視線を送る。


 和哉はすぐに真彩の耳元でささやく。


「同じクラスでお前の斜め前の席に座っている赤舞鈴鹿だよ!」


「そうでしたね。こんにちは」


 真彩は、慌てて軽く会釈をする。


 ————あれ? 赤舞鈴鹿という名前、どこかで聞いたことのあるような……。


 ————いや、気のせいでしょう。彼女から魔力の欠片も感じられませんし……。


 真彩はじっと、鈴鹿を睨みつけながら見つめた。


「ふぅ……」


 真彩は溜息をついて、歩き出した。


「どこに行くんだ?」


「今日は帰ります。続きは今度にしましょう」


「え、あ、おい‼」


 さっさと帰りだす真彩に声を掛けようとするが、真彩は足を止めずに帰ってしまった。


「もしかして、私、お邪魔だったかな?」


「いや、それはないと思うぞ。あいつ、難しい性格をしているから……」


 和哉は髪を掻きながら、面倒くさそうな表情をして、溜息をついた。


「なにか、白雪とあったのか?」


「何もないよ。ただ、何となくそう思っただけだから……」



     ×     ×    ×



 翌日————


 今日は季節外れの花火大会が行われた。


 昨日、鈴鹿に花火大会への誘いに誘われて来ていた。もちろん真彩にも声をかけてみたが、「行かない」と一言だけ帰ってきた。


 祭りの会場は、街の中央から少し東の方で行われており、近くには山と神社、河川敷がある。賑わう屋台に人が集まり、暑苦しさも感じさせない。浴衣の女子は、こういったイベントでは花が咲き、男はその花に誘い出されて捕食される。


「ふん。お前がなんでこんな所にいるんだよ。和哉」


 待ち合わせの場所の時計台の下にあるベンチに座ったまま、同じクラスの沖田宗司は苛々していた。


 待ち合わせの場所にいるのは、時間よりも三十分前に着いた和哉と宗司。他の友人たちは未だに姿を現さない。


 沖田宗司は、和哉と仲が悪いのか、悪くないのか分からない関係であり、何かに関われば、いつも喧嘩をしている。だが、お互いにお互いの事を知り尽くしている点に関しては、誰よりも信頼しているのだ。


「赤舞に誘われたんだよ。悪いか?」


「悪い」


「……お前に言われたくねぇ……」


「俺もお前だけには言われたくないな。祭りだけは喧嘩したくねぇーし」


 白いコートを羽織って、宗司は不服そうに言う。隣に座っている和哉は、足を組みながら喧嘩相手を見た。


「俺もそうだな。面倒ごとにだけは巻き込まれたくねぇーな。だが、祭りは何が起こるか分からない」

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アレイスター・テイル ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ @kouta0525

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