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「あ、一ノ瀬君。おはよう!」
「ああ、赤舞、おはよう……。朝から誰の噂話をしているんだよ」
「一ノ瀬、おはよう。あんた、今日は早いご出勤だこと……」
「それはどうも……。今日の朝課外は何だっけ?」
「数学、あんた、毎週同じことをしているのにすぐに頭の中はリセットされるのね。それで勉強がそこそこできるって、ある意味皮肉よね」
紗耶香は、嫌味ったらしく遠回しに言ってくる。
「俺が訊きてぇーよ。それよりも上野は自分の席に戻らなくてもいいのか?」
「戻るつもりだったんだよ。あ、そうだ。話は戻るんだけど……今日、転校生がこのクラスに来るらしいよ。珍しいよね、本当に……」
「紗耶香ちゃん、そんな情報をいつもどこから手に入れてくるの⁉」
鈴鹿は自分が知っていない情報に驚き彼女に問う。
ゴールデンウィーク明けに転校生が来ること自体、異例中の異例である。それも一年の転校生となればなおさら疑問ばかりである。
「私の場合、こういった地味な情報取集がお得意なのよ。でもそのほとんどが無駄なあがきなんだけどね……」
紗耶香は立ち上がると、一列目にある自分の席に戻って行った。
朝課外は七時四十分から八時二十分までの約四十分間行われ、それからショートホームルームに移り、五分間の休み時間を経て、一限目が始まる。
ショートホームルーム————
担任の岡部が教室に入り、教卓の後ろに立つと朝の挨拶から始まる。
「起立、礼! おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
クラス委員長の号令に合わせて、他のクラスメイト達が頭を下げて朝の挨拶をする。
「はい、おはよう」
挨拶を返す岡部。
岡部は、今年で二十六歳になる。独身。彼氏無しの女教師である。担当は国語。
「連絡事項の前にこのクラスに新たに転校してくる転校生を紹介します。入ってきて!」
岡部がそう言うと、教室の扉が横にスライドされて開いた。
言われた転校生は教室の中に入ってくる。だが、和哉にとっては見たことのある少女だった。
あの紅蓮の炎ように赤髪。そして、あの胸のでかさ、スタイル、顔の美しさ。まさにあの日に出会った少女だ。
S級魔導師・
「今日からこのクラスに転校する白雪真彩さんです。白雪さん、自己紹介をお願いできる?」
「はい、分かりました」
『白雪』と言われた少女は、黒板に自分の名前を書き、振り替えって一礼する。
「今日からこのクラスに転校してきた白雪真彩と言います。父親転勤で、この街に引っ越すことになりました。今日から一年間、よろしくお願いします」
最後に愛想よく微笑むと、クラス中の男子たちは大盛り上がりしていた。
「悪魔だ……」
和哉は呆然としてその場に座ったまま頭を抱えた。
「じゃあ、白雪さんは……あそこでいいわね。一ノ瀬君の隣の席に座ってもらおうかしら」
「分かりました。一番後ろの席ですね」
真彩は返事をすると、和哉が座っている席の方へと近づいてくる。北高の女子のブレイザーを着ている。あの少女があの時の魔導師だと思うと、イメージしにくい。
「な、なんで白雪が……こ、こんな所に……」
「どうしましたか? 初対面ですよね?」
笑顔で念を押してくる。その威圧感の裏が怖い。自分が魔導師である事を言うなと言っているようにしか思えない。
「あ……うん……」
和哉は苦笑いをして、つい目を逸らした。
————な、なんでこんな所にいるんだよ! あの女、何しに来たんだ……ッ!
放課後————
和哉は屋上に真彩を呼び出していた。
「あの、一体なんで屋上に呼び出すんですか?」
「呼び出すも何も、なんで真彩がここにいるんだ? それにその制服は……何かエロすぎるだろ」
「エロくないです‼ この服は学校の指定制服ですよ! でも、可愛くていいじゃないですか!」
「そんなことはどうでもいいけど、なんでこの学校にいるんだ?」
「本当に話が変わりすぎですね……」
「とにかく、ここにいる理由を説明してくれ……。頭の中が整理できていないんだ」
「簡単に言えば、帰れることができないんです。理由はただ一つです。分かりますよね?」
真彩は和哉を指差す。
「俺? 思い当たる節があるような、無いような……」
「私が『賢者の石』を使って禁忌魔法を使ったからですよ!」
真彩は額に手を当てて深々と溜息をついた。
「⁉……そうだった……」
和哉の表情が一変して険しくなる。
「私もギルドに早く帰らないと本当にやばいですからね。魔法とは言え、禁忌魔法を使った物には評議委員会によって決断が下されます。その時、もし、向こうの世界に帰ってしまったらあなたの事を守れなくもなります」
「…………」
「ともあれ、ここにいる間は学生生活と共に魔導師の依頼もしますからお手伝いお願いしますね!」
「でも、その依頼とかはどうやって受理するんだ?」
「そこは私に考えというか、当てがあるので心配しなくても大丈夫です」
きっぱりという彼女は、本当に同級生かと思うと、物凄く大人びている。
「それよりも問題はあなたですよ、和哉」
「はぁ?」
「魔法を使えるようになったとはいえ、魔導師としては初心者なんですからこれからは私と共に依頼を受けてもらいます。もちろん、私のサポートとですが……」
腕を組みながら真彩がそう言った。
魔導師となれば、依頼もつきものである。RPGでは基本中の基本だ。だが、それはゲームの世界の事、これは現実だ。一体、本当の魔導師の依頼がよく分からないのが現状である。
————魔導師って、意外と面倒な職業だったりして……。
和哉は少し疑いの目を向けた。
「でも、魔法と言ってもこの街に被害とか無いわけがないだろ? それに俺はこの暮らしが結構好きなんだけど……」
「でも、向こうの魔導師に捕まったらあなた、次は本当に殺されてしまいますよ!」
「何‼」
真彩の言葉に和哉が驚く。
「当然ですよ。このままでは私もあなたも時間次第ではこの世から抹殺されます。だからこそ、今のうちに力をつけておく方が有効的です」
「なるほどな……。言いたいことは分かるが、だったら魔法を使わずに普通の人間として普通の暮らしを送ればいいだけだろ?」
和哉は扉の隣にある梯子を上り、真彩より上に立つ。
「……そうですか……」
真彩は声を低くし、右手に魔法陣を展開する。
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