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「てか、ケーキ買ったのは誰だよ。私、そんなデザートがあるって聞いてないよ」


「フユが買ったんじゃないの。ほら五月と言えば毎年あれじゃん」


「ああ、あれか……。なるほど……」


 夏実と秋菜は、真冬がケーキを買った理由を思い出したらしく、小さく頷いた。


「なんだよ、あれって……。お前ら何か知っているのか?」


「ああ、父さんには関係ないよ。だって、言ったところで理解できないでしょ」


「お前ら、この頃父さんに反抗的じゃないか?」


「反抗期は結構前からだよ。それくらい気づけよな」


 夏実と秋菜は、それぞれ正義を貶める。



「ねみぃ……。それにしてもこの頃、誰かに見られているような気がするんだよな。でも、周りには誰もいないし、気味が悪い」


 和哉は自分の部屋に戻ると、学ランを脱いでパンツとワイシャツの状態になったまま、ベットの上で横になった。


 すると、窓の外で何やら騒がしい音が聞こえた。


「うるせぇ……。サイレンの音ならもう少し小さくしろよ……」


 すると、いきなり床が光った。


 漫画に出てくる魔法陣の様なものがいつの間にか床に現れた。白い陣が構築されて、その中から一人の少女が姿を現した。


「…………」


 それは美しいというよりも静かで真っすぐな目をしていた。赤髪が腰の位置まで伸びており、腰には銃と剣を付けている。白いワイシャツに短い黒のスカート。黒のソックスに靴を履いていた。


「ふぅ……。やっと着いた」


 少女は、何も動じずそのまま魔法陣を消した。


「……って、なんでこんな所に人が現れているんだ!」


 和哉は飛び起きて、大声で叫んだ。


「あれ? おかしいですね……。私の魔力だったらこんな変な場所に移動することはないんですが……」


「おかしいじゃねぇ‼ さっきの魔法陣は一体何なんだよ! それにそのエロい服は何だ! どこかのデリバリーか!」


「私はデリバリーとかそんな配達屋みたいな者ではありません。そして、私はこの世界に存在する人間でもありません。私は魔導師です」


 少女は和哉を見る、近くにあった和哉の椅子に座った。



「それで、その胸でかいお姉さんが魔導師で、この世に存在している悪魔を祓うために『ギルド』から派遣されたと言いたいのか?」


 和哉は眉をひそめながら胡坐をかいてベットの上で座っていた。


「まあ、そんな感じです。信じられないと思いますけど……」


「そんなファンタジーやゲーム設定の出来事がこの世に存在すると思っているのかぁ‼」


 和哉は、叫んだ。


「いや、これは本当ですから……。それに胸がでかいとか言わないでください。魔法ならさっき私が現れた時に見ましたよね」


 少女は自分の胸を腕で隠しながら顔を赤らめる。


「でも、あれはもしかすると目の錯覚だったかもしれないだろ? そもそも魔導師とか、魔法とか信じてねぇーから!」


 和哉は少女を睨みつける。


「そもそもこの部屋にいる時点で不法侵入罪。警察行きだぞ! 分かったならすぐに窓から姿を消してくれないか? 俺は忙しいんだ……」


 和哉はカーテンを開けて、窓を開ける。


「分かりました……」


「分かってくれたか、だったらすぐに……」


「氷のアイスフィード!」


 少女はいきなり和哉の目の前に手を出して魔法陣を展開すると、和弥の手に氷の魔法をかけた。


「な、なんじゃこりゃああああああああああああ‼」


 左手がみるみる氷漬けにされていく。


「こ、これ……俺の左手どうなっているんだよ!」


「あなたが言いましたよね。魔法など信じないって……。これが私の魔法です」


 氷漬けにされた和哉を見て、少女は笑った。


「私の魔法は氷属性の魔法です。こう見えてもS級魔導師なんですよ。本来、この世界の人間は魔力を持っていない。つまり、無力の人間です。そして、魔法は時に人を癒し、時には人に襲い掛かる技でもあるんです。そして……」


 首にかけていたアクセサリーを見せる。


「これが転送装置『テレポーション』。魔導師のほとんどがこれを持っています。そして、この世界に入ることが許されるのはS級魔導師のみです。そして、この世界に来る理由は色々とあります」


 未だに魔法は解除せずに少女は話を続ける。


「今回私が依頼されたのは、悪魔退治です」


「悪魔退治? そんなの居るわけがないだろ。見たこともねぇ」


「ええ、それは視ることができないでしょう。貴方は今まで魔力を持っていなかったからです」


「今まで?」


「私がここに転送されたということはここに魔力検知されたという事です。それに魔法は誰もが視ることのできるものではありません。他にも悪の魔導師、材料捕獲、まあ、そんなところがこの世界の主な依頼ですね」


 少女が説明を終えると、和哉は一つ気づいたことがあった。


「ちょっと待て? だとすると、あんたが退治しに来た悪魔は今、どこにいるんだ?」


「それが……私も困ったことに敵の魔力を感知できていないんです。だけど、ここに転送されたということは、この近くのはずなんですが……」


 少女は、困った表情をすると、


 ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼


 ————な、なんだよ。馬鹿でかい大きな声は……。


「い、今のは⁉」


「はい、おそらく私が依頼された悪魔でしょう。簡単に正体を現してくれましたね」


 ————それにしてもこの悪魔、妙に今までの感覚が違いますね。もしかすると、術者が近くに……。いや、考えすぎでしょう。


「これは魔導師の仕事です。貴方には関係のない事、いいですかこの場から動かないでください。後は全て私が仕留めます」


「おい、ちょっと待て!」


 少女は、窓から外へ飛び出した。


 ————俺はただ、見ているだけの人間だというのか……?


 ————女の子が戦いに行っているのに俺は何の力にもなれないのか……‼


 和哉は、急いで学校のジャージを上に着るとすぐに一階に降りて靴を履き、家を飛び出す。



 ————さっきの人は一体……。


 少女は、屋根を飛び回り、悪魔の魔力を辿りながら近づいていく。



 和哉は彼女の後姿を追いながら走り続ける。近くでは悪魔の声らしき声が聞こえる。


 和哉は彼女よりも先に着いてしまい、悪魔が目の前にいた。


 ————こ、これは……。


 和哉は険しい顔をしてその場に立ち止まった。体が硬直して動けなかったのだ。


 見たことのない怪物。顔や胴体が大きくて、牙が鋭い。二足歩行の人間型の生物だった。

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