第3話  失われた魔法と無力の魔導師

3-1

 月が少しずつ半月になりかかっている頃————


 一人の女子が夜の街を歩いていた。


「今日も星や月がきれい……」


 黒いバックを持ちながら歩道をゆっくりと歩いていた。周りには人の気配が無く、こんな夜に一人の女の子が歩いているのは危険だった。



 土曜日のお昼ごろ————


「はぁ……。寝みぃ……。あの雲の奥に天空の城でもあるのかな……。あるなら行ってみてぇーし、でも無いんだろうな。あの川で釣りしたいけど、釣り竿や餌もなければ、入れるバケツもない。暇だ、暇すぎる……」


 和哉は文句を言いながら堤防の土手で横になりながら空を見上げていた。


 風が心地よく、太陽が小さな雲に隠れていた。


 すると、一人の少女の顔がいきなり目の前に現れた。


「和哉、何をしているんですか? さぼらないで下さい!」


「いいんだよ。こんな天気のいい日には……」


 和哉は声をかけてきた真彩にそう言うと、溜息をついた。


「ほら、見ろよ。雲の流れがゆっくりで日ごろの疲れを癒してくれるだろ?」


「そんな事よりも魔導師としての特訓を……ですね……。と言っても、あなたの場合、今まで見たことない魔法ですけどね。人の魔法をコピーするなんてチートもいいところですよ」


 真彩は額に手を当てて困った表情をしながら呆れていた。


「それにしてもどうして、あなたの魔法は人の魔法をコピーできるんでしょうね」


「知るかよ。俺にだって、未だにこの魔法を扱いきれねぇ―のに……」


 右手を上に突き上げて、手のひらを広げ、太陽の光を遮る。


「魔法は特訓すれば強くなったり、他の魔法を覚えることができるのか? でも、いくら努力したところで才能のある魔導師には勝つことは出来ない」


「それはどうでしょうか。いくら魔導師の能力がかけ離れていたとしても工夫などでその差を埋めてくる魔導師はいくらでもいます」


 真彩は真剣な目で和哉を見る。


「工夫ね……」


「そうです!」


「…………」


「…………」


 二人は黙りだす。微妙な空気が流れる。


「まあ、和哉の頭では無理な話ですけどね」


「そうだな」


「なんですぐに諦めの言葉が返ってくるんですか‼ 少しぐらいは反論とか返してくださいよ‼」


「どう反論すればいいんだ! ここまでコケに言われている本人がそう思っているからしょうがねぇーだろ‼」


 急に和哉と真彩は、喧嘩を始めた。



「この世界に来て、もう、五年も経ったんだ……」


 少女は休日の外の空気を吸いに堤防を歩いていた。


「でも、早く力を取り戻さないと本当にやばいかも……」


 そう考えていると、堤防の下にある芝生のグラウンドで顔見知りの男女二人が向かい合って何か話していた。


 ————あれは……。一ノ瀬君と白雪さん? そう言えば、白雪真彩って名前、どこかで……。


 少女は近くにあった小さな標識の陰に隠れて、少し様子を窺った。



「それでは我々、魔導師の世界について話しましょうか。魔法とは、決して悪として利用してもいいものではありません! つまり、魔の道を踏み外したものは決して許してはならないのです」


「……んなもんは分かってるよ。だから、今日までしっかりと真彩の言う通りに行動してきたじゃねぇーか」


 真彩はこの前この世界で買ったお気に入りの眼鏡をかけて生き生きと説明を始めだした。


「魔法には色々と違った能力を持った者がいます。まず、基礎的な知識として、地属性魔法、水属性魔法、火属性魔法、風属性魔法が主な四代元素です。他にも氷・雷・光・闇・聖・木・金・毒・無・精神・などがあります。まあ、もっとたくさんありますけど基礎的な魔法の属性はこれくらいでしょう」


「じゃあ、真彩が使う魔法は氷属性魔法。俺の使う魔法も氷属性魔法に入るんだよな」


「いや、それはちょっと違います!」


 難しい顔をする真彩は、ためらいながらも否定する。


「和哉の魔法は、氷属性も使うことは出来ますが、他にも私と出会ったときに相手の『肝洗い』を使いましたよね。もしかすると、和哉の魔法は失われた魔法『ロスト・マジック』の一つなのかもしれません」

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