その前世は無意味でなく、この転生は易くない。

 人生ハードモード、という言葉ばかり使ってしまったのですが、容易くない二度目の人生がドラマティックであり残酷であり、だからこそ自分の足で進んでいく物語の構図に引き込まれていきます。

 異世界転生(あるいは転移)モノのなかには、前世の職業や記憶を生かし、転生先でスローライフを送ったり無双したりするものが多いかと思います。それもひとつのエンターテイメントだとは思うのですが、今作の「前世が転生先でも重要な意味をもつ」ところが私はとても好きです。新しい人生を歩むだけだと、どうしても前世の自分を踏み台のようにしてしまいがちです。でも主人公のカイリには前世の記憶があるだけではなくて、前世で使っていた日本語が転生先でもとある役割をもって使われていたり、前世の人間関係に意味深なものを見出だしたり。前世のうまくいかなかった自分もなかったことにはしない、前世があるからこそ今のカイリたちがいる、という物語のつくりが好きです。
 つまり、このお話は人生の延長線みたいなものだから、当然人生イージーモードみたいなことにはならないし、悩みや葛藤ももしかすると前世以上のものが待ち受けているわけで。正直見ていて痛々しいところもありますが、それでも前に踏み出そうとするカイリに胸を打たれます。

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