おまけ 銀座いなりラジオ放送局 第一回
恵美子
「アーアー、聞こえますか。JO
望子
「え? 今から何が始まるんです? ていうか、このクソ狭い部屋はどこ? 恵美子さんは誰に向かって話しかけているのですか?」
恵美子
「望子さん、落ち着いてください。これはラジオ放送ですよ。私と望子さんが司会者となって、二十一世紀のみなさんに我々が生きている大正時代やこの作品についてご紹介していくのです」
望子
「に……二十一世紀⁉ な、なななな! ラジオの電波って、時をも超えるのですか⁉ す、凄い! ああ……ア〇ロ‼
恵美子
「ア〇ロって誰……?」
望子
「ラジオの電波で、未来の娯楽作品のネタが私の頭に……。気にせず、続けてください」
恵美子
「(やっぱ、この駄女神頭おかしいわ)……こほん、分かりました。日本の東京でラジオ放送が開始したのは大正十四年(一九二五)三月一日のことですので、作中の大正十三年(一九二四)八月時点ではまだラジオ放送は始まっていません。でも、まあ、あと半年ちょいの差ですしね。『細けぇこたぁいいんだよっ!』の精神でラジオ放送をお届けしたいと思います」
望子
「で、私たちは具体的に何をすればいいんです?」
恵美子
「慌てないでくださいよ、望子さん。ちゃんと色んなコーナーを作者の名月明が用意していますから。……というわけで、最初は、『その頃、史実では⁉』のコーナーです! いえーい、パフパフパフ~!」
***コーナー①その頃、史実では⁉***
恵美子
「このコーナーでは、私たちが作中で大騒ぎしていた頃(大正十三年、西暦一九二四年)、歴史的にどんなことが起きていたのか紹介していきたいと思います」
望子
「くっそおもろねーコーナーじゃないですか! そんなの歴史の教科書読めや!」
恵美子
「ああん?(威圧)」
望子
「い、いえ、何でもありません……」
恵美子
「まあ、小難しい政治の話はなるべく大きな事件だけにしておいて、文化方面の話でもしましょうか」
望子
「そうですね。そっちのほうが楽しそうです」
恵美子
「では、いきますね。まず、私が銀座にやって来る二か月前の六月。清浦圭吾内閣が総辞職して、憲政会・政友会・革新倶楽部の護憲三派が連立した加藤高明内閣が成立し……」
望子
「いきなり政治の話してるじゃないですかーーーっ‼ 小難しい話ヤダーーーっ‼」
恵美子
「あと、七月にはアメリカで排日移民法が実施され、日本での反米感情がうなぎのぼりしました」
望子
「お先まっくら‼(>_<)」
恵美子
「駐日フランス大使のポール・クローデルさん(有名な劇作家)は、お姉さんのカミーユ・クローデルさん(有名な彫刻家)の影響で親日家だったみたいですが、日本が国際的に孤立していくのを危惧していたみたいですね。私たちが銀座でどんちゃん騒ぎしている間に、国家間では色々ときな臭いことになっていたようです」
望子
「……まあ、実際にこの頃の日本は大変でしたからねぇ~。一年前(一九二三年)の九月には関東大震災がありましたし」
恵美子
「銀座の煉瓦街は壊滅、そしてほぼ全域で火災……。おおぜいの方が亡くなりました……」
望子
「あの時は本当に悲惨なことばかりでしたが、たくましい銀座の人たちは大災害にも負けてはいません。すぐに銀座復興に動きだしましたからね。芸術家さんたちがモダンなデザインのバラック建築で建てたお店が次々と登場して、震災からわずか二か月後の十一月十日には銀座で大売出しをして賑わいました!」
恵美子
「す、すごい……。みなさんの努力のおかげで、私が上京した頃にはお店がたくさん建ち並ぶまでになっていたのですね」
望子
「そうです! あと、震災後に登場した珍しい物といったら、『円太郎バス』ですね」
恵美子
「あっ、私が物語の冒頭で
望子
「あれはですね、見た目は素朴な乗り物ですが、帝都の交通問題を救ってくれた救世主なんですよ。実は、震災後に帝都の交通が麻痺しちゃったんです。もともと路面電車だけでは、たーくさん人間がいる帝都では交通が混乱ぎみで、みんな満員電車に悩まされていたんです。そんな時に震災がおきて、その路面電車すら壊れちゃった……。そこで、大量生産されていたアメリカのフォードTT型車を輸入して、帝都を走らせたわけです。
車掌には女性が採用されて、俗に言う『バスガール』が颯爽登場! みんなに大人気! 電車が復活した今でも円太郎バスは帝都を走っています
まあ、乗合馬車みたいな見た目で、乗り心地もすんごく悪いんですけれどね! でも、東京市民に親しまれたわけです。
あっ、あと、名前の由来は落語家の
恵美子
「あ……あの……望子さん? なんでそんなに円太郎バスに詳しいのですか?」
望子
「…………私も神社再興のお金もうけのためにバスガールになろうとしたのですが、『君みたいに
恵美子
「そ、そう……。強く生きてくださいね?
……あっ、あとあと八月には兵庫県にでっかい球場が完成しましたね! 『阪神電車甲子園大運動場』(甲子園球場)です! 収容人数は、およそ六万人! すごい!」
望子
「今年(一九二四年)から全国中等学校野球優勝大会の会場になったところでしたっけ。学生たちが試合をしている最中に観客がグラウンドになだれこんでパニックになるぐらい人気ですけれど、二十一世紀ではまだやっているのでしょうかね?」
恵美子
「野球だけでなく、今年(一九二四)は日本人のスポーツ選手が世界でも大活躍しました。パリ・オリンピックでは、織田幹雄選手が三段跳びで健闘して、日本陸上初の入賞(六位)を果たしたのですからすごい! 四年後のオリンピックでは金メダル取れちゃうかも⁉(←実際にアムステルダム・オリンピックで日本人初のオリンピック金メダリストになります)」
望子
「他に今年流行ったものとかありましたっけ?」
恵美子
「……そうですねぇ。あっ! 私が作中で着ていたアッパッパ(簡単服)が夏に流行りましたね。とても涼しいし、着物よりも断然動きやすいので、暑い夏にはやっぱり木綿のワンピースです! 私、田舎にいた時は着物ばかり着ていましたが、これからは洋服にも挑戦してみたいと思います!」
望子
「関東大震災後は女性が動きやすい洋服を着ることが以前より増えてきた、とは真庭さん(新聞記者)が言っていましたが、東京の街を歩く女性を見ても、まだまだ着物が多いですからねぇ~。
……でも、洋服を着るのは大変けっこうなのですが、ズロースをちゃんと履きなさいよ⁉ あなた、作中でノーパンだったでしょう‼」
恵美子
「……だ、だって、昔から日本にある腰巻だったら慣れていますが、ズロースって履き慣れなくて……。私以外の他の女性たちだって、洋装する時のズロースという下着にはまだ抵抗があると思いますよ?」
望子
「あのねぇ……。これは一九二四年から少し後の話になりますが、パンツを履かない女性たちがわんさかと百貨店に買い物に来るものだから、従業員たちが彼女たちの『落とし物』を掃除するのに大変だった……というエピソードがあるらしいですよ?」
恵美子
「パンツを履かない女性たちの『落とし物』って……。あっ! もしかして、毛……」
望子
「はい、ストーーーップ! そこまで!」
恵美子
「おっと、ここで作者さんが資料(井上章一氏著『パンツが見える。 羞恥心の現代史』 新潮文庫刊)を持って来てくれましたね。なになに……? 某デパートの掃除夫の体験談によると、一日平均五万本以上を掃除……」
望子
「声にあげて読むなっ‼ ていうか、わざわざ数えたんかい、その人!」
恵美子
「へぇ~。大変なのですねぇ~。風紀上、これからはズロースをなるべく履いたほうがいいのかもですね」
望子
「な、なんで他人事みたいな言い方なのですか? あなたも次回からはちゃんとズロース履きなさいね?」
恵美子
「いちおう気をつけますが、私が百貨店に行っても『落とし物』はしないと思いますよ? だって、我が家の女性の遺伝なのか、私は一本も生え……」
望子
「はーーーい終了ぉぉぉ‼ このコーナーはここで終了ぉぉぉ‼ 次のコーナーに行ってみよう‼」
***コーナー②実はあの名作が元ネタでした!***
恵美子
「この作品には『大正浪漫の恋を銀座と文学から味わう』という隠されたテーマがあって、大正期の私たちが親しんだであろう明治大正の文学作品、海外作品、そして愛にまつわる流行歌を登場させていく予定です。
それで、次のコーナーはですね、文学少女である私が作中で口走った台詞の中に様々な名作の名文、名台詞が隠れているのを探してみよう、というコーナーになります」
望子
「そういうのって、作者自ら種明かししたらかっこ悪いんじゃ……」
恵美子
「読者様の中で名月明をカッコイイと認識している方なんていないと思うので、別に気にしない! それではいってみましょう!」
〇第1話より
「返してくれなかったら、パイノパイノパイ! なんだとこん畜生でお巡りさんを呼んじゃいますよ⁉」
※解説……当時流行した東京節。「パイノパイノパイ」「なんだとこん畜生でお巡りさん」という歌詞がある。
〇第3話より
「
※解説……夏目漱石著『草枕』の冒頭の文。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」
〇第4話より
「To be or not to be, that is the question(生か死か、それが問題やん)……。」
※解説……シェイクスピア作『ハムレット』の有名なセリフ。
〇第6話より
「……
※解説……竹久夢二の詩『街灯』より抜粋。
〇第8話より
「人間よくなるも悪くなるも
※解説……泉鏡花著『通夜物語』の一文から。
〇第16話より
「いのち短し 恋せよ
朱き唇
あつき
明日の月日の ないものを」
※解説……当時流行した『ゴンドラの唄』の歌詞。
〇第17話より
「身も心も捧げ尽くすのが恋だ」
※解説……作中で恵美子が説明していた通り、ツルゲーネフ著『初恋』の台詞から。大正期に刊行された『ツルゲーネフ全集』の内容を確認することができなかったので、神西清翻訳(一九五二年、新潮文庫刊)の文章を参照。「これが恋なのだ、これが情熱というものなのだ、これが身も心も捧げ尽つくすということなのだ。」
〇第18話より
「高村光太郎という人が自費出版した『道程』という詩集に、こんな言葉がありました。『僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る』……」
※解説……恵美子が言っている通り、高村光太郎の有名な詩である。
望子
「こうやって振り返ってみると、大半、恵美子さんが作中で説明してくれていますよね……? 物語内に隠れている名作の名言を探してみようというコーナーなのに、ぜんぜん隠れてないじゃん‼」
恵美子
「
望子
「き、急に頭の良さそうな喋り方をしてどうしたんですか?」
恵美子
「夏目漱石先生の文章の癖で、彼は『甚だ』とか『頗る』を頻繁に使ったのです。夏目漱石ファンという設定が私にはあって、この漱石先生の文章の癖を真似して『甚だ〇〇です!』『頗る××じゃないですか!』という口癖が頻繁に出る予定だったんですよ」
望子
「……作中でそんな台詞、言ってませんよね?」
恵美子
「はい。作者がすっかり忘れていて、今思い出しました。そう、この文章を書いているたった今」
作者
「甚だ遺憾! 頗る反省!」
望子
「本当に反省しろっ‼(>_<)」
恵美子
「第二幕からは積極的に使っていこうと思います(キラーン☆)」
望子
「……何だかぐだぐだになってきましたね。今回はそろそろ終わりにしましょうか。で、第二幕はいつ連載開始するんですか?」
恵美子
「ええとぉ~……。作者いわく『この小説は頭すっからかんな内容のわりに執筆するのに時間がかかるから、ちょっと待って』とのことです。いちおう全部書き上げてから連載したいらしいですよ?」
望子
「ええ~⁉ じゃあ、次回予告とかはどうするんですか?」
作者
「じゃあ、大ざっぱだけれど予告しておきますね?
次回、望子ちゃんが死にます!!!」
恵美子&望子
「な、何だってぇぇぇぇぇぇ⁉」
銀座いなりラジオ放送局第一回おわり
また聴いてね!
愛を唄え♪銀座いなりの恋占おかし噺 青星明良 @naduki-akira
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